2,374 / 2,518
偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者とデート撮影 その05
しおりを挟む第三世界 迷宮『天箱庭』
そこは和風のイメージを基に構築した、俺の造った迷宮の中でもかなり特殊な場所。
なぜならそこは、迷宮の中に複数の派生迷宮が存在しているからだ。
太陽の紋章、月の紋章、そして嵐の紋章などが刻まれた祭壇に探索者は向かう。
そこで祈りを捧げることで、派生迷宮へ入ることができる。
「まあ、それ以外のものにもしっかりと目を向けてもらいたいけどな。どうだ、良い景色だと思わないか?」
「──我が主よ、この光景が我が主の世界には広がっているのですか?」
「……ああ、いや。もう少し、近代化が進んでいるかな。けど、桜並木は今もあるぞ。桜が咲いたら眷属たちといっしょに、花見をしてみるのもいいかもしれないな」
和風ということで、古都や江戸のイメージが混雑したなんちゃって和風な場所だ。
だが一部は建築物を置かずに自然物にするなどして、風流を味わうことができる。
そしてその中には、俺が現実で覚えている光景も含まれているわけで……。
彼女──リョクとそんな景色を眺めつつ、俺たちは祭壇へと向かっていた。
「ところでリョク、どうして着物なんだ? いや、似合ってるぞ。いつもの勇者っぽい格好もかっこいいけど、なんというか……妖艶みたいな感じで」
「そ、そうですか……先日、我が主がミントと共に井島へ向かった際、着物姿を褒めておりましたので……その、羨ましくて」
「うぐっ……か、可愛くもあるなおい」
鬼灯柄の着物を身に纏っているの彼女なのだが、少々上の部分が開けている。
どう肌が出て……開けているかは、俺の感想からお察ししてもらいたい。
そんな見た目とは裏腹に、リョクの着物を着ている理由とのギャップに萌えた。
どうにかリセットされそうな想いをギリギリで留め、目的地へと急ぐ。
「ここだ、今日はこの先に行くんだ」
「どの紋章の場所でもない。我が主、この先には何が?」
探索者たちが向かう三つの紋章が奉られた祭壇とは違い、そこにはただポツンと小さな賽銭箱が置かれているだけ。
だがそこにこそ、この迷宮を築き上げた真なる目的が存在した。
ここもまた、他の祭壇と同様に祈りを捧げることで派生迷宮へ向かうことができる。
「まあ、論より証拠だ。何でもいいから祈ってみてくれ、そうしたら先へ繋がる」
「な、何でもですか?」
「その願いが叶うかはともかくとして、神に祈りを報告するための場所だからな。誓いを立てるとでも思って、祈ってみればいい。願いは自分自身で叶えるものだからな」
「……分かりました」
意を決した表情をするリョク。
彼女のことだ、国民を想う何かを願ってくれているのかもしれない。
あるいは……なんて思いつつ、その想像を掻き消して俺もまた真摯に祈る彼女の隣で、同じように手を合わせて眼を閉じる。
すると、空間がぐにゃりと歪み──俺たちの姿はこの場から消え去った。
◆ □ ◆ □ ◆
派生迷宮──神宴迷宮『八百万』
そこは何もない真っ新な空間。
色という概念を持たず、物という概念が存在しない空虚な場所。
だがそれは同時に、何もかもを受け入れる無地であり素地であることを意味する。
神宴迷宮『八百万』、そこは神々を降臨させるための神域だった。
「こ、ここは……」
「神様が来れる場所、そう思ってくれればいい。今回ここに連れてきたのは……まあ、思い出作りの一環だな」
「神が……降臨なされるのですか?」
「おう。リオンの友神以外の運営神、それにクソ女神はシャットアウトしたあるが。他の神はだいたい来れるようにしてあるから、縁があれば降臨するはずだ」
ただし、運営神にバレないよう細工しているため、闇雲に接続しようとしても決してここへは辿り着かないだろうけども。
リオンやその友神、そしてカカ。
それにGM姉妹たちには、ここへ降臨するための道標のようなものを渡してあるので、その気になれば来ることができるはずだ。
神の降臨とはそれなりに条件が厳しく、場の準備やら降りるための器やらが必要になるので面倒極まりない。
だが神域に認定された場所ならば、そういう前準備をほとんどせずに、神本来の姿で来ることができる……まあ、それを人族が見て耐えられるかどうかは別として。
俺だけなら{感情}がどうとでもしてくれるだろうが、眷属は特定の人物を除き、やはり長時間は耐えられないだろう。
「実際の所、降臨できるからといって神がここに来ることはまだ無いだろうな。運営神のやらかしで、今は活動停止中の奴らがほとんどなわけだし。いちおう、もう一つのあてもあるんだけどな」
「我が主、そのあてとは?」
「地球の神様。だから迷宮も和風だし、祭壇経由で来れるようにしたんだ。でもまあ、それこそ来るための手段が無いから、そこは神殿の聖職者や異世界組に任せているぞ」
転移者や転生者は、かなりの確率で元の世界から加護を授かっている。
実際、アイリスやカナタ、それに赤色の世界に転移した姉弟もそうだった。
時折何らかの形で祈ってもらい、その際に何か無いかを調べてもらっている。
俺の持つ称号『神々の注目』からして、その行いが無意味でないことを証明していた。
「とまあ、そのうちここは神との交流の場になるわけだな。今はただの何もない場所、それこそ俺とお前だけの」
「……あ、あの!」
「皆まで言うな。ロマンもムードも何にもない場所だが、その分ストレートに想いを告げるにはちょうどいい……ここは神域だ、言うことも全部神に誓って本当だと言える」
……多少の覗きはあるかもしれないが、それはまあ今更な話。
ここから、俺が攻める番……といきたかったのだが、リョクが詰め寄ってくる。
「願いは叶えるものではなく、己自身で叶えるもの。ここに来る前、我が主はそう申しておりましたね?
「ま、まあ、言った……な」
「我の願いは『我が主、メルス様と共に在り続ける』こと。ならば、その願いを成就させるためにも、我はいっそう努力を──!?」
「だから皆まで言うな。俺の願いは、『大切な者と共に在り続ける』こと。俺だって、その努力は欠かしていないと思うぞ?」
そして、俺たちはお互いを見つめ合い──この先はそれこそ、会員のみぞ知るってな。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる