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偽善者と時を駆ける老若男女 二月目

02-09 武具創造【救恤】

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「あーあ、ぱない。マジぱねぇ」

 ぶんぶんぶんと、矛を振り回しながらあるものに関する感想を述べる。

 つい転職してしまった『矛士』だが、ちょうどよかったので矛の技術を磨いていた。
 せっかく盾と矛の両方を装備時に補正がかかる【矛盾】を持っているのだから、ある意味ピッタリなタイミングだったな。

「しかしまあ、技術が格段に向上したな。これが神様の加護ってヤツか」

 ぱねぇと言っていたのはそれだ。
 生産時に絶大な補正が入る【生産神】。
 名前からしてチート感が半端ない職業なのだが、本当に効果がチートだ──

「生産時、DEXがカンストするって異常だろ。このゲーム、インフレしすぎだよな」

 経験値の異常取得から始まり、今では条件付きで一部能力値が∞になる始末。
 誰が悪いというか、『???』が悪いこの問題……解決できない難問であった。

 だがその結果、ネットで見ただけでそれ以外特に調べてもいない矛の作り方が頭の中にダウンロードされるようになる。
 頭で考えた通りに手先が動き、文字通り神業に等しい技術が簡単にできた。

「お蔭様で、品質がSの矛ができたから俺としては満足でござる」

 人様のことを考えていては、偽善者なんて勤まらないだろう。
 あくまで我が儘に独善的に、相手に関わることが大切なんだからさ。





 ──なんてことはさておき、今回もまたイメージが定まったので創造を行った。
 これは生産ではなく創造、これまで同様に俺の想念がエントロビーの法則すら無視して概念を物質化させる。

「ふぅ……完成だ」

 桜色をしたソレを眺め、余韻に浸る。
 赤十字の色は赤と白、絵の具のように混ぜれば桃色になって桜も塗れる。
 ……こじ付けもいいところであるが、そもそも意味の方に苦悩し出したので、今回もそれは勘弁してもらいたい。

 そんな武具が、こちらである──

---------------------------------------------------------
必救の桜弓 製作者:メルス

聖武具:【救恤】 自己進化型
RANK:X 耐久値:∞

今代の【救恤】所持者が創りだした弓
狙った対象に必ず当たるがダメージは無く、当たった対象をどんな存在だろうと癒す
また、この弓は意思を宿しており、攻撃や主以外の者を拒絶する

装備スキル
(自我ノ芽)(再生魔法)(必発必中)(救生済矢)
(無限射程)(無尽射撃)(応急成長)(?)……
---------------------------------------------------------

「アンデッドに回復魔法は逆効果、なんてのもスルーした回復特化の武具でござる」

 俺が弓を射た際に本来起きるダメージ換算が、回復に変換されると思えば分かりやすいだろうか。

 指定した身力値すべてを、相手の了承を得ずとも癒すことができるチート弓。
 どこからだろうと助けを求める者に矢を飛ばし、苦しむ者に救済を施す。
 どんなに多くの人が助けを求めても矢を飛ばし、傷つく者を一度で治す。

「……ダメージが無い支援系の魔法なら付与できるけど、攻撃がいっさいできない分後方支援特化の武具になったな」

 支援系の職業なんて、俺一つも持っていないんだよなー。
 そのうち取ればいいか、成長をあえて止めている【経験者】の経験値がかなり溜まっているので、すぐにカンストもできるし……。

「まっ、矛士をカンストさせる方を優先しなきゃ駄目だけどっと!」

 矛の正しい使い方は分からないので、スキルのアシストを受けた状態で振り回す。
 その感覚を一度体験し、今度はそれをできるだけ自分で行えるようにしていく。

 はてさて、カンストに必要な経験値はいつになったら溜まるのかな?

  ◆   □   ◆   □   ◆

 リーン

 さて、【生産神】で超高品質な武具が造れることは試した。
 しかし生産とは鍛冶だけではなく、他にもさまざまなことができるわけで──

「いぃんやー、こらぁえぇづちだなぁ!」

 意味もない訛りを加えている俺は、農業用に縫ってみた地味な作業服を着込んでいる。
 握っているのは矛ではなく鍬、足元にはふかふかの土が広がっていた。

「こらぁ……飽きた。これならきっと、いい素材が採取できるな」

 先の【生産神】問題によって、俺は初期に選択できる六つの生産職を極めた。
 しかし、スキルを習得していなかったということもあり、職業補正でしか作業が行えないという中途半端な状態。

 ──と、いうわけで習得しました。
 SPは余ってるし、(裁縫:5)と(耕作:5)、それに(木工:5)をパパッと選んだ。

 まあ、無くても∞のDEXが補正してくれるわけだが、あった方がいいこともあるわけで……それぞれ中級になる分の経験値が、つい先ほど溜まったところである。

「品質は……Aか。耕作を上級まで上げればちゃんとSまで到達するか?」

 現在、デミゴブリンたちによる耕作は収穫の段階まで来ていた。
 土壌魔法“畝作成クリエイト・リッジ”で畑を作り薬草を植えただけなのだが、それでも一定品質の薬草が採取できることは確認済み。

 だが、魔法による栽培はそれが条件の植物以外にはあまりよくないらしく、これまでに取れた物すべて、一度として品質がSになったことはない。

「けど、耕作スキルを習得したお蔭でその枷が外れたわけで……究極のポーションが完成しそうだな」

 神の名を持つ【生産神】であれば、神話に語られた不老不死の薬でさえ生成することが可能に……あっ、レシピが浮かんだ。
 素材的にはまだまだ不可能だが、技術的には可能になりそうだからなおのこと怖い。

「しかし、偽善も冒険もしていない感が凄まじいな。完全に農作業じゃん」

 日の光に目を隠すように帽子を下げ、額に流れる汗(流れてないけど気分)を拭うその姿、まさに一仕事終えた農家の人である。

 有り余るステータスを闘うためでなく命を育むために使う、なんて言葉を使えば響きが好いけど……やってることが地味だしな。

「まあ、ポーションで救える命もあるわけだし……張り切ってやりますか」

 結局この日、リーンの東フィールドに新たな畑エリアが生みだされることになる。
 その地は豊饒の大地とされ、どんな物を植えても最上品質のアイテムが採取できるようになったとかならなかったとか……。

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