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偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者と供血狩り その10
しおりを挟む俺の挑発に乗る、少々マナーのなっていない祈念者が一人。
だがソイツを利用して、俺(妖女)に関する情報を手に入れようとしている周囲。
……眷属ならそういうのも真面目に対応するかもしれないが、今回は有り余るスペックで強行突破します。
「このクソガキ! 大人には勝てないってことを見せてやる!」
「……逆にこの方が、清々しいのかもしれないね──“生命根絶”」
黒い十字架を握り締めて祈る。
修道服の補正もあって、その影響はこの場すべてに届いていった。
「はっ──」
『ッ……!!』
邪悪魔法の中でも、極めて悪辣な魔法。
その魔法の影響を真っ先に受けたのは、俺のすぐ傍に居た件の祈念者。
彼が突如として死に戻りする姿を見て、さまざまな方法で対処しようとする周囲。
だが、一瞬で広がる魔力の波動が彼らの抵抗すべてを拒絶していく。
「クソ雑魚おにーさんたちにも分かるように教えてあげると、“生命根絶”は細胞が死滅していく魔法なんだ。対処方法はただ一つ、死滅を超える速度で回復すること……って、もう誰も聞いてないか」
俺が説明を終える頃には、すでに誰もこの場に残っていなかった。
耐性スキルや回復で時間を稼いでいた、そういった者たちへ向けた情報だったのだが。
彼らもまた、「教えてあげると」の辺りでもう死に戻りのエフェクトが出つつあった。
高い能力値と修道服の補正、それらの相乗効果で魔法の性能が向上していたからだ。
だが彼らは、すぐにでも死に戻りをしてこの場に戻ってくるだろう。
……ゆえに俺は、準備していたある魔法を発動する。
「さてと。実験は済んでいるし、始めるとしますか──“祈賤失墜”!」
それはかつて、リーに依頼して製作してもらった完全オリジナルの魔法。
眷属たちが解析して作り上げた理論を基として、スキルで創造した呪いの魔法。
体系的には闇や支援の魔法に該当するこの魔法へ、修道服の補正がさらに上乗せ。
結果、本来の効果以上に広がった魔力は帝城そのものを包み込む。
「まだ死に戻りをしないで待機している人、ちょっと遅かったね……まあでも、恨むならその選択そのものを恨んでよ」
待機時間を利用し、俺の情報を暴こうとしていた者は居ただろう。
だがすぐに死に戻りをしていたら、まだ間に合ったかもしれない。
この魔法、“祈賤失墜”の影響を受けるのは祈念者のみ。
正確には、死に戻りの待機時間中の祈念者だけがこの魔法の影響下に入る。
今頃彼らを包み込む──あるいは蝕むように魔力が迫っていることだろう。
無防備な霊体を晒す彼らは、それを防ぐことができない。
それによる変化は明確、死に戻りを即座に行うという選択肢がUIから消えるのだ。
焦っていることだろう、なんせそんな事態今まで一度として無かったのだから。
たとえクエストやイベントであっても、自分たちの優位性を奪うことはできない。
だからこそ、死んでから傍観などという行いができていた。
「そしてもう一つ。本来なら死んだら粒子になって消えるアバターだけど、死に戻りで完全にリセットされていない限り、まだこの場所に残留しているんだよ。だからそれを、私が有効活用する──“再回粒帰”」
お次に発動した魔法は、この場で死亡した祈念者のうち死に戻りを行えていない者を対象とした魔法。
魔力が再びこの場を駆けると、死に戻り時のエフェクトがまるで時間を遡るように再び集まり肉体を再構築していく。
だが彼らは目を開かない。
そこに宿るべき魂は、未だにこの地に縛り付けられているのだから。
「はーい、ここで問題でーす。宿るべき魂を失ったレベルの高い器、そして邪悪魔法を使いこなす術師。この後いったい、何が起こるでしょうかー? なお、正解者にはこの魔法のデメリットを教えまーす」
まあ、俺に彼らの声を聞く術は……あるにはあるが使う気が無いので分からないけど。
ちなみに答えは──二回も間髪入れずに死ぬので、経験値がごっそり減ることだな。
◆ □ ◆ □ ◆
世にも珍しい、祈念者のアンデッドが帝城の中で暴れ回っている。
死んでできなくなったことは多いが、純粋に高い能力値で暴れるだけで厄介だしな。
いちおうデスペナ状態という判定で、弱体化をしてはいる。
おまけに憑依させた死霊では肉体を操り切れないため、高度な技などは使えない。
「祈念者の魂はね、あらゆる適性を持つ特別な物だからね。それを使って動かすアバターも特別製で、普通の死霊程度じゃ簡単には操れないんだよ」
それらの情報元は、当然うちのマッドサイエンティスト。
魂魄の研究家は、夢現祭りからより高度の理論を発展させてきたからな。
それによると、触媒としても最適で特に神様関係で『使える』ものとなるらしい。
……これこそが祈念者の使用用途、まああくまで最終的なではあるが。
「まあ、安心してよ。このアバターを破壊されたら、同じことはもうできないから。クソ雑魚おにーさんたちは、これが破壊されることを祈っているといいよ♪」
……同じことはできないが、さらに劣化させれば復元は可能だけども。
だがこの情報は隠しておいた方がいい、やり過ぎは厳禁だからな。
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