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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と供血狩り その13

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 ようやく見つけた血を宿した騎士。
 俺はメィの後ろで暗躍+支援を行いつつ、血を回収する機会を狙っていた。


「うーんとね……“聖槍ホーリーランス”」
《──“串刺血杭ブラッドツェペシ”》

「血の棘」

「無駄だ!」


 血が馴染んでいるのか、俺が今まで相対したどの被験者よりも強くなっている。
 聖魔法も血魔法も関係なく、吸血鬼の膂力だけですべてを吹き飛ばしていた。

 そして、その勢いのままこちらへ突っ込んでくる。
 すぐにメィが俺を庇うように、その手にした剣で騎士の攻撃を防いだ。


「くっ……この忌々しく思う感覚、まさか聖剣か!? 吸血鬼がなぜそれを扱う!」

「……理不尽のせい?」


 なぜ疑問形、そしてなぜ俺の方を見る。
 彼女の握る細剣、『海聖剣[マリーナ]』はたしかに俺が打ち上げた物だけども。

 半吸血鬼であり半人魚である彼女の性質を有効に使えるよう、細身でありながらかなり重くなっており、海から採れた特殊な鉱石でコーティングがされている。

 まさに彼女用の一振りなので、聖剣であろうとも彼女を傷つけることは無い。
 逆に吸血鬼狩りとして相対した吸血鬼に、その聖なる力を喰らわせることができる。


「だが、剣であれば負けるはずがない!」

《──“血陣乱舞ブラッドダンス”》

「血の刃。なら、そうはさせない」

「ふんっ、無駄なこと……なんだと!?」


 これまでと同じように、血を剣で吹き飛ばそうとしていた騎士。
 だが甘い……今回の触媒は、これまでの物とは違っていた。

 お察しの通り、その血とは多少レベルを抑えた俺の血。
 高い能力値を持つ俺の血なので、かなりの威力になるわけだ。


「くそ、邪魔だ!」

「そりゃあ当然でしょ。戦いなんだから、相手の思惑を邪魔するに決まってるじゃん。それも分からないなんて、こんな人を騎士にするなんてコーテーヘーカもバカなのかな?」

「…………私だけでなく、皇帝陛下にそのような物言い。貴様、ただで死ねると思うな」

「うわー、怖ーい。クソ雑魚おにーさん、図星突かれたからって怒らないでよー」
《──“血装ブラッドアームズ”》


 俺が煽っている間に、メィは俺が発動した魔法で血をその身に纏う。
 そちらもまた、俺の血を使っているので格段に強化される。

 そこからは騎士とメィによる接近戦。
 細剣型の聖剣と重厚な騎士剣のぶつかり合いは、しばらく続いた。


「あはっ、やっぱり弱々おにーさんだ」

「…………」


 メィの聖剣に傷をつけられ、かなり弱体化した騎士。
 しかも血の鎖で縛られており、逃げ出そうとすればすぐにメィが対応する。

 俺は後方から前に進み出ると、これまで手にしていなかった一振りの剣を取り出す。
 禍々しいその剣は、この問題に対して一番の働きをしてくれる便利な──呪いの剣だ。


「それじゃあ、終わらせてあげるね。行くよ[血涙]──『絞り出せ』」

「な、なにを……がはっ!」

「はーい、チクッとしますよー」


 ドクンドクンと剣が胎動し、赤い液体が剣に刻まれた溝を伝って取り込まれていく。
 抵抗できない騎士は、その液体が流動すればするほど存在の格が弱まっていった。

 やがて、液体の流動が収まったとき。
 そこに残されていたのは、死にかけの痩せこけたミイラだけ。

 俺は剣を引き抜くと、それを一瞥したあとは次の作業に移行していた。
 剣を軽く振り、小瓶を切っ先に向ける……すると赤い液体が再び戻ってくる。

 その量は吸った総量に比べれば、微々たるものだった。
 だがその少量こそが、騎士を強くしていた権化そのもの。


「ふんふん、血は返してもらったよ。これからは、真っ当に生きるんだね」

「…………」

「って、もう返事なんてできないか……メィお姉ちゃん、大丈夫だと思う?」

「たぶん。うん、いいと思う」


 その血液こそ、真祖の吸血鬼であるペフリから奪い取ったもの。
 メィもその辺は知っているからこそ、騎士に対して同情をしないのだろう。

 呪いの剣も、その血が自分にとって極上な物であることは理解している。
 だがそれ以上に、俺から血を奪ったときにどうなるかを理解しているから従順なのだ。

 実際、血の保有者から奪った分に関しては別にどうしてくれても構わない。
 ……もちろん、俺に隠れてペフリの血を取るなら容赦なく破壊するけどな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 再び扉の前で小休憩を取る俺たち。
 中に入ったら戦闘間違いなし、向こうももしかしたら待機している可能性が高い。


「だから準備をしたいんだけど……メィお姉ちゃん、聖剣の力は使える?」

「……使うの?」

「なんでそんなに嫌そうなのかな……そりゃあ、消費は激しいけど。ちゃんと回復する手段はあるよね?」

「うっ……あ、アレを使うのは」


 吸血鬼にとって、格段に回復する物──それはやはり血である。
 そして彼女には、俺の血が少しだけ含まれたブラッドポーションを渡してあった。

 だがうちの吸血龍姫フィレルもだけど、全然それを使おうとしないんだよな。
 まあ、フィレルの場合はそれを飲むと酔う場合が多々あったからだが。

 メィの場合、その理由がそこまではっきりしていなかったのだが……さすがに今回ばかりは、使わないといけないと思うんだがな。


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