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偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と東の南釧 その16
しおりを挟む鎖国派が集めていた情報を、殴り込んで洗い浚いかっぱらってきました。
労せず……かは微妙ではあるが、ともあれ居る場所に関してはなんとなく判明する。
「霧連山、その周辺におまんの両親は潜んで居るようなじゃな」
移動中、馬(魔物)車を借りた俺は後ろに乗せたお辰へ状況を説明していた。
霧連山とは……まあ、火山が集まってできた場所だと思ってもらえばいい。
わざわざハイキング、ということでもない限りは危険な場所ゆえに向かったのだろう。
追手もそれなりに強いだろうが、質を厳選するぐらいはできるはずだ。
「追手が思いの他優秀だったようじゃな。資料を見るに、バレる前に人の少ない場所に向かったようじゃ」
「……たしかに、その近くに──」
「皆まで言わんでよか。さっさとそこへ向かうに限るぜよ」
偽善のための時間省略ということで、今回馬(魔物)には支援魔法を掛けてある。
ついでに乗馬や御者に関するスキルも一時的にダウンロードし、そちらも発動中。
揺れを限りなく抑え込み、最大効率で馬を操り走らせている。
時間にして十時間ほど、俺たちは霧連山へと辿り着いたのだった。
「……いやいや、おかしいです。どうして私たちはもう霧連山に来ているのですか!?」
「なぜと言われてものう……おまんさんが寝ている間に、少々馬が頑張っただけじゃ」
「……普通の馬ですよね?」
「魔物であることを除けば、ごくありふれた馬だと思うがのう」
十時間の間、ずっと起きていられていても
正直困っていたしな。
時間が掛かる旨を話していたのだが、先に寝てくれたお陰で早く着いた。
……企業秘密的な加速方法とか、お見せできないやり方がたくさんあってな。
まあ、彼女もちゃんと寝れたのだ……少し魔法を盛られていても満足できただろう。
熟睡していたからこそ、ツッコミがそこまで過激にならなくて済んだ。
……途中で魔物を大量に轢いていたし、見せられなかったな。
「……普通じゃない、絶対に普通ではありませんからね」
「まあ、おまんがなんと言おうと今ある光景こそが現実じゃきに。今やるべきことは、そうしてうだうだと言っていることか?」
「! そ、そうでした……って、それもこれも貴方の理不尽さが──」
お説教は数分続いたが、結局どうにもならないので諦めたようだ。
何より、早いに越したことは無い……すでに刺客は差し向けられているだろうから。
この先の展開を示すかのように、空模様はすっかり暗くなっていた。
曇天、それが意味するものは果たして──
◆ □ ◆ □ ◆
霧連山は活火山を有する連峰だ。
有毒なガスも発生するため、時期によっては入山が禁止される場所でもある。
当然、魔物も現れるため実力者でなければ滞在は困難だ。
追手から逃れていることからも分かるように、お辰の両親は実力者なので問題ない。
「おっ、もしやアレでは?」
「! ど、どこですか!?」
「ほれ、あの火山の上に居る」
「そんな場所見えません! ……ですが、二人ならあるいはと思えてしまいます」
強化した視力が、とある山の頂でイチャイチャしている二人組を見つけた。
写真(魔道具)で見た、美男美女のカップルと相貌に違いは見受けられない。
となるとつまり、彼らこそがお辰の両親である『竜馬』と『お竜』なのだろう。
娘との感動の再会だが……うん、見ない方が幸せなのかもしれない。
だが、そうも言ってられないだろう。
確実に追手は迫っていた……イチャイチャと同じく、そんな怪しげな連中が山を登る姿も捕捉していた。
「少し、派手に行く。おまん、ちょっと我慢せい」
「は、はい!」
「いい返事じゃ──『天線候破』!」
空に向けて、超高速で放った斬撃。
どこまでも、高く伸びていく剣の軌跡は、やがて雲にまで届き──重くどんよりとした空を、文字通り晴れへと切り開く。
天剣術の武技を模したソレは、雲を切り裂くことに特化した特殊なモノ。
自然現象であれ、魔力現象であれ雲という概念であれば自在に切り開ける。
そんな突然の現象に、両者共に気づいた。
刺客たちは俺たちに、そして両親は俺たちに加え刺客の姿も捉える。
「まあ、これで問題ないじゃろう。おまんの親に助けが居るなら、向かっても構わんが」
「いえ。あの二人なら、問題ないかと」
「そうけ、なら見ているだけで良か」
刺客に気づいた二人は、さっそく迎撃を始める……山頂という高低差を活かして、一方的に攻撃を始めた。
だからこそ、刺客たちも気づかれないように向かおうとしたのだが、それは俺の妨害によって防がれる。
強行突破で向かうことを決めたのか、一部の人員を肉壁にして山頂を目指す。
うーん、問題は無いだろうが、せっかくなら恩を売っておくか。
「もう一発じゃ」
「大丈夫だと思いますが……」
「まあ、保険程度にな。それに、闇雲に突っ込むだけの愚か者じゃないはずじゃし。やるだけやっておくわ──『断風・進』」
『──ッ!?』
刀の武技に、精気力で飛距離補正を加えて刺客たちに飛ばす。
技術的な面を精気力でごり押しし、強引に届かせる。
結果として、届くはずが無いと思っていた彼らに不意打ちを喰らわせた。
壁役を前に出していたため、後ろに居たのは強者たち。
──彼らを失った刺客たちは、そのままお辰の両親に蹂躙されるのだった。
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