上 下
2,388 / 2,518
偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と供血狩り その14

しおりを挟む


 ブラッドポーション(改)。
 俺の血を混ぜたそれは、従来の物とは比べ物にならない恩恵を吸血系の力を宿した者にもたらす代物と化した。

 そんなポーションを今、飲まされようとしているメィ。
 間違いなく、これからやることにそれを飲むことは必須なのだが……嫌そうである。


「ねぇ、メィお姉ちゃん。本当に嫌なら、私も勧めたりしないよ。何か理由があるなら、その改善に取り組むのも考える……だから教えて、何がダメなの?」

「そ、れは……その」

「ん?」

「…………分かった、飲む」


 言いたくはない、メィの気迫がそう物語っていた。
 だが、それと同じくらいの覚悟が彼女にはあるようで……ポーションを握り締めた。


「別に……これは悪くない。悪いのは……自分だから」

「えっと、それってどういう──」

「!」


 俺の問いに答える間もなく、メィは蓋を取り外してブラッドポーションを飲み干す。
 地面に落ちる瓶、コロコロと音が鳴り響く中……メィの様子がおかしくなる。


「…………」

「え!? えっと、メィ……お姉ちゃん?」

「……はむはむ」

「ひぅ! やめ、そこ……こそばゆっ」


 ほとんど無言で俺に近づくと、首の辺りに顔を埋めて甘噛みをし出した。
 牙は立てていないので、吸血行為ではないようだが……むず痒いため声が出てしまう。

 普段の俺であれば、美少女からのこんな行為に祈りを捧げていたかもしれない。
 だがこれをメィが心から望んでやっていないというのであれば、話はまったく別だ。


「もうっ──“異常取除リムーブ”!」

「! ……やっぱり」

「やっぱりってことは……メィお姉ちゃん、自分が何をしたのか分かっているの?」

「……私は、血に酔うとこうなる」


 どうやら、子供の頃に両親から酔う危険性について学んでいたらしい。
 今回は聖魔法で振り払ったが、当時は母である人魚の歌で抑えられたようだからな。

 そんな若かりし頃(今も充分だが)の確認で、噛み癖があることを知ったんだとか。
 詳細は少々はぐらかされてしまったが、要するに無力化してしまうわけだな。


「ま、まあ……えっと、アレだよ。今回やそのお母さんといっしょだった時みたいに、対処をしておけばいいってことだよね? あっそうだ、ポーションの効果は続いているはずだし、早くやっちゃおうよ!」

「……このモヤモヤを、全部籠める」

「ほ、ほどほどにね」

「[マリーナ]──『満ちよ』!」


 メィが粗相(?)をしてしまったが、もともとブラッドポーションを飲んだのは、それが無いと彼女の身力が枯渇するような事象を引き起こすためだ。

 彼女は握り締めた細剣型の聖剣を、勢いよく扉へと突き刺す。
 膨大な魔力と聖気を放つそれは、見事に貫通して扉の奥へと届いた。

 そして、彼女の言葉を鍵として海聖剣としての真価を発揮。
 ──膨大な量の海水が、扉の先に雪崩れ込むのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ──『海聖剣[マリーナ]』。
 聖剣でありながら、海に関する適性があれば魔物であろうと使うことができるという、特殊なコンセプトを基に造られた一振り。

 ゆえに吸血鬼であるメィでも、母方の血が海への適性をもたらし聖剣を振るえる。
 そして聖剣そのものの力は、そんな海への適性を引き出して海水を生み出すもの。

 海水で強い効果を発揮する海魔法の触媒にするも良し、自身が中に潜ることで水中戦をするも良し……まあとにかく、海関係に強い聖剣と言えよう。


「──“聖結界ホーリーバリア”っと。ふー、やっぱりとんでもない聖剣になったねー」


 結界を空気確保用の容器として用い、流れ込んできた海水から免れる。
 メィの方は人魚の血が呼吸を確保しているので、あえてそのまま放置した。

 扉は海水の圧に負け、見るも無残な姿に成り果てている。
 当然、中の者たちも……と言いたいところだが、そちらは問題ない。

 現実にも存在する塩分濃度が高い海、死海のような海水を意図的に作ってもらった。
 わざわざ重たい鎧でも付けていない限り、多少着飾っていても宙に浮かんでしまう。


「それじゃあ、調べていこうか。お姉ちゃんも手伝ってね」

『分かった』


 海水操作能力もある海聖剣を使い、沈んでいた騎士たちを回収。
 俺の前まで運んでもらうと、[血涙]に有無を判断してもらう。

 アタリなら血を奪うし、そうでなくとも身包みを剥いで水面に送っていく。
 結果、四十人くらいを調べて八人ほどが当たりだった。

 問題はこの後……海上で待ち受けているであろう、真の強者たちについて。
 そりゃあ、彼らの装備は軽量化されているので、沈んでいなかったのだ。

 いや、重騎士みたいなのも居たかもしれないけど、少なくとも八人はそうじゃなかったので、もしかしたら有り余るパワーでどうにかしたかもしれないな。


「メィ、海水を操作して上の人たちが来れないようにしてくれるかな?」

『やってみる』


 海水が渦を巻き、侵入を拒絶するような流れを形成しだす。
 吸血鬼の水流弱体化など、ペフリの血には大した意味など無い。

 なので物理的に侵入が困難になるよう、急激な速度で渦を回してもらっている。
 ……ついでに聖気を混ぜて、弱体化しないかという期待もしているけど。

 だが、それは失敗に終わったようで。
 帝城に突如開いた穴から、海水が一気に流れ出てしまっていく……うん、仕方なくとはいえ城を壊させることになり怒ってるな。

 ──まっ、それはそれとして、今起きている連中はほとんど制裁対象だし、思う存分やるとしますか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...