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偽善者と時を駆ける老若男女 二月目

02-06 武具創造【慈愛】

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 ログインをする。
 昔は魔力を使用したあとは、ログインした瞬間に影響が起きたのだが……随分と慣れたもんだな。

 水晶の作成に使った魔法はそう多くない。
 だが発動した魔法を調整し、長時間維持するのに膨大な魔力を消費していた。
 ──結局、魔力はどれだけあっても足りないわけだ。

「なんでも数字があるものは、多いに越したことはないってことだな。身力値や能力値、レベルや金も……金だけ場違いに感じる」

 現実ではもっとも使いそうなんだが、なんだかこっちだとそう思えてくる。
 それもこれも、俺がお金を使っていないのが理由なんだろうか?
 リーンが街になってきて、わざわざ始まりの町に行く必要が減ってきたし。

「……称号で『世捨て人』、なんて出なきゃいいけど」

 うん、ちゃんとリーンの住民たちと関わっているわけだし、大丈夫……だよな?


 閑話休題でもひきこもり


「水晶の最終フェイズもあるわけだが……先に、いつもの日課を済ませようか」

 それなりに時間のかかる作業だったこともあり、すでにアイデアが一つ固まっていた。
 つい先日、オリジナル感が必要とか語った気もするが……著作権が切れてるものなら構わないよな?

「魔力増強完了。さぁ、準備は万全だ」

 やり慣れた、と言っても過言ではない。
 イメージに関しては別問題だが、創造自体に関してはだいぶ経験を重ねたからだ。

 自分の想像を具現化し、創造する。
 魔力が万能だということを、強く実感する理由でもあった……いやいや、ダジャレというわけではないからな。





 そして、俺の眼には楽器が映っている。
 どうして楽器なんだ? そもそもお前は何がしたいんだ……モブのくせに、などという意見は多々あるだろう。

 しかし、少し待ってもらいたい。
 理論や理屈を並べる気はさらさらないが、とりあえず見てほしいんだ──

---------------------------------------------------------
終焉の喇叭 製作者:メルス

聖武具:【慈愛】 自己進化型
RANK:X 耐久値:∞

今代の【慈愛】所持者が創りだした喇叭
魔力を籠めることで表面積を無限に拡張可能
当然音を出すことも可能で、その音色は最後の審判を告げる音とも言われている
また、このラッパは意思を宿しており、攻撃や主以外の者を拒絶する

装備スキル
(自我ノ芽)(音魔法)(振動魔法)(無限拡張)
(嵩幅調整)(最終審判)(演奏成長)(?)……
---------------------------------------------------------

「ガブリエルのラッパをイメージして生みだした、無限に大きくなるラッパだ……まあ、デカすぎても吹けないけどさ」

 ガブリエルのラッパとは、有限の体積で無限の表面積を持つといわれるラッパである。
 数学的には証明されているだのなんだの、ネットで見たことがあったんだよ。

「あとはそうだな……ラッパを媒介に二つの魔法が使える。それに、最後の審判的なことができるぞ」

 ただしこれ、何が起こるか分からないランダム性──つまりはハ°ルフ°ンテなのだ。
 成長を遂げれば、それも操作が可能になるだろうが……とりあえず今は、楽器演奏用のスキルを習得しないとな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 スキル習得よりも先に、水晶を完成させなければならない。
 再び『堕落の布団』との死闘を繰り広げたのち、作業を再開することになった。

 昨日同様、司会風の喋りをしながら作業を進めていく。

「さて、すでに水晶以外の品は完成させてあります。それらを同じ場所に並べます」

 特に大変だったのは高純度の魔石だ。
 属性が付与されていない無の魔力を、わざわざ『始まりの草原』まで行って掻き集めて来た……高純度、というのがかなりの量だったため、リーンの魔力濃度を下げすぎないためにもそうする必要があったんだよ。

 そんなこんなで集めた魔力を、純魔法の一つ“魔力譲渡マナトランスファー”で一気に注ぎこむ。

 なお、容器に関してはその上位魔法である具現魔法で、丸い入れ物を生みだしたぞ。
 この魔法、実はかなりピーキーな仕様なんだが……説明はまた別の機会に。

「これを錬金術で再び合成して、水晶に魔力が流れるようにすれば……はいっ、転職・進化用の水晶の基礎が完成しました!」

 まあ、ここまでは誰でもスキルを手に入れて修練を重ねればできるだろう。
 ……もちろん、水晶を特殊な施設の特権としているわけなので、最後の最後までコピーなんてさせてくれないのだが。

