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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と供血狩り その05

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 クラン『専防共』のリーダー。
 彼の職業【亡殉之盾】の効果によって、俺は彼以外の仲間へ攻撃を与えられなくなる。

 そのうえで、彼ら自身も防御を得意とするためリーダーが肩代わりするダメージの量を減らす……テンプレの追放物みたく、勘違いしている者など誰一人として居ないのだ。

 皆がリーダーを支え、リーダーもまた仲間たちを支える。
 嗚呼、なんという思いやりの心……だからこそ俺は悪辣に振る舞う。


「はっ、上等だ。こちとらそんなに時間を掛けてもられねぇんだ。時間稼ぎに特化したお前ら相手に、わざわざ真っ向から挑んでやる筋合いなんてないからな!」


 十字架を首から外し、そこに黒い魔力──邪属性の魔力を供給していく。
 すると、十字架もまた黒く染まっていき、装備としての効果が一新される。

 とはいっても、変化する形状は一つを残して変わらない。
 剣、銃、杖、そして変化した形状、重要なのはそれらを邪属性で扱えることだ。


「鎮めは転じ、沈めよ──“疫病浴撒エピデミック”!」

「!?」

「イッツ、ショウタイム!」


 魔力で構築されたウィルスを散布した。
 それは邪魔法ではなく、邪悪魔法──より悪辣な効果を発揮する。

 魔法名の通り、発症するのは疫病。
 俺の魔力が続く限り空気中に存在し、蝕んだ生物のさまざまな身力を貪ることでいつまでも生き永らえる厄介な魔力生命体。

 そういった意味では、“聖獣ホーリービースト”と同じ系統に分類される魔法だ。
 ただし、まったくと言っていいほどに設定されているパラメーターが違うがな。


「今回の症状はそうだな……幻覚、錯乱、麻痺、暗転、倦怠、筋力低下、衰弱、意識混濁などなど。さて、全員のそれを庇ったまま正常に戦えるかな?」

『リーダー!!』

「う、うぐ……」


 そう、【亡殉之盾】最大のメリットでありデメリット、それは味方が発生させた状態異常すらも背負うことができること。

 まあ、単純なモノなら受けた者がすぐに回復すればいいし、一定時間内の状態異常すべての症状を無効化するというポーションも存在するのでそれを飲めばいい。

 だが、今回俺がばら撒いた疫病がそれを妨害している。
 メンバーが与えればいい? ……それ、やらせると思うか?


「まっ、やらせるけど──“認識阻害インヒヴィション”」

「! き、消えた……」

「どこに……すぐに気配探知を!」

「だ、ダメだ、さっきの魔法のせいで至る所に気配が溢れている!」


 邪悪魔法“認識阻害”。
 彼らはその影響で、俺を認識できず──そのうえで疫病のウィルスが気配を持っていると思い込んでいる。

 正確には、ウィルスにある認識を刷り込ませ、その影響を感知してしまっている……気配を発生させ、煙幕のように黒色に変色しろという命令だ。

 彼ら自身への“認識阻害”は、リーダーが背負ってしまっているからな。
 その間に俺は、こそこそと帝城内へと侵入するのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 正直、アレに勝つのは極めて難しい。
 死亡率が高くて自由民の場合は就くことが難しい職業だが、祈念者であれば何度も試してその感覚に慣れることができる。

 成長すればするほど、さまざまな形でタフになる……それが【亡殉之盾】。
 その一番面倒なの効果、それは庇う相手の能力値の一部を借りることができる点。

 庇う相手が多ければ多いほど、死ぬ確率が高くなる代わりに生存率も挙げられる。
 そんな『矛盾』を背負っているからこそ、職業名も『ムジュンのタテ』なわけだ。


「十字架を戻してっと──“回聖ホーリーヒール”」


 特にダメージを負ったわけでもないが、いちおう聖属性の回復魔法を掛けておく。
 聖なる魔力が一時的に体に付与され、状態異常に数秒だけ掛かりづらくなるからな。


「さて、ここからどうするかだな……外の連中もそのうち戻ってくるだろうし、とりあえずまあ俺なりに調査を進めておくか」


 メィがやってくれているだろうが、俺も俺でやっておいた方がいいだろう。
 ただし、暴れるのは最終手段で可能な限り隠密行動に徹して。


「そうだ、ついでだしこれも使おうっと──“災演之宴フェイザス”」


 一月ほど前、『封印者』を相手取った際にも使用していたこの装備スキル。
 俺の偽者がドロップした特典だが、過去の俺の職業とスキルを強化したものが使える。

 経典型の特典を開き、記載されている情報から職業とスキルに関するページを確認。
 今の状況に合わせたものを選び抜き、能力行使でそれらを一つずつ使えるようにする。


「──【聖者】と:虚舌之鋒:を」


 選んだのはこの二つ。
 どちらもレベルは最大状態、効果は十二分に期待できる……選んだ理由は、まあ必要になったときに語るとしよう。

 経典が光り輝くと、俺の[ステータス]欄にそれらの情報が追記されていく。
 同時に、その隣には数字の羅列……少しずつその数は減っていた。

 無制限に使えるわけではなく、きちんと時間制限が存在する“災演之宴”。
 実は『封印者』戦後、とっくに解除されていたぐらいには短い。


「だから『一時中断』っと、なんだか本当に宗教家みたいになってきたな」


 緊急時に備え、すぐに起動できる状態にしたのだが……その場合、特典である経典を持ち歩かなければならない。

 つまり俺は、十字架と経典を持ち歩いているわけで…………うん、もう開き直ってもうワンポイントぐらい付けておこうかな。


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