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偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と東の南釧 その19

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 ついに潜り込んだ元凶の潜む本拠地。
 迎撃に差し向けられた兵士たちの銃を、容赦なく切断していく。

 今回は可能な限り不殺にして、お辰の両親が所属する開国派への手土産にする予定だ。
 幸いにも、ここは開国派の多く住まう入島なので、売る先には困らない。


「う、撃てぇえええ!」

「──『斬鉄ザンテツテン』」


 放たれた弾丸の尽くを、武技をなぞりながら切り落としていく。
 鉄を斬りやすくする効果を付与し、そのうえで効果を拡張してある。

 そのまま走り抜け、彼らの下を通過。
 慌てて振り返って俺を撃とうとするが、銃口が落ちてそれはできなくなった。

 彼らも今の状態で撃てば、暴発することを分かっているのだろう。
 銃を捨て、腰に下げていた刀を引き抜くのだが──それも途中で切断されている。


「い、いつの間に……!」

「おまんらがぼーっとしちゅるに。つい手癖が悪ぅてな。いやー、まっことすまん──強過ぎて」

『!!』


 思いっきり挑発し、畏怖嫌厭の邪縛を意図的に表に出した。
 俺の発言、態度、そして邪縛の効果によって、彼らは冷静な判断を取れなくなる。


「殺せ! なんとしてもアイツを殺せ!!」

「──『納刀ノウトウ』」


 銃を持つ相手は居ないので、俺は彼らが到達するその瞬間まで刀を鞘に納めておく。
 そして、彼らが俺の下まで辿り着いたその瞬間に刀を引き抜き──


「『抜刀バットウ』──『威加通地イカヅチ十式ジッシキ』」


 再び抜き去ると同時、今度は二つの武技を繋げて再現して彼らに当てていった。
 先んじて使っていた“納刀”、そして次の“抜刀”に最後の“威加通地”。

 こうして本来、システム通りに使っていればコンボとして威力を上げられる武技をなぞり完成させた。

 まあ、システムの恩恵が無くても、鞘の中に精気力を溜め込んだり解放したり、それを雷に変換するなどのことはできるので、まったく意味が無いわけじゃないんだがな。

 重ねたのは順当な武技の成長、その果てである『式』。
 今までのものと違い、威力や速度などが満遍なく強化されている。

 ──王道な成長だからこそ、その威力は尋常ならないものとなっていた。


「まっ、俺自身が育てたわけじゃないが……そこは関係者に感謝ぜよ」


 あらゆる剣技に精通するティル師匠、そしてあらゆる武技を使用可能になる夢現流武具術スキル。

 二つの要素が凡人である俺に、努力次第でそれらを可能にさせた。
 実際、なぞるのは俺自身だし、宣言した以上完全に模倣できていなければ補正は無い。

 あらゆる武技を使用可能にする条件、それは俺の系譜に連なる者がそれを使えること。
 眷属だけでなく、国民も対象となっているのでその幅はかなりのものだ。

 そして、可能になった状態でとことん師匠であるティルに鍛えてもらい、『十式』であろうと再現ができるようにしてもらった。 

 ……本当、長い時間が必要だったけど。


「電気が奔ってみな気絶しおった。一人ぐらいは、耐えると思ったんじゃが」


 広げた『感網』の中に、残念ながら意識を保てている者の反応は…………おっと?


「──ミント、お願いできるか?」

『はーい、任せて!』


 どうやら何らかの形で意識を保ち、逃亡を図った者が居たらしい。
 だが、それはそれで好都合、あとのことはミントに任せて俺は捕縛作業に従事しよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「ハァ、ハァ……くそっ! こんなの、聞いてないぞ!」

 鎖国派の拠点の中を走る、一人の男。
 彼はこの地の者ではない──主の命によって、南釧での暗躍を行ってきた者だ。

 だが、その作戦は突如として幕を閉じた。
 順調なはずだった……しかし、突如現れた何者かにより、そのすべてが台無しになる。

 長年の計画が、わずか一日のうちに。
 ふざけるなと叫びたい気持ちを動力に、この場からの撤退を図ろうとしていた。

「ッ──誰だ!」

 だがその足を止めなければならないほど、強烈な殺気を感じ取ってしまう。
 どんな時でも周囲への警戒は怠らない、そう鍛えられた彼でも出所が分からない。

 つまりそれは、相手が自分よりも格上であることの証拠。
 自分を足止めしたいという証なのだと、意識を逃亡から切り替える。

 おそらく、逃げても無駄だと悟った。
 殺気を見せてもなお捉えられないその気配から、何もしなければ自分はとっくに狩られていると分かるからだ。

 つまり、自分が取るべき選択はここで──

『ダーメ、死んじゃ嫌だよ』

「!」

 歯に起きた突然の痛み。
 そこは、自害するために毒を仕込んでいた場所でもあった。

 聞こえてきたのは少女の声。
 暴虐の限りを尽くす男のものとは、まったく異なる……この場を凌ごうと、すでに鎖国派を片付けた男が戻ってくるだろう。

 そして何より、自分はこれだけのことをしてもなお相手の気配を掴めなかった。
 圧倒的な力の差、自害すら許されない格の差を見せつけられ──心が折れる。

『ふーん、つまんないのー。でも、パパに頼まれたことだもんね……ふんすっ、ちゃんとやらないと!』

 最後に聞いたのはそんな言葉だった。
 彼の意識はぷっつりと途絶え、この後のこの拠点に起きることを知り得るよしは無い。

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