「──偽善者に不可能はない! 誰かのために何かをするのであれば、まず何でもできるようにしなければならないからな!!」

 自身を再定義し、(一途な心)によるブーストをかける。
 成功率は、少しでも高い方がいい。
 ある意味で、神をも恐れぬ所業を行うわけなので……偽善者は横暴なのだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 片手に『万智の魔本』を広げ、メルスは最後の一仕事を始める。

「このページからここまでか……それを、水晶にペタッとな」

 記された膨大な量の術式を、【譲渡】の能力を用いて水晶へ書きこんでいく。 

「う、うぐぅ……こ、この際、情報が頭を圧迫します、ので、ず、頭痛に注意、してくださいね……痛ててて」

 神々が人を強くするために与えた、特殊なシステムである職業。
 また、古来より生物の特性として秘められていた『進化』の方向性を操作できるようにした神授の水晶。

 それは決して人が干渉を行えないよう、何重にもプロテクトが施されていた……はずであった。

 その一つ──叡智を極めようと理解することのできない、神のみが扱える特殊な術式。
 そこに手を出し、あまつさえそのすべてを解析したメルス……膨大な量の情報が瞬時に頭の中を過ぎり、限界を超えた頭は悲鳴を上げて痛みを引き起こす。

「ま、まあ、こんな感じでやることで、水晶に必要なプログラムを書き込めます……おっと、鼻血が出てきたな」

 服の袖で血を拭い、回復魔法で頭を治す。
 書き込み自体は一瞬で終わっているため、それだけで出血は止まった。

「と、とりあえずこれで水晶は起動できるわけですが……よくある創作物的に、こういうアイテムには監視が就いています。なので、これを先に防ぐ必要がございます」

 実際、神々は誰がどういった職業や種族に就いたかを水晶を介して調べている。
 選ばれし存在──【勇者】や【魔王】の出現を、すぐに知るためだ。

 そういった事情もあり、水晶の情報はたしかに神々に送られている。
 ある意味地球の常識によってそれを察したメルスは、予防策を設けることにした。

「時空魔法と結界魔法を同時に使い、情報の送信を防ぎます。この際、受信を防いでしまうと転職や進化が行えなくなります。しっかりと拒むモノを選んで遮断しましょう」

 そういった部分に関するプログラムを削いだ場合、システムが機能しなくなるため消すことはできなかった。
 そのため面倒な過程を通してでも、こうしたやり方を行うことを選んだ。

「そして、そこに再び起動用の魔力を注ぎ込むことで──完成です!」

  ◆   □   ◆   □   ◆

 名付けて、『転進の翠晶』。
 結界やグーによるアレンジの結果、水晶の色が緑色に見えるのでそんな名前にしてみることに……名前って、大切だろ?

「使用に関しても……うん、よし。ちゃんと使えているな」

 表示されるのは、いつも神殿にある水晶へ触れた際に展開される転職画面。
 不正なアクセスで変なイベントが起きるわけでもなく、見事成功したわけだ。

「あとはこれを、リーンの分も作って配達する……複雑なアイテムのコピーも、グーができればよかったんだがな」

 魔武具『万智の魔本』のアイテム複製能力は、まだ単純な構成の物しかできない。
 難易度MAXの水晶なんて、まだまだできないというわけだ。

「まあ、巨大水晶はコピー可能だし、作業工程の半分は済ませたような物か。あとはさっきやったことを、もう一回やればいいだけだし……うん、明日だな」

 頭痛がするほどに頭を酷使したせいか、少し体調が不安になってきた。
 リアルの俺、鼻血を出してないよな?

 ログアウトはまだしないが、それでも同じ作業はまた別の日にすることにしよう。

「他にやることと言えば……クーの検証か」

 クーとは【純潔】の聖武具『星約の腕輪』に与えられた、これまたシンプルな名前だ。

 由来は……セイヤクだから。
 純潔とは英語でChastity、このままだと『チャー』という名前になる……どうせならこのまま、二文字を貫きたくていろいろと思考が雑多になった結果である。

「だいたいのスキルはすぐに分かるからいいけど、これだけはな……(誓約正規)」

 うん、これを試しておかないと。
 場所を変えて、調べてみよう──





「よし、終了っと」

 使用することで能力が理解できる仕様だったので、確認はすぐに終わった。
 どうやらこのスキル──単独での使用はできないようだ。

「約束事ってのは、まあ同じぐらいの知性を持つ相手とするもんだしな。なるほどなるほど、仕方がないことなのか」

 一人で発動してもほとんど意味は無く、必ず知性を持つ相手が必要となる。
 もともと人生の墓場のイメージも絡めていたし、二人は必要となるスキルになることは確定だったのだろう。

「ただこれ、今の俺に使う時は来るのか?」

 コミュ症気味の俺が、わざわざそうした誓約を用意する必要性は低い。
 うーん……少なくとも、武具の創造をやっている間はなさそうだな。

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