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偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と東の南釧 その03

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 面倒ごとを抱えて居そうな演説者を避け、霊体化中のミントと共に旅の途中。
 彼女が気になったことにしっかり答え、教育的なこともやっていた。

 ……まあ、分からないことだらけで、眷属にお世話になりっぱなしだが。
 お陰で俺もまた、知らなかったことを知ることができましたとさ。


『パパ見て! あそこ!』

「……どうしよう、凄く無視したい」

『ダメだよパパ! 困った人が居たら助けてあげるって、前に言ってたよね?』


 少し先で繰り広げられている、一悶着。
 追う者と追われる者がそれぞれ、人の通らない路地へと進んでいく。

 先ほどの演説は良くて、今回の騒動に反応したのはミント的に困っているかどうかなのだろう……うん、あえて誘導して迎え撃つなどなら、彼女も何も言わず見逃したはずだ

 はっきりNOと断ってしまえば、ミントも諦めるだろう。
 だがそれはできない……今もなお向けられる期待の視線に、俺は抗えないのだ。


「分かった。ミントは上から、バレないように隠れて来てくれ。すぐに俺も行く」

『! うん♪』

「さて、やるからには徹底的にやらないと。嫌な予感はしていたんだ、どうにも凶運は俺に楽をさせてはくれないからな」


 今の俺は和装に身を包み、刀を腰に下げた武士スタイル。
 だがそれと同時に、拳銃を一丁懐に仕舞っていた。

 ちょうど、先ほど演説していた何者かと同じような戦闘スタイルが今回の縛り。
 せっかくなので、魂魄偽装を利用し偽善をしようじゃないか。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 路地裏で一人、蹲ってしまった。
 身動きの取れなくなったことで、追手との距離はすぐに縮まってしまう。


「やっと追いついたぜ、ったく手間を掛けさせやがって」

「ハァ……ハァ……」

「毒も効いてきたようで何よりだ。東の方でできた新しいヤツでな、体が全然動かせなくなるんだぜ」

「くっ、卑怯な……!」


 どれだけ威勢のいい声を上げても、彼らには囀りにしか聞こえない。
 なぜなら体は追手の言う通り、もう自由に動かせなくなっていたからだ。

 逃亡の際、掠ってしまった弾丸に毒が塗られていたのだろう。
 東都で作られているという禁忌の技は、ここまで危険な物となっていたのか!


「さ・て・と、ずいぶんと苦労させられたからな。その分、お前さんにはきちんと支払ってもらおう。なあ、お──」


 追手の声を遮るように、ダーンと鳴り響いた銃声。
 音の発生源は……上! そこには見たことの無い誰かが居た。

 腰に下げた刀、そしてこちらに向けられた鉄砲……まさか。
 逆光で姿の見えないがその語り、その振る舞いに覚えがあった。


「──おうおう、お前さんら。こりゃあ多勢に無勢ってやちゃああらんか?」

「……あ゛? 何を言って──」

「まあ、手前さんらの事情はどうでもよか。毒いうもんを使っとる時点で、どっちが悪ぅかは明白か」


 再び銃声、弾丸は追手の足元へ。
 誰かが動こうとすれば、すぐに銃によって牽制が行われる。


「引く言うんなら、ここは見逃す。さて、どうする?」

「……バカ言っているんじゃねぇ。こいつをここまで追い込むのに、いったいどれだけ犠牲を払ったと思ってやがる! テメェみたいなぽっと出の野郎に、掻っ攫われて堪るもんか! おい、やっちまえ!」

『──へい!』

「……ぁ、ぁぁ……」 


 声が出ない。
 逃げるように言いたかったが、それすらもできなかった。

 追手が排除をするべく、屋根の上に向かおうとしている。
 だが行術か何かをする前に、その者は屋根から飛び降りた。

 何度も鳴り響く銃声が、その健在さを知らしめる。
 霞みだした視界で、どうにか見ていたかったのだが……追手が視界を遮った。


「はっ、誰が待つか。生かしておけねぇのは残念だが、奪われるぐらいならさっさと済ませちまった方が得策か」

「…………!?」

「恨むんなら、あいつを恨むんだな。そろそろ殺したはずだが──はぁっ!?」

「人を勝手に殺すな。手前さん、なんちゅう卑劣なことをしちゅるん」


 追手が遮って見えないが、何人もの者たちが地面に倒れ伏している気がする。
 もう倒したのだろうか……毒が回り、思考も上手くできなくなってきた。


「……さっさと終わらせちゃるん」

「ってさっきから何なんだよその訛り! 聞いたことねぇよその気持ち悪い口調!」

「…………あ゛ぁ?」

「な、何だよ図星を突かれた──ごぼっ!」


 最後の追手も他の者同様に、その者により排除される。 
 残されたのは毒に蝕まれ、呼吸をするのもやっとな死にかけだけ。


「礼を、言わせてもらいたい……最期に、生き恥を晒さずに済んだ」

「…………」

「どうか、楽にさせてもらいたい。介錯を、頼む」

「──任せい」


 懐から取り出した緑色の薬液。
 それを口の中に強引に飲ませてきた。
 抗うこともできたが、恩人の誠意……受け取らないわけにはいかない。

 少しずつ嚥下し、中身を飲み干す。
 やがてじんわりと体が温まっていく……これが死、というものなのだろうか。
 初めての経験だからよく分からない。


「最期に……貴方の名を」

「……最期じゃあらせん気に、名は名乗らずともよか」

「どう、いう……」

「目が覚めたら治っちょろう。そん体、大切にしぃ」


 意識はここで途絶えてしまった。
 だが、もし次があるのだというのなら……必ず貴方にお礼を告げよう。


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