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偽善者と儚き夢物語 三十八月目

偽善者と供血狩り その02

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 帝城で行われる盛大なパーティー。
 俺とメィルドことメィは情報を集めた後、そこへ乗り込むことを決めていた。

 調べてみるとそのイベント、貴族などの上流階級以外にも招かれているらしい。
 一定の功績の持ち主……Sランクの冒険者や職人など、中には祈念者も含まれている。

 なかなかに面倒なことになりそうだ……もしかしたらこれ、俺を呼び出すための罠なんじゃないかとも思った。

 まあ、仮にそうだったとしても結局のところ俺のやるべきことは変わらない。
 むしろ好都合、帝国お抱えの冒険者にも血が与えられたというウワサがあったからな。


「持っていても持っていなくても、いい情報源にはなりそうだからな。祈念者は……邪魔だから排除の方向で」

「……いいの?」

「いいも何も、アイツらが居ると何をしでかすか分からん。一番説得力がある説明をするなら──俺の同類だぞ?」

「…………物凄く分かった」


 遺憾ながら、さすがに俺も非力な凡人ならこんな大それた真似などしないと自覚している……だからこそ祈念者は、力を持つこの世界ではかなりはっちゃけるのだ。

 帝国まで辿り着いている祈念者は、その大半が種族レベルを200以上の連中である。
 つまりは強者揃い、固有スキルや超級・極級などの固有職を得ている者も居るだろう。

 そして宴に招かれるのは、そんな祈念者の中でも特に帝国へ貢献した者たち。
 報酬が貰えることは確定しているも同然、彼らも少し本気を出してくるだろう。


「メィには潜入をしてもらう。ちょうど、ある伝手で会場のムードを盛り上げる楽団に紛れ込ませられたからな」

「なに、その伝手……」

「……知らなくてもいい。楽器か歌か、その辺りはメィ次第でいいんだが、いちおう今回は裏方として入ってくれ。これ、紹介状代わりの手紙だから、あとで言った場所に向かってくれればいい」


 なお、伝手とは『一家』繋がりのもの。
 ……どうやらお高い楽器は、維持費もそれなりに掛かるようでな。

 いろいろあって、俺がその修理などを買って出ていたのだ。
 ………決して、他所で借金をしていたとか取り立てがヤバかったとかじゃないぞ。

 まあ、そんなこんなで、今では『一家』からの手厚い支援を受けている楽団が、調律された楽器の力もあってか帝城で演奏をすることになっていた。

 それを利用しないわけにはいかない。
 向こうも向こうで、借金……じゃなくて、恩の返済を早くしたいだろうからな。


 閑話休題タダよりタカいモノはない


 メィはそうして伝手から確実に潜らせる。
 では、俺はどうするのか……正直、メィの方でネタはやり尽くしていた。

 なので俺に関しては、行き当たりばったりな感じでどうにかしたいと思う。
 要はその場でなんとかする、予定は無いが臨機応変に動く……つまりノープランだ。


「縛りのスタイルもあるから、そこまで自由性は無いんだけども……まあ、【強欲】大破産プレイじゃなくて良かったけどさ」


 かつて帝城へ挑んだ時とは違い、今回の俺は散財の限りを尽くす縛りを止めていた。
 まあ、それなりの相手になりそうなので、ヤバさは前回までとそう変わらないけども。

 縛りとはあくまで俺が可能性を引き出すために行っているものなので、絞り過ぎて何もできなくなっては元も子もない……とまあ、難易度ごとに縛りが決まっていたわけだ。


「改めて、帝城は大きいな……警備は厳重だし、正攻法から入る以外で潜り込むのはかなり困難だな」


 招いた祈念者以外にも、特定の箇所に配置して守らせているな。
 契約書でも書かせておけば、彼ら自身による侵入は防げるだろうし。

 死なない人材を使えば、仮に死んでも彼らは殺されたことを侵入を報告できる。
 強引に入るなら殺しは厳禁、せいぜいが気絶で留めなければならない……強者相手に。


「まっ、できるのは特殊なスキルや職業の持ち主か、あるいは──」

「あっ、ここから先は立ち入り──」

「それ以上に、圧倒的な強者だけだよな」

『ッ……!?』


 彼らに取って俺は、突然現れて同じ依頼を受けた一時的な仲間を殺した敵ということになるだろう。

 あからさまに怪しい、顔を見通すことのできないノイズに塗れた謎の人物。
 魂魄偽装を超えることのできない視界において、俺はそういった風に捉えられる。

 今回はあえて畏怖嫌厭の邪縛をそのまま通してあるので、見た者すべてが俺に対する嫌悪感を第一印象で抱く……そこに行動が相まえば、れっきとした汚物だ。


「おっと、さっそく攻撃か……やれやれ、力の差ってヤツを理解してもらいたいな」

「黙れ! テメェみたいな気持ち悪い奴のことなんて、聞いて堪るかってんだ!」

「理屈もへったくれも無いな、それ。まあいいや、楽しませてくれよ。お前ら程度でも、ウォーミングアップには使えるだろう」

「嘗めやがって……そんな武器で俺たち祈念者に勝てるつもりか!?」


 俺が握り締める武器、それは縛りの結果与えられた──小さな十字架。
 それを剣のように握り締めると、先端から精気力で作った刃で最初の者を斬っていた。

 今度は横側を握ると、まるで引き金を引くように人差し指を動かす。
 すると、十字架の先から魔力が弾丸として射出され祈念者を打ち抜いていく。

 今回は、そんなネタ武器っぽい十字架と共に帝城を攻める。
 ……シリアスだからこそ、多少の面白さが無いとな。


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