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偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と東の南釧 その04
しおりを挟む何食わぬ顔で逃亡し、魂魄偽装をいったん解いて再び発動。
これを観ていた者が居たなら、急にまったく別人になったように思えるだろう。
まあ、彼女は俺が見た演説者を探すことになるはずだ。
彼女……まあ狙われるくらいなので、それなりに重要な人物なんだろうな。
ミントは俺が人助け(物理)をした時点で満足してくれたので、これ以上を要求してくることは無い……さすがにその先まで支えるのは、偽善者の仕事じゃないからな。
まあ、分かったうえで何もしないのは、それはそれで偽善者的にどうかと思うし。
そういった意味では、ミントが俺に勧めてくれたのは幸いだったと言える。
「──ミント、いろいろな場所を観てきたけども。行ってみたい場所は在ったか?」
『えっとね、あそこに行きたいかな?』
「あそこは……決闘場なんだが。ミント、女の子向けのお店も無いわけじゃないぞ?」
『でも、あそこなら、パパが戦わないといけない人が分かるもん』
俺が……戦う?
まあ、ミントが俺を心配してくれていることだけを理解して、まずは女の子が行き交うお店へ直行。
こちらの世界には男尊女卑のような概念が早くに捨て去られているので、そういった店も早めに誕生したのかもしれない。
眷属や学友たちへのお土産を選ばせつつ、俺はミントを観てほっこり。
なお、今だけは霊体化を解き、かつ身長も人族の子供ほどまで変化してもらっている。
ただ、装備が装備なだけに服装の方は上から偽装を施しているが。
十二単を日常的に使うのは、それこそお偉い様ぐらいなので。
「! ……やばっ」
瞬時に姿を隠すとほぼ同時、俺とミントが入った店の近くを先ほどの女性が通る。
やはり辺りを巡っているようだ……護衛の人が居るか知らんが、居るなら早く来い!
さすがに男だと認識してくれていたようなので、わざわざ女性向けのお店にまで足を延ばして探そうとはしなかった。
それでも街の中を徹底的に探し、俺(が代理で立てた演説者)を探しているようだ。
お礼だけならまだしも、何らかのイベントに巻き込まれかねん。
ミントの買い物が終わったら、先ほど女性が通った道を逆に進む。
一度捜査した場所は、少なくとも未知の場所よりは後回しになるはずだ。
そんな考えで再び歩んだ先、そこには──誤魔化したはずの決闘場が。
キラキラと目を輝かせるミント……ああ、もうダメそうです。
◆ □ ◆ □ ◆
≪強い、強いぞ仮面男! これで十人抜きを達成だ!≫
アナウンスされた通り、仮面を被って参加者たちを一人ずつ倒している現状。
縛りに逆らうわけにもいかず、所持する武器は刀と拳銃。
ただ、拳銃は潜ませただけでまだ一度も使わずに済んでいた。
使いたい場面は何度もあったが、それでもバレたときのことを考え隠し通している。
≪十人抜きを達成した仮面男さん! ここで特別な死合いに挑戦可能です! さぁ、やるかやらないか! その武器を鞘に仕舞うかどうかで教えてください!≫
この決闘場では、対人だけでなく対魔物もやっているんだとか。
ただコストなどの問題で、強すぎる魔物は相応の相手にしか提供できない。
十人抜きをしたことで、俺もそれをするだけの価値認められたようで……あるいは、支払うべき代金を、自分で稼ぎ終えたというべきだろうか。
ともあれ、答えはN──YESだ。
くっ、特別という単語にミントが今まで以上に期待しているではないか。
刀を鞘に仕舞わず、そのまま空に高々と掲げる──瞬間、会場中が大盛り上がり。
彼らは血に飢えているのだ、これまでの峰内では満足できなかったのだろう。
≪答えは肯定だ! さぁ、この決闘場の死神にご登場願おう!≫
扉がゆっくり上がっていき、そこから緩慢な動きで歩いてくる何者か。
だが、遠くからでも分かってしまった──額には角が生えていた。
≪人鬼の紅桜! 数々の猛者を倒してきた彼女の無敗伝説を、果たして仮面男は破ってくれるのか!? 勝てば生存、負ければ死! さぁ皆々様、張った張った!≫
人鬼とは鬼と人の間に生まれた存在ではなく、人に限りなく近い鬼ということ。
前者は魔物除けの結界を突破できるが、後者はそれができない。
問題は、魔物からの進化だけでなく、先祖返りでも人鬼になってしまうことがある点。
魔核などは有していないだろうが、それでもシステムから魔物認定されてしまう。
「あなた……強い?」
「さて、どうじゃろうな」
「強いなら、殺して。弱いなら、死んで」
「……悪ぅが、どっちも嫌じゃ。だが、お前さんには負けてもらうぞ。それが嫌なら死ぬ気で掛かってこい」
能力値も縛られている以上、刀一本で勝てるかは微妙だ。
最近、妖刀の相棒はかなり偏食かつグルメになってしまい、呼んでも応えないからな。
今使っているのは、特に銘も付けていないただ頑丈なだけの打ち刀。
対して、人鬼の少女が持つ物は──巨大な血に染まった金棒。
勝てるだろうか……いや、勝つしかない。
俺の後ろには勝利を望み、そのうえ彼女を救うことを願う娘が観ているのだから。
懐に仕舞っていた拳銃も、最悪の場合は使わなければならない。
そちらに意識を集中しないよう気を付けながら、刀を少女へ向けるのだった。
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