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偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と東の南釧 その12
しおりを挟む対象を誤認させ、対面することを拒んでいたはずの少女に見つかった。
当時とは異なる魂魄偽装をしていたはずなのだが、それすらも見抜くナニカの持ち主。
少なくとも普通ではない……才に恵まれた者なのだろう。
何はともあれ、これ以上逃れようとしても無駄だろう、そう諦めることに。
「ハァ……それで、何の用なんじゃ?」
「…………」
「本当に何も無か? 無かば、俺は──」
「ま、待って! あるって、用事あるから見つけようとしていたのではないですか!」
チッ、強引に行こうと思ったけどやっぱりダメだったか……。
背を向けて遠ざかろうとする俺の肩を掴んで、強引に引き留めてくる。
「それで、何が目的じゃ?」
「……あの、その……」
「…………やっぱり──」
「お、お礼! お礼が言いたくて! だからそんなに逃げようとせずとも、良いではありませんか!」
そこまで言われて逃げるわけにはいかないので、仕方なく足を止めた。
俺が動くのを諦めたと分かり、肩から手を離し──
「だから、なぜ逃げるのですか!」
「うーん、なんとなく」
「その程度ならば、お礼ぐらい聞いてくれても良いでしょうに! ええい、多少強引にでも聞いてもらいますからね!」
「それ、お礼と言うんか?」
多少は抗戦を……と思ったが、俺の思考は一瞬で消え失せた。
逃げようとしたのはたしかに俺だが、このタイミングで現れたからだ──ミントが。
『パパ……って、このお姉ちゃん』
「ど、どうしたのですか? いきなり抵抗を止めて、ようやくお礼を受け取る気になったのですか?」
『! やったねパパ、お礼だって!』
「ハァ……仕方なか」
ミントの前でいつまでも悪ぶっていても仕方が無いし、大人しく諦めた。
これ以上やっても、ミントに嫌われてしまうだけだしな。
まだ少女の名前も把握していないし、ここで関係を築くことも決して悪くはない。
……俺が面倒なだけで、プラスなことはたくさんあるからな。
◆ □ ◆ □ ◆
彼女は自らをお辰と名乗った。
某放送局の朝ドラにありそうな名前だが、さすがにそれとは関係ないだろう。
あまり多くを明かさない彼女からは、当然ながら厄介事の気配が醸し出されている。
……そして俺同様にそれを嗅ぎ付けたミントは、目をキラキラとさせていた。
彼女の思考内では『危険=偽善=パパ大活躍』、という考えが浮かんでいるのだろう。
まあほとんどの眷属と、実際そんな方程式が成り立つような出会いをしてきたけども。
とりあえず、話を戻そう。
お辰の家はこの南釧にあり、家族もそこに暮らしている……が、訳あって今は両親と離れなければいけないらしい。
双方に問題があり、いちおう今は親の行動に目を付けられ人質としての価値から狙われているようだ……うん、詳細はともかく、だいたいの事情は分かった。
「それで、そこまで言ったんじゃ。ありがとうございました、さようならとはいかんじゃろうて」
「──お願いします、しばらくの間だけ私を守っていただけませんか!」
「ああ、いいぜよ」
「そうですよね、いきなりこのような申し出があっても……って、えっ? よろしいの、ですか?」
そりゃあまあ、後ろで楽しみにしている娘が居ますので。
どうせ決闘場を崩壊させ、やることも無くなっていた暇人である。
闘奴や違法奴隷たちは眷属たちに任せ、俺はもう少し偽善を楽しもうじゃないか。
言い方は悪いが、少女ことお辰は偽善をするための媒介と言っても過言ではない。
だがそれと同時に、彼女もまた俺を自身のために利用するのだ。
……ひねくれていると言われても、眷属以外に無償の想いなど注げないからな。
「構わん構わん。俺もおまんも、お互いにお互いを利用するんじゃ」
「利用……ですか」
「ああ、言い方が悪かったのう。捉え方は好きにせい、だが俺はただおまんを守って自己満足に浸りたいだけじゃ……どうじゃ、がっかりしたかのう?」
「いいえ、貴方の主張も理解できます。ただそうですね……もう少しだけ、言い方があるのではかと思いますけども」
「カカッ、悪い悪い。武威はあっても、礼儀は足りておらんようでのう。そうじゃな、ならばこう言っておこう──どうか俺に、守らせてくれ」
こうして、改めて俺たちは護る側と護られる側という立場に収まった。
彼女は利用されないため、俺は偽善をするための選択。
……本来の祈念者たちが[クエスト]を発注されていたら、どう反応したのだろう。
偽善をするため、それらを視覚化していない俺にはよく分からんのだが。
間違いなくこの南釧内で起きる騒動の主要人物だ、世界……ではなくとも、井島においてもそれなりに重要なはず。
彼女の損失、あるいは捕縛が何らかの形で大きく騒動に関わってくるだろう。
それを守り抜いたとき、果たして井島という国そのものがどうなるのやら。
「それじゃあ、さっそく行くとしよう」
「えっと……どちらへ?」
「決まっておろう、おまんの家じゃ。向こうで待って、問題解決を待つ。これで充分じゃき……問題あるか?」
「えぇ……」
待ち合わせなども無いようなので、一度帰宅した方が集合にも向いている。
また、何か資料があれば解決の糸口も見えてくるかもしれない。
すべてを開示しなかったのだから、必要な情報収集をしてもいいだろう。
自分勝手な理論をでっち上げ、俺たちは目的地へと向かうのだった。
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