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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と供血狩り その09

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 祈念者三人組の次は、自由民の兵士たち。
 俺の行動は“聖域サンクチュアリ”の発動、その結果──


「おりょ、数人かぁ……」

「お、おい……貴様、何をした!?」

『が、ぐあぁああああああああああ!!』


 俺を取り囲んでいた兵士のうち数人が、突然頭を抱えて苦しみだした。
 逆に他の者たちには、更なる活力を与えているはずなんだけどな。


「ねぇねぇ、そこの一番声が大きいおじさんに聞きたいんだけど」

「な、なんだ……お、おじさん……」

「苦しんでるのって、もしかしてみんなコーテーヘーカに何かを貰ったんじゃない?」

「…………そういえば、たしかに。いやいやいや、だから何だというのだ!」


 物凄く関係あるじゃないですか。
 当然、聖なる領域で苦しんでいるのだからお察しだろう。

 彼らの共通点、それは何らかの形で目を付けられてナニカ──いや、血を与えられたという一点に尽きる。


「──“聖拘束ホーリーバインド”」

『────ッ!?』

「お、おい……」

「あえて何もしてないんだから、クソ雑魚おにーさんたちも手伝ってよ。まったく、これだからおじさんはぁ」

『お、おじ……』


 少々哀愁を漂わせながらも、彼らは魔法で拘束されたことで藻掻く兵士を抑えていく。
 そして俺はというと、注射器型の魔道具を取り出して──勢いよく突き刺した。


「これは特別な魔道具で、ある血液に反応して効果を発揮するんだ。クソ雑魚おにーさんたちの中にある、その血だけを吸い出して、元の状態に戻してくれるの」

「! 様子が……」

「あんなになっていたのは、クソ雑魚おにーさんの中で血が過剰反応を示していたから。その原因が無くなった以上、“聖域”の中だからすぐに良くなると思うよ」


 相手は自由民なので、俺も適切な配慮をしているつもりだ。
 ……目的の血を持っていた彼らには、少々苦しんでもらったけども。

 そうして血──ペフリの血を吸血鬼化していた兵士たちから回収していく。
 幸い、ここに居る連中はまだ“聖域”で過剰に暴走する程度の階級だったようで。

 先祖返りの真祖ペフリ、その固有スキルである【義血団】。
 それを利用した帝国は、彼女の血をさまざまな者へ分け与えた。

 結果として、血を受け取った者たちは意識無意識問わずに吸血鬼化している。
 だが固有スキルの影響もあり、半ば人族の状態を維持している特殊な状態だ。

 そのため、血の濃度と本人の資質によってはペフリ自身のハイスペックさを体現し、聖属性だろうが平然として居られる怪物が誕生してしまう。

 今回はそこまで血を与えられていない兵士だからよかったが、かつては騎士にそれなりの血を注いで強化を図っていたりもした……ソイツに今回の方法は効かなかったはずだ。


「よしよし、クソ雑魚おにーさんたちからきちんと血を集められたよ。おじさんたち、手伝ってくれてありがとうね」

「貴様……君は、何者なんだ?」

「うーん。吸血鬼みたいなものかな? 私はただ、この血が欲しいだけだから」

「それを、どうするつもりなんだ」

「別に私が飲むわけじゃないよ。まあ、これ以上は秘密ってことで──“聖拘束”!」


 あからさまに派手な光が、残っていた兵士たちを纏めて包み込む。
 十字架に祈りを捧げた後、俺は彼らにこう伝える。


「おじさんたちは、私に縛られて何もできなかった。だから仕方がない……よね?」

「……ああ、そうだな。我々では、この拘束は解きようが無いみたいだな」

「とっても頑丈だから、外側からは壊せないと思ってね♪」

「ああ、承知した。外側からは、壊せないようだな」


 その言葉が意味することはお察しの通り、彼らに責任も少しは減るだろう。
 ゼロとは言わないが、丸々処刑みたいなことにはならない……といいな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 祈念者たちが再び集まりだした。
 いつの間にやら、メスガキ聖女なる呼ばれ方をしてくるのだが……間違いなく、あの三人の仕業だな。

 修道服を着たのは、帝城へ潜り込んだ後。
 あの連中め……くっ、次に会ったら容赦しないぞ。


「ふーん、こんなか弱い女の子に寄って集って……クソ雑魚おにーさんたち、プライドが無いんだね」

「はっ、どうとでも言えよ。だいたい、レベルがどれだけあるんだよテメェ。250より上なんて聞いたことないぞ!」


 祈念者の一人がそう叫ぶ。
 別に居ないわけじゃないが、そういった連中は基本的に世俗に関わらないからな……。

 また、それだけの実力者は神々に目を付けられている場合が多い。
 現に封印の島が存在し、そこに多くの者たちが居たわけだしな。


「それはクソ雑魚おにーさんの世界が、とっても狭いからだよ」

「あ゛ぁ?」

「だってそうでしょ? キメラのイベントで最後に物凄いヤツが最後に出てきたのに、どうしてそれのことを言わないの? あー、分かった! クソ雑魚おにーさん、弱過ぎてそこまで参加できなかったんだね!」

「! こっの、クソガキが!」


 彼の言動はバカみたいだが、それは相手から情報を吐き出させるのに最適だ。
 だからこそ、他の者たちもあえて彼を放置しているわけだな。

 ──まあ、こういうのもまた、立派な情報戦というヤツだ。
 だが俺はそういうの得意じゃないし、そのままごり押しさせてもらおうか。


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