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偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と東の南釧 その10
しおりを挟むミントの叫びは、衰弱している子供を救ってほしいというものだ。
感知していた俺は、すぐさまそこを目指して急行することに。
道中、追手の連中が俺の近くを通るが、その辺りは強行突破。
隠れ潜むのではなく、銃弾で意識を逸らすなどして先へ進んでいく。
「……ここ、じゃな」
そこには一つの檻があった。
地上から“次元斬”を放った影響で、出るために不自由は無い……だが収容されていた者に不自由があるのであれば意味がない。
檻の中に入ると、そこには寝たきりの人々が残されていた。
俺が『感網』で把握した者だけでなく、他の者もそれなりに弱っている。
この檻はいわゆる隔離区画で、『廃棄』される者たちが一纏めにされている場所だ。
あるいはそんな人々を、格安で売るための場所でもある。
鬼娘は強すぎるために完全な闘奴として扱われていたが、犬娘などの奴隷たちの場合はそれ以外の使われ方も想定されていた……気に入った相手を買う、という方法だ。
「どいつもこいつも辛気臭い目をしちょる。ハァ、そりゃあ誰も出てこんわけじゃわい」
『…………』
「おまんらがそこに居るのはなぜじゃ? 動けぬから、命令だからといろいろあるんじゃろうな……まあ好きにせい、俺が救いの手を伸ばしにきちゃるは、おまんらじゃあらんからのぅ」
適当な口調で檻の中に潜り込み、そのまま目的の人物を拾い上げる。
檻の中に居た子供を数人抱え上げると、俺は再び外へ──
「ま、待ってくれ!」
「あ゛!?」
「うっ……お、俺も出して──わっぷ」
「おまんらのことなど知らん。出たきゃ好きにするんじゃな」
液体を部屋中にぶちまけ、俺はいっさいの声を聞くことなくこの場から去る。
ただ一つ、部屋が騒がしくなったのだけは把握していたのだが。
◆ □ ◆ □ ◆
子供たちにはポーションを優しく飲ませ、傷ついた体を癒しておいた。
精神にまで効くのは……あるにはあるが、あとが怖いので止めてある。
そのまま眷属や国民が待つであろう場所に転送し、俺はいっさい触れないでおく。
どういった問題を抱えているのか、それは見ただけじゃ分からなかったからな。
ミントに頼まれたことはこれで済んだ。
奴隷たちを救う……なんてことは面倒なので、自分たちで頑張って脱出してもらい、やりたいようにしてもらおう。
決闘場の運営に関しては、少なくともこれまで通りとはいかないはずだ。
今の経営者はクビ、新たな経営者がここを運営していくだろう。
問題はそれが、善良な存在なのかどうか。
まあ、さすがにそこまで面倒は見れないのだ、この街の人々が決めればいいさ。
「あとは……魔物だな」
鬼娘以上に“指揮紙”で縛られ、囚われている魔物たち。
正直、前科ありで囚われた人族よりもそちらの方を俺は憐れんでいる。
彼らの罪とは何なのだろうか、一部の者は人を殺したかもしれないがその大半は魔物である、それだけを理由に囚われている可能性が高いからだ。
希少な人族も同様に囚われることがあるのだが、罪とは彼ら由来のものではなく、捕らえようとする者たちのものではなかろうか。
「──って、何を考えているんだか」
『──!』
「もう少し待っておけ……よし、外せたぞ。しばらく休んでおいた方がいいな、あの先に行ってくれ」
『────』
魔物はシンプルで良い。
圧倒的な実力差を感じて、逆らうことなく俺の指示通りに従っている。
転送陣を一時的に用意すれば、先がどこであろうと自ら向かってくれていた。
囚われていた魔物にポーションを掛けていけ、癒すだけの簡単なお仕事を繰り返す。
一部、血気盛んな個体が回復した直後に人族へ復讐しようともしていたが。
その辺は軽く圧を飛ばせば、とりあえずの妥協はしてくれる。
文句があるならば、まず強者である俺の主張に異議を申し出ればいい。
それができないからこそ、これまでの魔物は大人しく転送されていたのだから。
「おっ、やるか?」
『──ッ!』
「いいぞ、それならこっちも容赦はしないがな──『噴魔』」
運用技術の一つによって、魔力を一点に注ぎ込み解放する。
濃縮された魔力を浴びたその個体は、戦意どころか意識も失い気絶してしまう。
「おっと、やり過ぎた……おい、誰か転送陣へ放り込んでくれ」
『──!!』
「おいおい、そんなに慌てずともいいぞ。お前らの傷も危なくなるかもしれないだろう」
力量差に怯え、媚びを売るように魔物を運搬しだした。
魔力の波動は彼らも感じ取った、だからこそこれ以上俺に逆らう気はないのだろう。
やはり、魔物はこういう点がシンプルで助かるのだ。
転送先に居る眷属ならば、俺よりも手早く魔物を従えることができるだろう。
「決闘場はもうこれでいいか……ミントはまだ外だし、しばらくはここでゆっくりしておこうか」
辺りの檻は纏めて回収して、この辺りからすべてを消し去っておく。
そうして空いたスペースで、まったりと休むことにした。
これで終わればいいのだが……うん、まだ何かある気がするんだよな。
自分の嫌な予感に辟易としつつも、その時に備えるのだった。
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