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偽善者と儚き夢物語 三十八月目
偽善者と供血狩り その08
しおりを挟むなぜだろう、メスガキムーブをまるで息をするかのようにしてしまった。
俺が行った加護停止の魔法を止めに来た祈念者が、俺を『分からせ』ようとしている。
……いやまあ、一度オスガキならやったことがある気がするけども。
あとAFOは基本的に倫理コードがあるので、普通ならそこまで酷い目に遭いません。
「ザーコザーコ♪」
普段、素で発言するとキレる連中はよくいるのだが、今の状態だと少しの発言で一分野の人間がかなり興奮するんだよな。
なお、怒るではなく興奮。
……正直精神面までメスガキにはなっていないので、そういう溜まったものの発散は他所でやってもらいたいです。
畏怖嫌厭の邪縛、そして全然嬉しくないが天性のワードセンス。
そこにちょっぴりの『魔声』を加えるとあら不思議、『分からせ』たくなるわけだ。
「この、生意気なガキが!」
「……あのさぁ、こんな場所に一人で来れるのに、ただの女の子なわけないじゃん」
「! なん、だと……!」
相手も帝城へ招かれるような優秀な祈念者なので、ほんの少しの加減を交えて俺を瞬殺しようとした……が、攻撃は俺に当たらず空振りする。
妖女になってもスペックはそのまま、そのうえでアイの修道服を纏っているためレイドボス級ぐらいに俺は強い。
まあ、馬鹿正直にそんな力を振るえば面倒事になるのは間違いないので、これまたいつもお世話になっている実力偽装スキルで程よくバランスは調整しているけどな。
「超級職、固有スキル、それとも特別なアイテムかな? クソ雑魚おにーさんたちって、もしかして私より強いって思いこんじゃってたのかな? きゃはっ、鑑定できない時点で自分たちがクソ雑魚だって分かってよね♪」
『……!!』
クソ雑魚おにーさんこと、三人組の祈念者たちを改めて観察する。
全員があからさまなほどに黒尽くめの恰好である……リヴェルの同類だな。
アイツの場合は固有スキルと武器が強かったが、彼らの場合は何だろうか。
実際、レベル以外であれば俺より優れている点などいくらでも見つかるだろう。
「おにーさんこちら、手の鳴る方へー♪」
少しだけ抑揚を変えて、三人組を煽るように走り抜ける。
彼らのうち一人が俺を追いかけ、他の二人はその場で何かを行う様子。
まっ、動かない方が悪いってことで。
十字架を横に持ち、銃として扱う……そしてそこに魔法を籠めて射出する。
「ふふーん、隙だらけー──“不遜”!」
「! おい、大丈夫か!?」
「……特に、なんともない?」
「はっ、バカが。やはりメスガキか!」
「──いや待て、お前ら状態異常に『不遜』と出てるぞ!」
おっと、追いかけているヤツが状態異常から免れてしまったか。
彼の言った通り、邪悪魔法“不遜”はその名の通り『不遜』を与えるデバフ魔法だ。
そしてその効果は傲り、相手に対し常にどこかで歪んだ思考を抱いてしまう。
要するに、舐めプしたくなるという地味に嫌な魔法である。
先ほどの件で説明するならば、言われるまで自分たちが『不遜』の状態異常に掛かっていたことに気づかない……いや、気づくための思考が取れないのだ。
「すぐにポーションを……くっ!」
「ポーション? 何を言っている、そんな物不要だろう」
「そうそう、メスガキ程度に使ってしまうなどもったいないだろう」
「きゃー、こわーい」
「「──ふっ、絶対に分からせてやる!」」
なんとかして仲間を正気に戻したみたいだが、俺が一言呟くだけで暴走するようにこちらへ突っ込んでくる。
当然、メスガキ程度にと傲っている彼らは魔法やスキルを発動させることも無い。
俺はニコリと笑みを浮かべ、ただ引き金を引くのみ。
「──ザーコ♪」
鳴り響く銃声、ほんの僅かな慈悲が籠められたその弾丸は確実に彼らの息の根を止めるべく額を撃ち抜いた。
それを最後の一人は止めない。
代わりに、彼はその手にした剣に禍々しいまでの力を注ぎこんでいた。
「──“復讐”、“四肢連斬”!」
「ふーん──『四角斬』っと」
仲間の死をトリガーに自己強化を行うスキル、そして一撃で腕と足を切り落とす武技。
それなりに火力を上げて放たれた一撃に対し、俺は四角を描くような斬撃を放つ。
精気を籠めただけで、実際には何の武技でもない剣の軌跡──だが結果として、剣を弾かれ切り裂かれたのは向こうだった。
「……化け物め」
「それしか言えないのかな? 本当におにーさんたちはザーコなんだから♪」
「くっ、この屈辱は忘れないからな!」
「あっ、そう──バイバイ、クソ雑魚おにーさん。次はもうちょっと強くなってね♪」
剣として握っていた十字架を、再び銃として用いて額を撃ち抜く。
同じように殺ってやるのも、俺の優しさというヤツだな。
「あーあ、クソ雑魚おにーさんたちに時間を掛け過ぎちゃったかな?」
「──貴様は完全に包囲されている! 大人しく投降を……な、何をしている!?」
「そろそろ、かな? 新しいクソ雑魚おにーさんたち、私といっしょに遊ぼうよ!」
集まってきた兵士たちに対して、俺は温存していた経典を開いて対応する。
光の粒子が俺を包み込み、二つの力をもたらした。
「──“聖域”!」
そして、この場が聖なる領域と化す。
本来であれば、ただの兵士である彼らに対して意味を成さないもの……だが、そうじゃない奴がいるみたいだな。
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