2,387 / 2,519
偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者と供血狩り その13
しおりを挟むようやく見つけた血を宿した騎士。
俺はメィの後ろで暗躍+支援を行いつつ、血を回収する機会を狙っていた。
「うーんとね……“聖槍”」
《──“串刺血杭”》
「血の棘」
「無駄だ!」
血が馴染んでいるのか、俺が今まで相対したどの被験者よりも強くなっている。
聖魔法も血魔法も関係なく、吸血鬼の膂力だけですべてを吹き飛ばしていた。
そして、その勢いのままこちらへ突っ込んでくる。
すぐにメィが俺を庇うように、その手にした剣で騎士の攻撃を防いだ。
「くっ……この忌々しく思う感覚、まさか聖剣か!? 吸血鬼がなぜそれを扱う!」
「……理不尽のせい?」
なぜ疑問形、そしてなぜ俺の方を見る。
彼女の握る細剣、『海聖剣[マリーナ]』はたしかに俺が打ち上げた物だけども。
半吸血鬼であり半人魚である彼女の性質を有効に使えるよう、細身でありながらかなり重くなっており、海から採れた特殊な鉱石でコーティングがされている。
まさに彼女用の一振りなので、聖剣であろうとも彼女を傷つけることは無い。
逆に吸血鬼狩りとして相対した吸血鬼に、その聖なる力を喰らわせることができる。
「だが、剣であれば負けるはずがない!」
《──“血陣乱舞”》
「血の刃。なら、そうはさせない」
「ふんっ、無駄なこと……なんだと!?」
これまでと同じように、血を剣で吹き飛ばそうとしていた騎士。
だが甘い……今回の触媒は、これまでの物とは違っていた。
お察しの通り、その血とは多少レベルを抑えた俺の血。
高い能力値を持つ俺の血なので、かなりの威力になるわけだ。
「くそ、邪魔だ!」
「そりゃあ当然でしょ。戦いなんだから、相手の思惑を邪魔するに決まってるじゃん。それも分からないなんて、こんな人を騎士にするなんてコーテーヘーカもバカなのかな?」
「…………私だけでなく、皇帝陛下にそのような物言い。貴様、ただで死ねると思うな」
「うわー、怖ーい。クソ雑魚おにーさん、図星突かれたからって怒らないでよー」
《──“血装”》
俺が煽っている間に、メィは俺が発動した魔法で血をその身に纏う。
そちらもまた、俺の血を使っているので格段に強化される。
そこからは騎士とメィによる接近戦。
細剣型の聖剣と重厚な騎士剣のぶつかり合いは、しばらく続いた。
「あはっ、やっぱり弱々おにーさんだ」
「…………」
メィの聖剣に傷をつけられ、かなり弱体化した騎士。
しかも血の鎖で縛られており、逃げ出そうとすればすぐにメィが対応する。
俺は後方から前に進み出ると、これまで手にしていなかった一振りの剣を取り出す。
禍々しいその剣は、この問題に対して一番の働きをしてくれる便利な──呪いの剣だ。
「それじゃあ、終わらせてあげるね。行くよ[血涙]──『絞り出せ』」
「な、なにを……がはっ!」
「はーい、チクッとしますよー」
ドクンドクンと剣が胎動し、赤い液体が剣に刻まれた溝を伝って取り込まれていく。
抵抗できない騎士は、その液体が流動すればするほど存在の格が弱まっていった。
やがて、液体の流動が収まったとき。
そこに残されていたのは、死にかけの痩せこけたミイラだけ。
俺は剣を引き抜くと、それを一瞥したあとは次の作業に移行していた。
剣を軽く振り、小瓶を切っ先に向ける……すると赤い液体が再び戻ってくる。
その量は吸った総量に比べれば、微々たるものだった。
だがその少量こそが、騎士を強くしていた権化そのもの。
「ふんふん、血は返してもらったよ。これからは、真っ当に生きるんだね」
「…………」
「って、もう返事なんてできないか……メィお姉ちゃん、大丈夫だと思う?」
「たぶん。うん、いいと思う」
その血液こそ、真祖の吸血鬼であるペフリから奪い取ったもの。
メィもその辺は知っているからこそ、騎士に対して同情をしないのだろう。
呪いの剣も、その血が自分にとって極上な物であることは理解している。
だがそれ以上に、俺から血を奪ったときにどうなるかを理解しているから従順なのだ。
実際、血の保有者から奪った分に関しては別にどうしてくれても構わない。
……もちろん、俺に隠れてペフリの血を取るなら容赦なく破壊するけどな。
◆ □ ◆ □ ◆
再び扉の前で小休憩を取る俺たち。
中に入ったら戦闘間違いなし、向こうももしかしたら待機している可能性が高い。
「だから準備をしたいんだけど……メィお姉ちゃん、聖剣の力は使える?」
「……使うの?」
「なんでそんなに嫌そうなのかな……そりゃあ、消費は激しいけど。ちゃんと回復する手段はあるよね?」
「うっ……あ、アレを使うのは」
吸血鬼にとって、格段に回復する物──それはやはり血である。
そして彼女には、俺の血が少しだけ含まれたブラッドポーションを渡してあった。
だがうちの吸血龍姫フィレルもだけど、全然それを使おうとしないんだよな。
まあ、フィレルの場合はそれを飲むと酔う場合が多々あったからだが。
メィの場合、その理由がそこまではっきりしていなかったのだが……さすがに今回ばかりは、使わないといけないと思うんだがな。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる