上 下
44 / 2,519
偽善者と時を駆ける老若男女 二月目

02-10 武具創造【憤怒】

しおりを挟む


 あれから数日が経過し、畑の植物たちも大量に実った。
 町に行って種を買っては、リーンの畑に埋めて魔法で急速栽培していたんだ。

 時魔法“時間加速クイック”を適度に施し、育てた結果──品質はA+。
 まあ、無理にやった側としてはしょうがない結果だと理解しているし、デミゴブリンたちも新しい食べ物を喜んでくれていた。

「せめて、木魔法が木以外にも使えるような魔法だったらよかったんだけどな……」

 木蔦や木茨という言葉があるお蔭か、蔦や茨には干渉できるんだが……それ以外のモノには対応しておらず、時魔法で時間を飛ばすという方法しか取れなかった。

「まあ、その考え方だと木苺にも効くことになるんだが……そこはまず、この世界にそもそも存在しているかを試さないとな」

 西のエリア──適正レベル20以上である『迷いの森』が植物の宝庫だという噂を耳にしたし、もしかしたら木苺もそこら辺に落ちているかもしれない。

 甘味で味付けしたポーションは、子供たちにも大人気となっている。
 仮初の王であろうと、国民が喜ぶ物を用意するのは当然の義務であろう。





 と、ここまで他者を思いやっての思考が行われていたが、ここからは完全に個人的な考えを元に動いていこう。

 ──そう、つまり武具創造である。

「ついに、これを創れば半分の聖・魔武具を生みだしたことになるんだな」

 七つ目、一つ一つが主人公の能力として採用される程に強力で凶悪な力を秘めたアイテムを個人が有する異常事態。
 ステータスとは関係ないが、なんだか手馴れてきた作業を今回も行う──

(“魔武具創造クリエイト・イービルアーム”)

 ついには思考による発動で起動させ、よりイメージを伝えられるようになるまでに……まあ、実際どうだかなんて分からないが。

 毎度のことだが、魔武具の創造時は昏い雷光が生みだされた空間の裂け目から辺りに向けて炸裂する。
 綺麗なエフェクトもただ綺麗だと思えるぐらいに、経験を積んできた。

「おっと、そろそろできあがるか」

 タイミングもバッチリだ。
 生みだされた魔武具を手に取ると、すぐに鑑定を発動する──

---------------------------------------------------------
反理の籠手 製作者:メルス

魔武具:【憤怒】 自己進化型
RANK:X 耐久値:∞

今代の【憤怒】所持者が創りだした籠手
所持者に不殺の格闘技術を齎し、装備中に起きた事象を覆す力を有する
対価を支払えばあらゆる運命に干渉し、死すら覆すことが可能
また、この籠手は意思を宿しており、攻撃や主以外の者を拒絶する

装備スキル
(自我ノ芽)(接触反転)(因果改変)(禁殺格闘)
(物理増幅)(物理貫通)(殴打成長)(?)……
---------------------------------------------------------

 怒りが力となる、某野菜の宇宙人みたいな能力も最初は考えていたんだが……魔武具とは関係なく、【憤怒】の能力自体がそれに近しいものだったので、俺のイメージはこのような物となった。

「キレた奴といえば、やっぱり拳骨だ。けどそれはただ発散のために行うモノと、相手のことを想って行うモノがある」

 それによって荒んだ心が癒える、なんてドラマみたいな話があるぐらいだしな。
 ──そこから発想を得て、この魔武具は創造されたわけだ。

「殴ったダメージが回復する、そう例えると【救恤】の近接版みたいになっちゃうな。もちろん、全然違うけど」

 怒りとは、さまざまな要因によって引き起こされる原初的な感情だ。
 物理的や精神的、有形無形に問わず、その事象が自身にとって気に食わない結果であれば怒りの想いが生みだされる。

 この魔武具は、要するに発生した問題へ対処するために創られた物だ。
 先も挙げた人の心を動かす象徴として、籠手を用いて改変したいモノに触れる。

 すると俺の魔力を対価に、打撃のダメージが問題を解決するためのエナジーとして使用されるわけだ。
 殴られた者は心身を癒され、荒れ果てた自然は豊穣を約束される。

「……まあ、今のままじゃ全然使わないだろうけど。わざわざ近づかずとも、魔法の連射でだいたいの問題は解決できるし」

 ならなんで、なんて疑問が飛んできそうだが、それにはわけがちゃんとあるのでお気になさらず。
 ──創りだしたからには、俺なりの意義という物を籠めているのだから。

「怒りは誰でも抱くモノ。聖人であろうと、救われない者たちを救おうと憤る。【憤怒】すること自体に善悪の感情は無いんだ。俺たちが、今生きていることの証明なんだから」

 神話によれば、神様だって怒って人間に試練や裁きを与えるのだからそうなのだろう。
 正しい憤怒なんてものは分からないが、それでも感情そのものに罪はない。

 人の捉え方が善悪を定めたのであって、複雑な感情を罪や徳という形でカテゴライズされていたわけではない。

「そもそも偽善って罪なのか徳なのか……考えれば考えるほど、謎が深まるな」

 まあ、両方ってことでいいか。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...