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偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者と供血狩り その14
しおりを挟むブラッドポーション(改)。
俺の血を混ぜたそれは、従来の物とは比べ物にならない恩恵を吸血系の力を宿した者にもたらす代物と化した。
そんなポーションを今、飲まされようとしているメィ。
間違いなく、これからやることにそれを飲むことは必須なのだが……嫌そうである。
「ねぇ、メィお姉ちゃん。本当に嫌なら、私も勧めたりしないよ。何か理由があるなら、その改善に取り組むのも考える……だから教えて、何がダメなの?」
「そ、れは……その」
「ん?」
「…………分かった、飲む」
言いたくはない、メィの気迫がそう物語っていた。
だが、それと同じくらいの覚悟が彼女にはあるようで……ポーションを握り締めた。
「別に……これは悪くない。悪いのは……自分だから」
「えっと、それってどういう──」
「!」
俺の問いに答える間もなく、メィは蓋を取り外してブラッドポーションを飲み干す。
地面に落ちる瓶、コロコロと音が鳴り響く中……メィの様子がおかしくなる。
「…………」
「え!? えっと、メィ……お姉ちゃん?」
「……はむはむ」
「ひぅ! やめ、そこ……こそばゆっ」
ほとんど無言で俺に近づくと、首の辺りに顔を埋めて甘噛みをし出した。
牙は立てていないので、吸血行為ではないようだが……むず痒いため声が出てしまう。
普段の俺であれば、美少女からのこんな行為に祈りを捧げていたかもしれない。
だがこれをメィが心から望んでやっていないというのであれば、話はまったく別だ。
「もうっ──“異常取除”!」
「! ……やっぱり」
「やっぱりってことは……メィお姉ちゃん、自分が何をしたのか分かっているの?」
「……私は、血に酔うとこうなる」
どうやら、子供の頃に両親から酔う危険性について学んでいたらしい。
今回は聖魔法で振り払ったが、当時は母である人魚の歌で抑えられたようだからな。
そんな若かりし頃(今も充分だが)の確認で、噛み癖があることを知ったんだとか。
詳細は少々はぐらかされてしまったが、要するに無力化してしまうわけだな。
「ま、まあ……えっと、アレだよ。今回やそのお母さんといっしょだった時みたいに、対処をしておけばいいってことだよね? あっそうだ、ポーションの効果は続いているはずだし、早くやっちゃおうよ!」
「……このモヤモヤを、全部籠める」
「ほ、ほどほどにね」
「[マリーナ]──『満ちよ』!」
メィが粗相(?)をしてしまったが、もともとブラッドポーションを飲んだのは、それが無いと彼女の身力が枯渇するような事象を引き起こすためだ。
彼女は握り締めた細剣型の聖剣を、勢いよく扉へと突き刺す。
膨大な魔力と聖気を放つそれは、見事に貫通して扉の奥へと届いた。
そして、彼女の言葉を鍵として海聖剣としての真価を発揮。
──膨大な量の海水が、扉の先に雪崩れ込むのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
──『海聖剣[マリーナ]』。
聖剣でありながら、海に関する適性があれば魔物であろうと使うことができるという、特殊なコンセプトを基に造られた一振り。
ゆえに吸血鬼であるメィでも、母方の血が海への適性をもたらし聖剣を振るえる。
そして聖剣そのものの力は、そんな海への適性を引き出して海水を生み出すもの。
海水で強い効果を発揮する海魔法の触媒にするも良し、自身が中に潜ることで水中戦をするも良し……まあとにかく、海関係に強い聖剣と言えよう。
「──“聖結界”っと。ふー、やっぱりとんでもない聖剣になったねー」
結界を空気確保用の容器として用い、流れ込んできた海水から免れる。
メィの方は人魚の血が呼吸を確保しているので、あえてそのまま放置した。
扉は海水の圧に負け、見るも無残な姿に成り果てている。
当然、中の者たちも……と言いたいところだが、そちらは問題ない。
現実にも存在する塩分濃度が高い海、死海のような海水を意図的に作ってもらった。
わざわざ重たい鎧でも付けていない限り、多少着飾っていても宙に浮かんでしまう。
「それじゃあ、調べていこうか。お姉ちゃんも手伝ってね」
『分かった』
海水操作能力もある海聖剣を使い、沈んでいた騎士たちを回収。
俺の前まで運んでもらうと、[血涙]に有無を判断してもらう。
アタリなら血を奪うし、そうでなくとも身包みを剥いで水面に送っていく。
結果、四十人くらいを調べて八人ほどが当たりだった。
問題はこの後……海上で待ち受けているであろう、真の強者たちについて。
そりゃあ、彼らの装備は軽量化されているので、沈んでいなかったのだ。
いや、重騎士みたいなのも居たかもしれないけど、少なくとも八人はそうじゃなかったので、もしかしたら有り余るパワーでどうにかしたかもしれないな。
「メィ、海水を操作して上の人たちが来れないようにしてくれるかな?」
『やってみる』
海水が渦を巻き、侵入を拒絶するような流れを形成しだす。
吸血鬼の水流弱体化など、ペフリの血には大した意味など無い。
なので物理的に侵入が困難になるよう、急激な速度で渦を回してもらっている。
……ついでに聖気を混ぜて、弱体化しないかという期待もしているけど。
だが、それは失敗に終わったようで。
帝城に突如開いた穴から、海水が一気に流れ出てしまっていく……うん、仕方なくとはいえ城を壊させることになり怒ってるな。
──まっ、それはそれとして、今起きている連中はほとんど制裁対象だし、思う存分やるとしますか。
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