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偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と東の南釧 その13

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 助けた少女──お辰の問題を解決するために、まずは家に帰すことにした。
 本来の流れ、つまり[クエスト]を把握していないからこその自由な選択である。

 まあそもそも、[クエスト]が出ているかどうかなど仮定でしかないのだが。
 主要人物っぽい、だからかもしれない……とこじつけているだけなので。

 こればかり考えていても仕方がないので、やるべきことをやる。
 ちらりと後方を見れば、少々不安げな様子の少女……そして楽しそうなミントが。

 ミントは魔力による霊体化によって、その認識が難しくなっている。
 だからこそ、楽しそうに鼻歌を交えながら飛んでいても気づかれていない。


「ね、ねぇ、先ほどから、突然人が倒れているのですが……まさかこれ」

「偶然じゃな」

「そんなわけないでしょう!?」

「いやいや、俺が何かしているところを見たのか? おまんがそれを見たというならば、そうかもしれんがのう」


 まあ、そんなことを言うヤツに限って、だいたいやらかしているのだけれど。
 それでもミントの存在は隠し通したい、というのもあるな。

 正確には、ミントがやっていることはバレてもいいが、彼女の姿を見られるのは困るということだな……いやまあ、パパ呼びされているわけだし。

 そうこうしている間に、彼女を狙う刺客が再び現れる。
 だが俺が知覚したとほぼ同時、その気配が一瞬で消え失せた。

 そして、その姿が気絶した状態で路地裏に晒される。
 お辰が驚いていたのは、何度もこんな光景が繰り返されていたからだ。


「ハァ、最近はこうも酔っ払いが多く出てくるのか……治安が悪いのかのう」

「だから、そんなわけないでしょう!?」

「そうかっかせんとよか。なぁに、危害は加えられんよ……たぶん」

「たぶん!?」


 ミントにそう頼めば、もちろんやらなくなるだろうが。
 だが、彼女がそれを楽しんでいる以上、俺はそれを止めることなど無い。


「……けど、ここからは俺の出番じゃな」

「! アレは……」

「おまんら、ほんに有名なんじゃな。押しかけがあそこまで居るとは」


 家がそれなりに立派な物で、屋敷と呼べるサイズだったことには目を背けておこう。
 屋敷の前に並び立つ、刺客たちの姿を見ながらそう呟いた。

 同時に、刀と銃を引き抜き構える。
 向こうもこちら側を知覚したのだろう、武器を抜いて駆け寄ってきた。


「お辰、そこから動かんとき」

「大丈夫ですか?」

「問題あらん、独りで充分じゃ」

『うん、お姉ちゃんはわたしが守るよ!』


 アイコンタクトでミントにも伝えていたこの発言、それをしっかり受け取ってくれる。
 なので彼女の方は大丈夫……だが、傍から見てそれが分からないからな。


「ほれ、これを持っとき。結界が少しの間、おまんを守っちょる」

「これ、よろしいのですか?」

「よかよか、俺は使わんきに。それを持っとけば、おまんも安全じゃろう?」


 近づいてきた男たちの一人が、『術』を俺とお辰に向けて放つ。
 それに何もせず、結界が起動──『術』は少女に、いっさいの影響を及ぼさない。

 渡した魔道具は、ただの結界生成魔道具ではない……スーの結界魔法が仕込まれているという、ほぼ最硬の魔道具なのだ。

 破壊したければ、最上級職が命懸けで発動するような技でも使わなければならない。
 周囲の魔力で術式は自動的に修復するし、耐久度はかなりのものである。

 俺が、そしてミントが居らずとも正直これさえあれば大半の偽善は何とかなるだろう。
 しかし、さすがにこれは違う、そう主張し続けているんだが……あまり芳しくない。

 そもそもこれを持たされている時点で、お察しだろうか。
 まあ、こういう時に使えるので、決して無駄ではないんだがな。


 閑話休題あんぜんそうち


 刀は鞘に納めたまま、銃は弾丸を籠めないで挑んだ戦い。
 相手を舐めているのもあるが、そういう縛りもいいかなぁという考えがあった。

 彼女に殺しを見せないという配慮、そして縛り時でもそういった更なる縛りができるかという試みだ……それをするだけの力と余裕があるからこそ、できる行いである。


「おまんら、アレは俺を殺さんとどうにもならんぜよ」

「! 嘘か本当かなんて関係ねぇ、両方やっちまえば分かることだ!」

「かかっ、間違っておらん。やれるもんならやってみろ、それだけぜよ」


 左手でクイクイ招き、挑発してみた。
 思いのほか耐性が低かったようで、勢いよく吶喊してくる。

 すぐに銃を二、三発放つのだが、先ほどのように『術』が起動した。
 防御系の『術』によって、弾丸は築かれた土の壁に阻まれる。


「なら──『嵐刃ランジン』」


 超高速で振るわれる斬撃が、嵐のように無数の風の刃となって彼らを襲う。
 ただ、鞘に納めている影響か、斬撃というより空飛ぶ打撃だな。

 それでも壁は何度も打ち付けられる衝撃によって、だんだん破壊されていく。
 壁が崩壊してもなお、武技もどきの再現は続いた。


「どうした、もう終わりかのう?」

「ば、化け物め……」

「おまんらの好きに呼べば良か。勝てば正義じゃき」


 それが終わるとき、立つ者はごく僅か。
 特に打ち合いをするでもなく、また屋敷の前で待機していた者も含め……彼らの排除に成功するのだった。


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