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偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と東の南釧 その14

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 お辰の家の前で張っていた刺客たちを退けて、正面から堂々と彼女を帰宅させた。
 鞘に納めたままでも銃弾を装填せずとも、使いようによっては不殺には使えるようだ。


「……やはり、荒らされていますか」

「まあ、そりゃそうか。おまんらを見つけるカギになるかもしれんしな。それにしても、これがおまんの両親か……美形じゃのう」

「…………あの、何か?」

「いや、世は不公平じゃなと。おまんもそうじゃが、親も別嬪じゃのう」


 魔道具で撮ったのだろう、飾られていた精巧な絵葉書サイズの画像を眺めて呟く。
 着物姿の男女、そして今よりも少し幼いお辰の姿が映っている。

 その姿に見覚えは無いが、この世界でもかなりのレベルの美男美女度だった。
 ……別に比例しているわけじゃないが、主要人物ってだいたいそうなんだよな。

 
「普通に出歩いちょったら、すぐ見つかるはずじゃな。何か、容姿を隠すための道具かスキルでも持っておったんか?」

「…………」

「おまん、聞いちょるか?」

「! ご、ごめんなさい……たしかに、そのような物があると言っていた気がします」


 ……鈍感ではないと思うし、何より何度も眷属や『侵蝕』の人格たちによって恋だの愛だのについて学んでいたので、今更ながら自分の発言の影響に気づいてしまう。

 出会ってすぐに言ったならまだしも、軽くだが危険に晒したうえでの発言だからな。
 吊り橋効果……とは少し違うが、まあ彼女なりに心を開いてくれているのだろう。

 普通、美少女なんだから言われ慣れていると思うけども。
 別に精神分析のプロでもないし、これ以上は俺独りじゃ暴きようがないな。

 意識を切り替えて、彼女の両親に関する情報を集めていく。
 彼女も話題を変えたいのか、聞いたことにはほとんど答えてくれた。


「……これだけじゃ、無かと?」

「私の母はその絵の人です。しかし、父には他の女性も居まして……」

「なんともまあ、豪気なおのこじゃな」

「なのでおそらくは、母と共に他の女性の場所に居るように思われます…………言っておきますけど、母たちの仲はいいですよ!」


 俺の視線に気づいたのだろう、慌てて補足説明を行うお辰。
 ……いやそうじゃなくて、ハーレムとは羨まけしからん。

 自分のことはまあ置いておくとして、やはり美男子には女性が集まるものなのか。
 しかも奥さん(正妻)公認とは……男としての器が、相当優れているのかもな。

 なお、写真が無かったのは、行き先の偽装と思われるらしい。
 普段は飾っているらしいが、一つだけ置かれていればたしかに勘違いしそうだ。


「まあ、おまんの親の事情はさておくとしてじゃ。結局、親御さんはどこなんじゃ?」

「……えっと、正直心当たりが多くて、どこなのか特定ができないのです」

「いちおう聞いておくが、おんしの父親はどれだけの女と仲が良いんじゃ」

「…………指の数には、収まりませんね」


 それが片手だけなのか、両手なのか、はたまた足の指の数も含むのか……正直、聞きたくないのでこれ以上の質問は止めた。

 浮気とか、大丈夫なのだろうか。
 逆に全員との交際を正妻が認めているのなら、それはそれで凄いと思うぞ……うん、うちなら──って、考えちゃダメだな。


「地道に探す、あるいは何か連絡を取る方法でも試してみるか?」

「そんな方法……」

「まあ、無いじゃろうな。俺がやったアレと同じことじゃ、目立てば分かる」


 決闘場でのアレやコレやから俺の存在に気づいたお辰のように、情報をちらつかせれば意外と食いつく可能性がある。

 お辰からのメッセージだと分かる事柄を交え、何か騒動を起こすだけでいい。
 そうじゃなくとも、情報メディアに金を積ませれば案外どうとでもなるだろう。


「あくまで最終手段じゃがな。一番はまあ、アレじゃろう」

「……あの、アレとは?」

「うむ、もっと簡単な方法ぜよ」


 なぜだろう、彼女の顔がやけに引き攣っていた気がする。
 だが俺、そしてミントもそれを見て見ぬふりをし、提案通りに行動を始めるのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 彼女が狙われた理由、それは開国支持派の中で彼女の父がかなりの有権者だからだ。
 発案者ではないにせよ、女性関係からも分かるほどのコミュ力の持ち主らしい。

 そんな彼の手腕を振るわせないことで、鎖国を維持しようとする集団が居るようだ。
 ……刺客の使ったとうとの毒的に、間接的にあの人が関わっていそうだよ。

 刺客を雇った者は、尋問紛いのことを行いすでに把握済み。
 鎖国派と称される者たちが、そんな中で彼女を襲った。

 彼らはとある商会ということになっているようで……現在、その施設は崩壊の危機に晒されている。


「──だからと言って……」

「おまんさんのこと以外にも、ちと気になることがあるからのう。いずれにせよ、こうなることは決まっていたと思うがのう」


 都合がいいというかなんというか、鎖国派の商店は奴隷売買とも繋がりを持っているとウワサの場所でもあったのだ。

 それが真実にせよ虚偽にせよ、調べない方がおかしい。
 ──疑わしきは罰せよ、そんなこんなで俺たちは施設に殴り込んでいた。


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