上 下
2,373 / 2,519
偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と東の南釧 その20

しおりを挟む


 俺が有象無象の鎖国派を倒し、逃げ出した強者の捕縛をミントへ依頼した。
 ある程度の強さがある者ほど、ミントという存在を勘違いするんだよな。


『パパー、ただいまー!』

「おおっ、さすがミントだ! うんうん、きちんと生け捕りにできているな」

『えへへー、頑張ったよ!』


 小柄というには小さすぎるその体で、引き摺ってきた逃亡者。
 能力値という概念があるからこそ、そんな目を疑うような事象が現実になっていた。

 こうして、この拠点に潜んでいたすべての鎖国派(+α)の鎮圧が完了する。
 ミントが行っている間に拘束も済ませてあるので、あとは開国派に知らせるだけだ。


「その前に、資料を集めておかないとな。何かいいものがあればいいんだけど」


 銃を最初に向けられた部屋へ戻り、ミントといっしょに何か無いかを探す。
 見つかったのは紙で纏められた開国派の資料、そして──


「……連絡用の魔道具か。うーん、どこに繋がっているのか分からないし、とりあえず放置だな」

『パパ、似ている物があるよ?』

「ん? ああ、これは例のヤツの持ち物か。ミントが圧倒的な差を見せつけてなければ、これで何かを連絡させられていたかもな」


 ミントのやったことは『眼』で確認していたので、何をしたのかは分かる。
 彼がついぞ使わなかった連絡用の魔道具、それは死亡を受信相手に送る物だ。

 死んだことが伝われば、当然向こうで何かあったのだと分かるだろう。
 警戒、引き上げなど対処をされるに違いない……要するに逃げられるわけだ。

 加えて自害用の毒、まあその気になれば後からでも解毒はできただろう。
 それでも一度は死んだと判定され、魔道具は起動していたはずだ。


「登録を解除してっと……連絡先の特定をしておかないとな」


 もちろん、これが直接親玉に繋がることは無いだろうけども。
 というか、鎖国派の統括者は誰か分かっているので今更な気がする。

 それでも、鎖国を維持しようとする者たちがどれほど居るのか特定可能だ。
 何でもやっておいて損はない、ということで開国派へのお土産に追加しておこう。


「自分でやる必要は無いもんな」

『パパ?』

「今回の旅はそろそろ終わりってことだ。どうだ、楽しかったか?」

『うん!』


 少々血腥い点が多く見受けられたが、それでもミントは笑顔で答えてくれた。
 彼女の望む父親の活躍、ちゃんとできていただろうか?


『でも、もうパパといっしょに居られる時間は終わりかぁ……残念』

「ミント……まっ、またちゃんと時間を作るよ。遠慮しないで、俺と遊びたいときは言ってくれればいいさ」


 眷属たち、そして学友たちと仲良くしていることが多いので、あんまりそういう機会は無いのだけれど……求めてくれるならば、俺はそれに応えるだけのこと。

 最悪なのは、ミントに『パパ嫌い』と言われるような事態。
 なんとしても、それだけは絶対に避けなければならないからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 最後の一仕事、それは開国派へとプレゼントを届ける作業。
 やり方は簡単、施設から出て少し騒ぎを起こせばいい。


「──『炸裂弾ブラストバレット』」


 拳銃から一発の弾丸を空に打ち上げる。
 ただし弾丸には精気力が籠められており、一定時間経つと勝手に爆発する武技を模していた。

 つまりは花火を打ち上げて、思いっきり目立つことをしたわけだ。
 突然の爆発に驚き、多くの開国派の連中が姿を現す。


「な、何者だ貴様!」

「竜馬から話を聞いちょらんか? おまんらの裏切り者、代わりに対処してやったんじゃけんのぅ」

「こ、これは……!」


 並べられた鎖国派の連中を見て、驚いた様子を見せる人々。
 まあ、今までは同じ開国派として動いていたようだしな。

 今の彼らにとって、俺は突然強行に走り同志を攻撃した危険人物。
 だからこそ、彼らは警戒を緩めず武器から決して手を放していない。


「……竜馬さんからそのような連絡は入っていないぞ」

「あちゃー、まだ連絡できとらんか。まあ、それならそれで別に構わん。こっちもおまんらと戦いたいわけじゃない、このまま見逃してくれればそれで良か」

「そうはいかん。理由の真偽はともあれ、貴様は騒ぎを起こし同志に危害を加えた……事実確認がされるまで、拘束させてもらう」

「いやはや、それは結構ぜよ。実はこう見えても多忙でな、殺しも傷めつけもせぬからそのまま見逃してくれ」


 分かりやすく宙に浮かび上がると、彼らは弓や銃、そして『術』などを構える。
 そのうち撃ってくるだろう、だがそれでも変わらずに浮上し──攻撃が行われた。


「──『塊魔』」

「なっ……いったい何をした!」

「さぁのう。それよりも、おまんらは縛られた連中をなんとかすることじゃな。必要なことは紙に載っておる。そっちの方は、しっかりと連絡が来るまで捕まえておくんじゃぞ」

「ま、待て──!」


 待てと言われて待つような者は居ない。
 俺はそのまま宙へ──ミントに引っ張られながら飛んで行った。


『どう、パパ……苦しくない?』

「いや、ミントは優しいな。心配しなくても苦しくないぞ」


 ミントは俺の襟の辺りを掴んで、持ち上げてくれている。
 ある意味、猫の首根っこを掴むような運び方だった。


「けど、どうしてこの運び方なんだ?」

『うーん……もう最後だからパパに教えちゃうけど、お姉ちゃんたちがね』

「──皆まで言わなくていいや。うん、あとでお姉ちゃんたちにはお説教をしておく」


 見ているのは間違いないと思っていたが、そんなことを指示していとは。
 ……あとでからかわれるネタを、用意させてしまったか。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...