上 下
2,369 / 2,518
偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と東の南釧 その16

しおりを挟む


 鎖国派が集めていた情報を、殴り込んで洗い浚いかっぱらってきました。
 労せず……かは微妙ではあるが、ともあれ居る場所に関してはなんとなく判明する。


「霧連山、その周辺におまんの両親は潜んで居るようなじゃな」


 移動中、馬(魔物)車を借りた俺は後ろに乗せたお辰へ状況を説明していた。
 霧連山とは……まあ、火山が集まってできた場所だと思ってもらえばいい。

 わざわざハイキング、ということでもない限りは危険な場所ゆえに向かったのだろう。
 追手もそれなりに強いだろうが、質を厳選するぐらいはできるはずだ。


「追手が思いの他優秀だったようじゃな。資料を見るに、バレる前に人の少ない場所に向かったようじゃ」

「……たしかに、その近くに──」

「皆まで言わんでよか。さっさとそこへ向かうに限るぜよ」


 偽善のための時間省略ということで、今回馬(魔物)には支援魔法を掛けてある。
 ついでに乗馬や御者に関するスキルも一時的にダウンロードし、そちらも発動中。

 揺れを限りなく抑え込み、最大効率で馬を操り走らせている。
 時間にして十時間ほど、俺たちは霧連山へと辿り着いたのだった。


「……いやいや、おかしいです。どうして私たちはもう霧連山に来ているのですか!?」

「なぜと言われてものう……おまんさんが寝ている間に、少々馬が頑張っただけじゃ」

「……普通の馬ですよね?」

「魔物であることを除けば、ごくありふれた馬だと思うがのう」


 十時間の間、ずっと起きていられていても
正直困っていたしな。
 時間が掛かる旨を話していたのだが、先に寝てくれたお陰で早く着いた。

 ……企業秘密的な加速方法とか、お見せできないやり方がたくさんあってな。
 まあ、彼女もちゃんと寝れたのだ……少し魔法を盛られていても満足できただろう。

 熟睡していたからこそ、ツッコミがそこまで過激にならなくて済んだ。
 ……途中で魔物を大量に轢いていたし、見せられなかったな。


「……普通じゃない、絶対に普通ではありませんからね」

「まあ、おまんがなんと言おうと今ある光景こそが現実じゃきに。今やるべきことは、そうしてうだうだと言っていることか?」

「! そ、そうでした……って、それもこれも貴方の理不尽さが──」


 お説教は数分続いたが、結局どうにもならないので諦めたようだ。
 何より、早いに越したことは無い……すでに刺客は差し向けられているだろうから。

 この先の展開を示すかのように、空模様はすっかり暗くなっていた。
 曇天、それが意味するものは果たして──


  ◆   □   ◆   □   ◆


 霧連山は活火山を有する連峰だ。
 有毒なガスも発生するため、時期によっては入山が禁止される場所でもある。

 当然、魔物も現れるため実力者でなければ滞在は困難だ。
 追手から逃れていることからも分かるように、お辰の両親は実力者なので問題ない。


「おっ、もしやアレでは?」

「! ど、どこですか!?」

「ほれ、あの火山の上に居る」

「そんな場所見えません! ……ですが、二人ならあるいはと思えてしまいます」


 強化した視力が、とある山の頂でイチャイチャしている二人組を見つけた。
 写真(魔道具)で見た、美男美女のカップルと相貌に違いは見受けられない。

 となるとつまり、彼らこそがお辰の両親である『竜馬』と『お竜』なのだろう。
 娘との感動の再会だが……うん、見ない方が幸せなのかもしれない。

 だが、そうも言ってられないだろう。
 確実に追手は迫っていた……イチャイチャと同じく、そんな怪しげな連中が山を登る姿も捕捉していた。


「少し、派手に行く。おまん、ちょっと我慢せい」

「は、はい!」

「いい返事じゃ──『天線候破テンセンコウハ』!」


 空に向けて、超高速で放った斬撃。
 どこまでも、高く伸びていく剣の軌跡は、やがて雲にまで届き──重くどんよりとした空を、文字通り晴れへと切り開く。

 天剣術の武技を模したソレは、雲を切り裂くことに特化した特殊なモノ。
 自然現象であれ、魔力現象であれ雲という概念であれば自在に切り開ける。

 そんな突然の現象に、両者共に気づいた。
 刺客たちは俺たちに、そして両親は俺たちに加え刺客の姿も捉える。


「まあ、これで問題ないじゃろう。おまんの親に助けが居るなら、向かっても構わんが」

「いえ。あの二人なら、問題ないかと」

「そうけ、なら見ているだけで良か」


 刺客に気づいた二人は、さっそく迎撃を始める……山頂という高低差を活かして、一方的に攻撃を始めた。

 だからこそ、刺客たちも気づかれないように向かおうとしたのだが、それは俺の妨害によって防がれる。

 強行突破で向かうことを決めたのか、一部の人員を肉壁にして山頂を目指す。
 うーん、問題は無いだろうが、せっかくなら恩を売っておくか。


「もう一発じゃ」

「大丈夫だと思いますが……」

「まあ、保険程度にな。それに、闇雲に突っ込むだけの愚か者じゃないはずじゃし。やるだけやっておくわ──『断風タチカゼシン』」

『──ッ!?』


 刀の武技に、精気力で飛距離補正を加えて刺客たちに飛ばす。
 技術的な面を精気力でごり押しし、強引に届かせる。

 結果として、届くはずが無いと思っていた彼らに不意打ちを喰らわせた。
 壁役を前に出していたため、後ろに居たのは強者たち。

 ──彼らを失った刺客たちは、そのままお辰の両親に蹂躙されるのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...