2,368 / 2,518
偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と東の南釧 その15
しおりを挟むお辰を狙った鎖国派の手の者は、決闘場における奴隷売買にも関わっていた。
そんな都合の良過ぎる展開に苦笑しながらも、俺は殴り込みを掛けている。
いちおう運用技術『感網』で弱っている奴隷落ちがいないか確認したが、ここには現在そういった者はいなかった……決闘場で全部なのか、あるいは──。
「まあ、今ここで考えても仕方ないきに。ひとまずは、全部を破壊しちゃろう」
いずれにせよ、暴れ回っても困るような場所ではない。
見せしめという意味でも、盛大に壊れてもらうとしよう。
ゆっくりと商会へ向かえば、物騒な佇まいの俺を警戒する警備員たち。
だが構わない、魂魄偽装で明確に俺が何者かを誰も認識していないのだから。
それでも警備員が警戒するような何者かが現れたということで、商会を訪れていた客たちがざわざわしだす……ここで何を売っていたのか、知っている者も居るのだろう。
「止まれ! 止まらなければ──」
「力尽くでも、とでも言う気か? ハッ、やれるものならやってみぃ!」
「警告はしたぞ……行くぞ!」
「そりゃあこっちの台詞ぜよ!」
荒くれ者とは違う、ある程度統制された動きで俺を包囲しようとする警備員たち。
彼らがそれを成すまでわざわざ待って、それから俺も動き出す。
刀と銃を巧みに使い分け、一人ずつ確実に倒していく。
銃で牽制して刀で斬りつける、または刀を振るうと見せかけ銃をぶっ放す。
遠距離から『術』を放とうとする者たちには、弾丸を素早く装填して相殺。
二人掛かりで挑み両方の武器を封じようとしてくれば、体術で丁寧に応対している。
「みんな、離れろ──“乱雨矢”!」
「無駄じゃ無駄じゃ──『禍通風』」
刀用の武技をなぞり、放った一撃。
体調を悪くする厄介なエネルギーを、精気力を変換することで斬撃と同時に風という形で飛ばす。
独特の言い方で放たれた矢の武技は、力強い風の影響を受けて本来の方向からズレる。
そして、風の影響を受けたことで、衰弱していく人々。
その間を擦り抜けて、振るっていた刀を再び鞘に戻す。
途端、警備員たちが次々と倒れ、それを目撃していた人々が悲鳴を上げる。
我先にと出口へと走る彼らを、俺は止めようとはしない。
……が、一度だけ身体強化した足で地面を踏みつけて罅割れを作り、黙らせることに。
「おまんら、静かにせえ。……ふぅ、この罅の中に入らんなら、そのまま逃げても良か。近づくなら容赦なく斬る、それでも逃げる奴は覚悟するんじゃな」
そう伝えれば、彼らは逃げようとしなくなる──罅の広がりはかなりのもので、出口までの通路に罅が入っていない箇所がほとんど無かったからだ。
嗚呼、なんと不運なことだろう。
俺としては力は加減したし、言ったことも紛れもなく事実だったが、まさか耐震性がそこまで無かったとは。
……なんて適当なことを思いながら、銃をチラつかせつつ歩きだす。
俺がどこに向かうのか、怯えながらもこちらを見る人々の間を通り進んでいく。
向かう先にはこの商会の会長が。
途中で別れたお辰は、結界の魔道具があるからと少しだけ無茶をしていた……ミントも居るので、許可して手伝ってもらったのだ。
やはり逃亡しようとしていたのか、その恰好は少々乱れている。
だがそんなことは関係ないので、さっそくある質問をしてみた。
「いやー、実はここに鎖国派が居るっちゅうウワサを聞いてのう。ぜひとも会ってみたく思うちょるんじゃが……おまん、それがどういうヤツか知らんか?」
「…………さ、さぁ」
「そうかそうか、知らんか──もう一度だけ聞いてやる、鎖国派を知っておるか?」
一度目と違い、二度目は彼のすぐ傍に銃が突きつけられている。
生き残るため、彼に許されたのは持っている情報を正しく告げることのみ。
そして、そんなことをわざわざここですればどうなるかなど知れたこと。
……果たしてこれは、これからも同じことができるだろうか。
◆ □ ◆ □ ◆
善意の協力者によって、より多くの情報を得ることができた。
それでも闇は深く、まだまだ目的の情報には程遠いのだが。
会長自身、鎖国派なのはその方が売り上げがいいからだし、そこまで思い入れがあるようでもない……彼女を狙ったのも、上がそうしろとそう連絡してきたかららしい。
上、つまりは更なる鎖国派の存在。
末端とは言わずとも、だが利用されていたに過ぎない会長程度では、その正体に近づくヒントは得られなかった。
「おまんもなかなかに、苦労しちょるんじゃのう」
「それでも、私はあの二人の娘ですから。開国も、私自身が望んでいますので」
「そうかい。頼まれた以上、おまんの親にはしっかり会わせちゃる。ちょうど、情報も手に入れられたしのう」
鎖国派に関する情報はさっぱりだったが、代わりに彼女の親に関する情報ならば、上から会長へ送られたもので知ることができた。
どうやら、ちゃんと南釧の中に居るようなのだが、場所としてはかなり特殊なようで。
出てくるのを待つよりは、自分たちで行く必要があるようだ。
「おまんさん、どうする?」
「……行きましょう。待っていては、いつまでも会うことができませんので」
「そうか、なら任しとき!」
──そうして俺たちは、次なる目的地へと向かうのだった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる