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偽善者と時を駆ける老若男女 二月目
02-05 武具創造【純潔】
しおりを挟む「よし、『グー』に決定だっ!」
だって、【強欲】の魔法書なんだから。
スー、リーと続いて名前の響きがやけに単純なものな気がしたが、俺のセンスがアレなので致し方ない。
「うんうん、やっぱり名前を付けておかないとテンションが上がらねぇな。これからよろしく、グー」
謎のスキル(自我ノ芽)を持っているので、間違いなく自我を有するだろう。
目覚めた際にコミュニケーションが取れるよう、暇な時は話しかけておこう……傍から見れば、変人確定だけどな。
「さて、今日も武具創造をやるかー」
最近は、アイデアが纏まる度にこれを行うようになってきた。
魔力の貯蓄はバッチリだし、望んだモノが創れるというのもなんだか楽しく思える。
「まあ、パクリは注意だけど」
プレイヤーが居るのだから、この世界にも例の機関が潜りこんでいる可能性が高い。
そりゃあ掲示板のネタにはなるだろうが、普通のプレイヤーが作る品と違って摸倣性が半端ない代物となってしまうので洒落にならないんだ。
「うーん……強く引っ張られないように、オリジナル感が必要だな」
ある意味初めての作業でもある。
少しばかりの不安は残るが、自分のイメージを信じてやってみようと思う。
「準備完了、やってみますか」
予め(並列行動)で整えていた支度もすべて済んだ。
あとは高々と叫ぶだけだ──
「“聖武具創造”」
二度行った魔武具創造と同じように、溜め込んだ魔力をごっそり奪い去ることでこの力は発動する。
その影響で体調が悪くなったが、どうにか創造の瞬間だけは捉えることができた。
「演出は似てるのか……うん、対となる能力だしな」
あちらは昏い夜のような光がスパークしたが、今回は聖なる光のような輝きが空間の裂け目でスパークしている。
神云々をあまり信じない日本人ではあるけれど、これが神聖さなんだなーというものをなんとなく分かった気がした。
「さぁ、生まれよ! 我が聖武具!」
再び告げる言葉。
裂け目からは過剰なスパークを迸らせながら、俺の望んだ力が生まれる──
---------------------------------------------------------
星約の腕輪 製作者:メルス
聖武具:【純潔】 自己進化型
RANK:X 耐久値:∞
今代の【純潔】所持者が創りだした腕輪
互いの同意を得ることで、あらゆる誓約を叶える特殊な空間を生みだすことができる
さらに、駆け引きに絶大的な補正を齎す
また、この腕輪は意思を宿しており、攻撃や主以外の者を拒絶し、主の貞操の危機を防ぐ
装備スキル
(自我ノ芽)(誓約正規)(映像記憶)(超速解析)
(無偽欺瞞)(貞操防御)(制約成長)(?)……
---------------------------------------------------------
小さな冠のような形をした、純白の腕輪。
嵌めることを意識すると、自ら通そうとせずつも自動的に俺の左腕に収まる。
「【純潔】といえば桜桃、それすなわちその先の出来事も想定すべき!」
結婚という束縛は誓いを以って成立する。
それを拡大解釈し、【純潔】を守るために抗う術をいくつも用意してみました。
「これがあれば、俺の苦手分野もどうにかなるだろう……コミュ症でも、これがあればそれなりにやり取りができるよな」
いずれ成長すれば、スキルが解放される。
イメージした通りであるならいつかは対人能力もカンストしてるかもな。
◆ □ ◆ □ ◆
「……うぐぐぐっ! 効果は素晴らしいが、毎回毎回これをしないとならないのか」
お布団と闘いを繰り広げ、失った身力値をすべて回復させる。
どうにか中から這い出た後は、しばらくの間眠気を払うためにふらふらと動いていく。
「魔力は……うん、バッチリだな。これで次の作業を進めることができる」
一日に膨大な魔力を消費する作業を二回、というのも少しキツいんだが……それでもやりたいと思ったときにやることこそが、自分のイメージを具現化する最大のコツだしな。
「水晶の作り方は、とっくに確認済み。さてさて、授業時間を無為に潰して考えたファンタジー流の製造法を試してみますか」
そんなこんなで転職用の水晶を個人で所有するため、無謀な挑戦をしてみようと思う。
前に水晶を訪れた際、グーが水晶の構造や内部の仕掛けを解析してくれたのだが、それもとっくに完了している。
つまりは必用なモノさえ揃えば、いつでも作成可能だったというわけだ。
たとえば、レシピなんかも──
---------------------------------------------------------
・巨大水晶
・高純度魔石
・錬金術
・複数の魔法
・特殊なスキル
---------------------------------------------------------
こんな感じで把握してある。
物凄くシンプルだと笑う奴もいるかもしれないが、これはあくまで俺が請け負うのがこれだけということ。
特にグーなど、解析した転職のシステムを別の場所でも使えるように改竄したりと大忙しなんだからな。
「それをいろいろと捏ね繰り回すことで、例の水晶が完成するわけだが……水晶を造らないと駄目なんだよな」
小さめの物であれば、採掘をしていれば見つけられるだろう。
だがいつも使っているサイズとなれば、たぶん俺の行ける場所には存在しない。
……水晶に関するエリアでもあれば、そこで掘れるんだろうけど。
「そのための地球技術。魔法と科学を組み合わせれば、モブでも巨大水晶を造れるという結論に至ったでござる」
それなりに魔力を使うだろうが、まあどうにでもなるだろう……創造と違って段階を踏むので、ポーションを飲んで回復することもできるからな。
「うーん……さて、始めよっか」
◆ □ ◆ □ ◆
「宝石から掘りだした、水晶の欠片」
水晶を作るために、水晶が必要になるという矛盾。
先に挙げられた例えは、すでに採掘に成功していたからこそ行われた。
小さな水晶の欠片をいくつも、空間の歪みから取りだすメルス。
一つとして大きな物はなく、石の中に埋め込まれていたからか綺麗な形の物もない。
それでも無数に水晶の欠片を用意してあったのは、今回のような事態がいつ起きてもいいように備えていたからだ。
「これらはすべて、清潔な状態にしてあります。それを錬金術で加工し──半数を板状に整えます」
まるで料理番組の講師のように振る舞いながら、作業を進めていく。
何かに没頭する方が、(一途な心)の効果が発揮するというのも理由の一つだ。
錬金術によって水晶は磨き上げられ、欠けた状態でも鏡のように光を反射する。
加工された水晶は、それぞれ二つの場所に分けられていた。
「お次にこちら、アルカリ水溶液。それをこの縦長の容器の中に注ぎこみます……あっ、容器は土魔法で作製しました。温度に関しても、400℃程にしておいてください」
容器の八割辺りまで、注がれる液体。
火魔法と水魔法と溶魔法で精製されたそれは、メルスの望む濃度へ希釈された状態で満ちる。
「水晶の内、板状の物を下の方に敷き詰めます。その後真ん中あたりに敷居を設け、並べた状態でもう半分の水晶を投入します」
片方を入れた後、再び魔法による加工で遮る敷居が作られる。
欠片がそれぞれの場所で水溶液に浸されたところで、作業は進展していく。
「ここまでは、どうにか科学だけでも再現可能なことでした……ですがここからは、少しばかり魔法を交えることが必須の作業となりますよ──と、いうわけでまずは、密閉した容器に重力をかけます」
一般家庭では、絶対に行えないような過程へ進行した。
容器に通常ではありえない、ひどく強い重力がかかる。
「そして水系統の魔法……今回は水魔法で上半分だけを冷やし、対流を生みだします。この際、敷居に穴を開けましょう」
水に冷やされた上部は350℃となった。
400℃のアルカリ水によって融けた下部の水晶は、自然対流によって上部に流れる。
種子と呼ばれる吊るされた水晶は、付着した下部の液体状の水晶が固まることで少しずつ膨らんでいった。
「本来であれば、ここから毎日0.5cmずつの成長を楽しみにするところ……ですが、面倒なので時魔法で早送りとします」
時魔法“時間加速”。
魔力を対価に対象の時間を早めることができるこの魔法によって、水晶の成長速度は加速的に進む。
……この際、魔法の制御も同時に行わなければならないため、常人ではこの方法を行うことは難しい。
加速の速度は使用者のスキルレベルで上げることができるのだが、メルスはすでにカンストを済ませていた。
そのため速度も、ほぼ自在となっている。
「今回作るサイズは直径1mサイズの物ですので……まあ、100倍ぐらいで様子を見てみましょう」
魔法をかけられた途端、容器の中で目まぐるしい変化が起き始める。
敷き詰められた下部の水晶が見る見るうちに融けていき、上部の水晶が膨らんでいく。
そしてしばらくして、数年はかかるだろうと思えるほどに肥大化した水晶を見ると、魔法を解除して水晶を取りだす。
「さて、一つ一つが大きくなったこの水晶ですが……このままでは、あの水晶のサイズには及びません──ここで、錬金術を再度使用しましょう」
かつて『錬金士』に就いた際に得た知識によって、とある錬金技術を学んだメルス。
……ちなみにポーション生成の際も、その頭に流れ込んできた知識によって生成作業を行っていた。
「合成の魔法陣の上に、用意した水晶を並べていきます。この際注意するのは、錬金に消費する魔力です……数量や質量、内包魔力量によって必要な量が変わりますので」
今回の合成であれば、武具創造と同等の魔力を対価として支払う必要があった。
ポーションを飲んで魔力を回復させると、魔法陣に魔力を流し込んで術式を起動する。
◆ □ ◆ □ ◆
「これで、巨大水晶は完成だ」
時魔法を使ったとはいえ、その前の作業などもあってだいぶ時間を使った。
鑑定で確かめてみても、『水晶(大)』と表示されるような代物となっている。
「今日はここまでにしておこうか……この水晶でもちゃんとプログラムできるかどうか、調べてもらわないと」
グーは自動で解析を行ってくれるので、一度水晶を取り込ませれば、明日のログイン時には解析結果を表示してくれるだろう。
「それじゃあ、今日はお仕舞い!」
ログアウトを選択し、視界は暗転する。
……水晶の作り方を必死に憶える日々も、これで終わったわけだ。
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