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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と供血狩り その06

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 厄介な盾役を無視して、帝城へ潜り込むことに成功した。
 その厄介さに敬意を表し、新たなに経典を装備することになる。

 そして、一つも二つも同じこと……ということで、さらに装備を増やしてみようか? と考えて──


「うーん、経典と十字架──そして修道服がセットになると、よりいっそうカオスな気がするなぁ。まあでも、今更だよね」


 元より能力値に関してはチート級の状態なのだが、修道服──『死葬の修道服』を身に纏うことで、補正によりそれが極限まで向上していた。

 ゲームでもよくある、見た目を気にせず性能の身を重視するアレ。
 今、俺はその極致に居るといっても過言では無かろうか。


「強さのために、性別すらも捨てる……闇堕ちとか、そんな感じだよね? さてと、にできることをやらないと」


 意識を切り替えるため、口調を変える。
 アイの試練を経て得たこの修道服は、生と死、そして聖と邪、更には回復や支援に対する補正を持っていた。

 要するにチートスペックのアイテム。
 ただし、修道服だからこそ女性にしか装備できない品……男ではそもそも、ドロップすらしないはずなんだよな。


「うーん、縛りは戦闘に十字架を使うことだけだし……これもいっしょに使っちゃおう」


 手にするのは、ホイッスル型のアイテム。
 これもまた、アイの試練が俺にもたらしてくれた品の一つ……『集魂の呼び笛』、これもまたチート級のアイテムだ。

 息を吸い込み、音を鳴らす──しかし音は鳴らない。
 正確には音は鳴っている……ただし、その音は生者には聞こえない音色である。

 死者、それも会話可能な知性を持つ者にのみ聞こえることができる音が鳴るのだ。
 事実、瞳に宿した死霊眼には、死霊たちが集まる姿がはっきりと映っていた。


「帝城、結構な数の死霊が居るんだ……まあいいや、それじゃあみんなに頼もうかな」

『!』

「いい? 私のお願いは──」


 特別な修道服をこの身に纏う今の俺は、居なれば『還魂』の体現者と言えよう。
 そのため、彷徨える魂たちは救いを求めて俺に協力してくれる。

 まあ実際、試練で得たアイテムはまだまだあって、それを使えば浄化も可能だ。
 しかし今は、彼らを利用してでも偽善を成し遂げたいからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 霊たちによって、帝城内部の情報をかなり把握することができた。
 ただし、強者の中には霊体への感知能力が高い者がたくさんいる。

 そういった場所、そして最初から霊体への対策が施されている場所を霊体たちと共に調べていき、安全に潜り込める場所を完全に把握し終えた。


「ありがとうね。どうか、みんなの次の生に幸があらんことを──“聖浄パゲーション”」


 十字架を握り締め、捧げる祈り。
 それは冥福を祈る彼らへの礼儀……浄化の魔法と共に、鐘が鳴り響く。

 俺の手の中でハンドベルが鳴り響くと、魔法の効果を増大させる。
 彼らはその音色に心を満たされ、天へと召されていった。


「……悪いことをしたな。私のこの行いは救いなのか、それともただの自己満足? まあでも、結局は偽善だよね」


 霊体だから浄化を行う、彼らにとってもそれが常識だからこそそれは救いとなった……が、本当の意味で救済するのであれば、未練や後悔を晴らしてやるべきだったはず。

 それができなかったわけじゃない。
 ただ、自分の都合で行わない選択をし、その場で浄化したのだ……これをエゴと言わずして、何と言おう。


「嗚呼、あったね……【傲慢】か」


 目が一瞬、銀色に染まりかけたが大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。
 ……いやほら、今の状態に更に【傲慢】までやるのは属性盛り過ぎだし。

 眷属関係のことでなければ、比較的精神統一も簡単にできるぞ。
 霊体たちのことは、申し訳ないが俺ではなく『彼女』に任せることにしよう。


「うん、これで準備が良しっと──メィ、居るよね?」

『……うん』


 霊体たちを使い、情報を探る過程でメィにも連絡を済ませていた。
 その結果、俺の影から蒼銀髪の少女がスッと現れる……少々声はくぐもっていたが。


「分身だね、本体との繋がりは?」

『見たもの聞いたことは伝わる』

「うん、それなら大丈夫だよ。今から私の調べ上げた情報を説明するよ」

『──待って。その前に一つ、外で暴れたのはやっぱりメル?』


 俺の妖女としての姿にも驚かず、平然と先ほどの騒動について尋ねるメィ。
 彼女は吸血鬼としての性質で、自ら俺の正体を暴いているからな。

 既存の情報だからこそ、あえてツッコんだりしないわけだ。
 むしろ気になるのは、霊体たちの調査でも判明した帝城内部での犯人捜しの真実か。


「ざっくりいうと、倒すのに物凄く時間の掛かりそうな相手が居たから疫病をばら撒いて逃げてきたんだ……あっ、言っておくけど祈念者にしか効かないし、どうせ連中も私が居なくなった後に対処したと思うよ」

『……その辺は信じている。メルは、私たちに被害が及ぶようなことはしないから』


 それ、遠回しに祈念者なら容赦しないって言ってるじゃないですか。
 実際それが正しいので、何の反論もできないけどさ。

 さて、向こうの情報も聞いておこう。
 霊体たちでは潜り込めなかった、大広間に彼女は居たみたいだからな。


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