2,372 / 2,518
偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と東の南釧 その19
しおりを挟むついに潜り込んだ元凶の潜む本拠地。
迎撃に差し向けられた兵士たちの銃を、容赦なく切断していく。
今回は可能な限り不殺にして、お辰の両親が所属する開国派への手土産にする予定だ。
幸いにも、ここは開国派の多く住まう入島なので、売る先には困らない。
「う、撃てぇえええ!」
「──『斬鉄・展』」
放たれた弾丸の尽くを、武技をなぞりながら切り落としていく。
鉄を斬りやすくする効果を付与し、そのうえで効果を拡張してある。
そのまま走り抜け、彼らの下を通過。
慌てて振り返って俺を撃とうとするが、銃口が落ちてそれはできなくなった。
彼らも今の状態で撃てば、暴発することを分かっているのだろう。
銃を捨て、腰に下げていた刀を引き抜くのだが──それも途中で切断されている。
「い、いつの間に……!」
「おまんらがぼーっとしちゅるに。つい手癖が悪ぅてな。いやー、まっことすまん──強過ぎて」
『!!』
思いっきり挑発し、畏怖嫌厭の邪縛を意図的に表に出した。
俺の発言、態度、そして邪縛の効果によって、彼らは冷静な判断を取れなくなる。
「殺せ! なんとしてもアイツを殺せ!!」
「──『納刀』」
銃を持つ相手は居ないので、俺は彼らが到達するその瞬間まで刀を鞘に納めておく。
そして、彼らが俺の下まで辿り着いたその瞬間に刀を引き抜き──
「『抜刀』──『威加通地・十式』」
再び抜き去ると同時、今度は二つの武技を繋げて再現して彼らに当てていった。
先んじて使っていた“納刀”、そして次の“抜刀”に最後の“威加通地”。
こうして本来、システム通りに使っていればコンボとして威力を上げられる武技をなぞり完成させた。
まあ、システムの恩恵が無くても、鞘の中に精気力を溜め込んだり解放したり、それを雷に変換するなどのことはできるので、まったく意味が無いわけじゃないんだがな。
重ねたのは順当な武技の成長、その果てである『式』。
今までのものと違い、威力や速度などが満遍なく強化されている。
──王道な成長だからこそ、その威力は尋常ならないものとなっていた。
「まっ、俺自身が育てたわけじゃないが……そこは関係者に感謝ぜよ」
あらゆる剣技に精通するティル師匠、そしてあらゆる武技を使用可能になる夢現流武具術スキル。
二つの要素が凡人である俺に、努力次第でそれらを可能にさせた。
実際、なぞるのは俺自身だし、宣言した以上完全に模倣できていなければ補正は無い。
あらゆる武技を使用可能にする条件、それは俺の系譜に連なる者がそれを使えること。
眷属だけでなく、国民も対象となっているのでその幅はかなりのものだ。
そして、可能になった状態でとことん師匠であるティルに鍛えてもらい、『十式』であろうと再現ができるようにしてもらった。
……本当、長い時間が必要だったけど。
「電気が奔ってみな気絶しおった。一人ぐらいは、耐えると思ったんじゃが」
広げた『感網』の中に、残念ながら意識を保てている者の反応は…………おっと?
「──ミント、お願いできるか?」
『はーい、任せて!』
どうやら何らかの形で意識を保ち、逃亡を図った者が居たらしい。
だが、それはそれで好都合、あとのことはミントに任せて俺は捕縛作業に従事しよう。
◆ □ ◆ □ ◆
「ハァ、ハァ……くそっ! こんなの、聞いてないぞ!」
鎖国派の拠点の中を走る、一人の男。
彼はこの地の者ではない──主の命によって、南釧での暗躍を行ってきた者だ。
だが、その作戦は突如として幕を閉じた。
順調なはずだった……しかし、突如現れた何者かにより、そのすべてが台無しになる。
長年の計画が、わずか一日のうちに。
ふざけるなと叫びたい気持ちを動力に、この場からの撤退を図ろうとしていた。
「ッ──誰だ!」
だがその足を止めなければならないほど、強烈な殺気を感じ取ってしまう。
どんな時でも周囲への警戒は怠らない、そう鍛えられた彼でも出所が分からない。
つまりそれは、相手が自分よりも格上であることの証拠。
自分を足止めしたいという証なのだと、意識を逃亡から切り替える。
おそらく、逃げても無駄だと悟った。
殺気を見せてもなお捉えられないその気配から、何もしなければ自分はとっくに狩られていると分かるからだ。
つまり、自分が取るべき選択はここで──
『ダーメ、死んじゃ嫌だよ』
「!」
歯に起きた突然の痛み。
そこは、自害するために毒を仕込んでいた場所でもあった。
聞こえてきたのは少女の声。
暴虐の限りを尽くす男のものとは、まったく異なる……この場を凌ごうと、すでに鎖国派を片付けた男が戻ってくるだろう。
そして何より、自分はこれだけのことをしてもなお相手の気配を掴めなかった。
圧倒的な力の差、自害すら許されない格の差を見せつけられ──心が折れる。
『ふーん、つまんないのー。でも、パパに頼まれたことだもんね……ふんすっ、ちゃんとやらないと!』
最後に聞いたのはそんな言葉だった。
彼の意識はぷっつりと途絶え、この後のこの拠点に起きることを知り得るよしは無い。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる