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偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と東の南釧 その20
しおりを挟む俺が有象無象の鎖国派を倒し、逃げ出した強者の捕縛をミントへ依頼した。
ある程度の強さがある者ほど、ミントという存在を勘違いするんだよな。
『パパー、ただいまー!』
「おおっ、さすがミントだ! うんうん、きちんと生け捕りにできているな」
『えへへー、頑張ったよ!』
小柄というには小さすぎるその体で、引き摺ってきた逃亡者。
能力値という概念があるからこそ、そんな目を疑うような事象が現実になっていた。
こうして、この拠点に潜んでいたすべての鎖国派(+α)の鎮圧が完了する。
ミントが行っている間に拘束も済ませてあるので、あとは開国派に知らせるだけだ。
「その前に、資料を集めておかないとな。何かいいものがあればいいんだけど」
銃を最初に向けられた部屋へ戻り、ミントといっしょに何か無いかを探す。
見つかったのは紙で纏められた開国派の資料、そして──
「……連絡用の魔道具か。うーん、どこに繋がっているのか分からないし、とりあえず放置だな」
『パパ、似ている物があるよ?』
「ん? ああ、これは例のヤツの持ち物か。ミントが圧倒的な差を見せつけてなければ、これで何かを連絡させられていたかもな」
ミントのやったことは『眼』で確認していたので、何をしたのかは分かる。
彼がついぞ使わなかった連絡用の魔道具、それは死亡を受信相手に送る物だ。
死んだことが伝われば、当然向こうで何かあったのだと分かるだろう。
警戒、引き上げなど対処をされるに違いない……要するに逃げられるわけだ。
加えて自害用の毒、まあその気になれば後からでも解毒はできただろう。
それでも一度は死んだと判定され、魔道具は起動していたはずだ。
「登録を解除してっと……連絡先の特定をしておかないとな」
もちろん、これが直接親玉に繋がることは無いだろうけども。
というか、鎖国派の統括者は誰か分かっているので今更な気がする。
それでも、鎖国を維持しようとする者たちがどれほど居るのか特定可能だ。
何でもやっておいて損はない、ということで開国派へのお土産に追加しておこう。
「自分でやる必要は無いもんな」
『パパ?』
「今回の旅はそろそろ終わりってことだ。どうだ、楽しかったか?」
『うん!』
少々血腥い点が多く見受けられたが、それでもミントは笑顔で答えてくれた。
彼女の望む父親の活躍、ちゃんとできていただろうか?
『でも、もうパパといっしょに居られる時間は終わりかぁ……残念』
「ミント……まっ、またちゃんと時間を作るよ。遠慮しないで、俺と遊びたいときは言ってくれればいいさ」
眷属たち、そして学友たちと仲良くしていることが多いので、あんまりそういう機会は無いのだけれど……求めてくれるならば、俺はそれに応えるだけのこと。
最悪なのは、ミントに『パパ嫌い』と言われるような事態。
なんとしても、それだけは絶対に避けなければならないからな。
◆ □ ◆ □ ◆
最後の一仕事、それは開国派へとプレゼントを届ける作業。
やり方は簡単、施設から出て少し騒ぎを起こせばいい。
「──『炸裂弾』」
拳銃から一発の弾丸を空に打ち上げる。
ただし弾丸には精気力が籠められており、一定時間経つと勝手に爆発する武技を模していた。
つまりは花火を打ち上げて、思いっきり目立つことをしたわけだ。
突然の爆発に驚き、多くの開国派の連中が姿を現す。
「な、何者だ貴様!」
「竜馬から話を聞いちょらんか? おまんらの裏切り者、代わりに対処してやったんじゃけんのぅ」
「こ、これは……!」
並べられた鎖国派の連中を見て、驚いた様子を見せる人々。
まあ、今までは同じ開国派として動いていたようだしな。
今の彼らにとって、俺は突然強行に走り同志を攻撃した危険人物。
だからこそ、彼らは警戒を緩めず武器から決して手を放していない。
「……竜馬さんからそのような連絡は入っていないぞ」
「あちゃー、まだ連絡できとらんか。まあ、それならそれで別に構わん。こっちもおまんらと戦いたいわけじゃない、このまま見逃してくれればそれで良か」
「そうはいかん。理由の真偽はともあれ、貴様は騒ぎを起こし同志に危害を加えた……事実確認がされるまで、拘束させてもらう」
「いやはや、それは結構ぜよ。実はこう見えても多忙でな、殺しも傷めつけもせぬからそのまま見逃してくれ」
分かりやすく宙に浮かび上がると、彼らは弓や銃、そして『術』などを構える。
そのうち撃ってくるだろう、だがそれでも変わらずに浮上し──攻撃が行われた。
「──『塊魔』」
「なっ……いったい何をした!」
「さぁのう。それよりも、おまんらは縛られた連中をなんとかすることじゃな。必要なことは紙に載っておる。そっちの方は、しっかりと連絡が来るまで捕まえておくんじゃぞ」
「ま、待て──!」
待てと言われて待つような者は居ない。
俺はそのまま宙へ──ミントに引っ張られながら飛んで行った。
『どう、パパ……苦しくない?』
「いや、ミントは優しいな。心配しなくても苦しくないぞ」
ミントは俺の襟の辺りを掴んで、持ち上げてくれている。
ある意味、猫の首根っこを掴むような運び方だった。
「けど、どうしてこの運び方なんだ?」
『うーん……もう最後だからパパに教えちゃうけど、お姉ちゃんたちがね』
「──皆まで言わなくていいや。うん、あとでお姉ちゃんたちにはお説教をしておく」
見ているのは間違いないと思っていたが、そんなことを指示していとは。
……あとでからかわれるネタを、用意させてしまったか。
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