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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と供血狩り その12

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 帝国が誇る四大騎士『四刃の将』。
 その一人を下した俺は、メィの待つ来賓たちの避難所へ繋がる扉を潜った。

 その通路をさらに守るよう、何人かの騎士が配属されていた……が、こちらに関してはすでにこの場で倒れている姿が確認される。


「ああ、もうやっておいてくれたんだね」

「だから言った、全員寝たって」


 扉の陰が黒く染まると、そこから現れる蒼銀髪の少女。
 これまで話していた血染めの少女、そのさらに色が透き通った本体である。

 メィ、正しくはメィルド。
 半吸血鬼にして半人魚の吸血鬼狩り。
 両親を殺した吸血鬼を探し、帝国を訪れた少女と俺は契約をした。

 彼女に協力してもらい、俺もまた彼女に協力している。
 その証は彼女の装備であり、そしてとあるアイテムに示されていた。


「中にはもう入れる?」

「うん。すぐに入る?」

「そうだね、会話をしていても起きたりはしないんだよね」

「問題ない、熟睡している」


 そう言ったところで、内側から扉が開く。
 どうやら中にまだ分体を潜ませていたようで、そちらを動かして開けさせたようだ。

 俺とメィは扉から少し広い空間へ。
 そこには多くの着飾った人々が……一人として例外なく、心地よい表情を浮かべて眠りに着いていた。


「ああ、残念だなー」

「……残念?」

「いやほら、これってつまりメィが歌っていたってことでしょう? なかなか歌ってくれないし、久しぶりに聴きたかったなって」

「…………」


 ああうん、ジト目ですね分かります。
 メィの声は人魚の性質から、魔性の力を宿している。

 ゆえに歌を歌えば他者に干渉し、その内容に合わせた効果を生み出す。
 今回であれば子守唄を歌って、眠らせたのだろう。

 抵抗は聴いてしまった時点で、かなり難しくなる。
 継続的に抵抗判定を受け、自分から受け入れてしまえば成功率が向上してしまう。

 部屋の中を見て、楽団が楽器を握り締めたまま眠っている姿を発見。
 ……なるほど、安静にさせるため演奏するついでに仕込んだみたいだな。


「まあいいよ、歌についてはまた今度で。この部屋に血の持ち主は?」

「居なかった。本当に必要な人材はすべて、この先に」

「わざわざ『四刃の将』まで使って、ここを守らせていたのにね。ここをゴールと認識させて、下手人は満足するわけだねぇ──で、隠し部屋にはどうやって」

「こうやって」


 先ほど同様、俺たちが何をするでもなく分体が扉の先から何かしたのだろう。
 たしかに眠っている兵士が多い場所に、その道は開かれた。

 俺たちはその先へ向かう。
 彼女は腰に下げた剣を握り締め、俺は十字架を構える。

 隠し部屋を隔離するための防護壁が失われたことで、感知が可能になった。
 やはりこの先には、血を保有して吸血鬼と化した者が潜んでいるようだ。


「そうだ、いっそのことメィはあの恰好をしてみる?」

「……え゛っ?」

「だからほら、これとこれを着けて──似合うと思うよ、『吸血詩人』さん?」

「…………」


 それはかつて、帝国の夜で暗躍した吸血鬼に与えられた二つ名。
 その正体は、俺が操る血魔法をさも自分が使っているかのように演技をしていたメィ。

 彼女自身は最初に歌うだけ、あとは本当に俺の指示通りに動いていた。
 ……だがそれでも、大衆の認識的に有名な存在だからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 そんなこんなで、仮面の詩人と幼女の修道女という謎のコンビができてしまった。
 ……あまりにもシュールだが、まあこちらの世界的にはギリありそうだな。

 そんな俺たちの前に立ちはだかるのは、扉の守護者という任を与えられた騎士。
 どう見ても『四刃の将』よりも格好で劣る彼、だが内包する力はそれ以上だ。


「──貴様ら、ここから先へは通さん」

「血の反応があるね……当たりだ」
「…………」

「じゃあ、始めようか。お姉ちゃんも、お願いするね」
《──“無限血鎖ディ・エヌ・エー”》

「……血の鎖」


 メィのため、血魔法の制限を解除して使用可能にした。
 俺が発動したその魔法を、彼女がそれっぽく演技をして代行してくれている。

 なおその間、俺は十字架を握り締めてひたすら祈り続けているだけ。
 別に聖属性魔法の支援を行ってもいいのだが、別に必要としていないからな。

 彼女の『魔法鞄マジックバック』に貯蓄されていた血が溢れ出し、鎖の形を成して騎士を襲う。
 騎士はそれに対してただ剣を振るった──凄まじい衝撃が、鎖を破壊し尽くす。


「此度の侵入者、そして『吸血詩人』……狙いはやはり、この力か」

「そもそも借りものなんだから、本来の持ち主に返してあげてもいいんじゃない? ほらそういうの、騎士のルール的にどうなの?」

「この国の物は皇帝陛下の物、そして皇帝陛下より下賜された物は我々に所有する権利が与えられる。つまり、本来の持ち主とは皇帝陛下のことであり、貴様の語る何者かなど存在しない」

「う、うわぁ……なんという暴論。まあ、それならそれで別にいいけど。結局、やることは変わらないわけだしね」


 十字架の色は白。
 相手は吸血鬼……たとえ聖属性に耐性はあろうと、ただの人族よりは通用する。

 ──さぁて、採血を始めましょうか。


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