2,354 / 2,519
偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と東の南釧 その01
しおりを挟むS5E17 井島
悪魔、そして天使を押し込んだ迷宮と異層へ繋がる穴の調査を行った。
目的を果たすためには、まだまだ時間が掛かるようで……楽しみは後に取っておこう。
「さてと。和服も良し、魂魄偽装による平凡状態も良し。準備はOKだな」
現在、俺が居るのは祈念者を拒む鎖国国家井島。
個として認められる者は居るのだが、全体としては受け入れられていない。
そのためある意味不法入国なのだが……身分も偽って入っているので、俺が自ら祈念者だと名乗り出ない限り、そこまで問題にはならないと思う。
偽善者たる者、自身の立場にこだわらずにやりたいようにやらないとな。
今回の旅でも、そういったことを楽しめると良いのだけれど。
「そっちの準備もいいか?」
「うん、ばっちりだよ──パパ!」
「そうか……それじゃあ行こうか、ミント」
旅の同行者は俺が初めて迷宮で作り上げた守護者にして、今は愛娘なミント。
元の種族が小型な虫系統だったため、その大きさはなんと僅か九センチほど。
この世界では小人族なんてファンタジーな種族も居るし、魔法で大きくはなれる。
色鮮やかな十二単の着物を身に纏い、背中から生えた虫翅で嬉しそうに飛んでいた。
「ところでパパ、ここってどこなの?」
「なんだ、分かってついてきたんじゃなかったのか」
「うん、パパといっしょに居られるって聞いたから。今日で学校はお休みだし、じゃあそれならって……」
「週末だったか……そういえば俺、何もしてないから曜日感覚が狂ってたな」
普段は学校で勉学に励んでいるミント。
向こうでは魔道具で大きくなっているはずだが、ちゃんとクラスメイトと仲良くしていると前に話してくれたような……。
学校は俺の知識に合わせ、平日五日間のみの授業となっている。
家の都合や夜間学校などもあるから、毎日開いてはいるんだけどな。
ミントは貴重な休日に、わざわざ俺と付き合うことを選んでくれたのか。
……うう、親冥利に尽きるというか、控えめに言ってうちの娘が天使過ぎる!
「ま、まあ、ここがどこだか分からないってことなら。特別授業といこうか──ここは東の島国井島、井島がどういう場所かは授業で教えてもらっているよな?」
「うん! えっと、パパの元居た世界に似た風習がある場所です!」
「正解。そしてここは『南釧』、俺たちの世界でいうところの明治時代みたいな場所だ。自由大陸、海の先の世界といろんなやり取りが行われているからだな」
東は江戸風、西は平安風、北は鎌倉風ときて──南は明治風だ。
それぞれに魔法や妖怪の要素が混ざった結果、どこも住み心地はいいんだけどな。
それでもお隣の大陸の影響を、一番受けているのはここになる。
──だからこそ、鎖国を止め開国をしようと望む者たちも多くがここに集まっていた。
「はい! パパはどうして、ここに来たんですか?」
「そーだなー、他の場所にはなんだかんだ来たことがあるんだが、ここにはまだちゃんと滞在したことが無かったからな。開国を具体的にどうするのかも気になるし、調べに来たのが今回の目的だ」
「そして、パパを守るのがわたしの仕事!」
「さっすがミントだ! 霊体化とミントの力は組み合わせも最高だから、こっそりついてきてくれ。ミントって可愛い子が居ると、別の意味で近づく奴らばかりだからな」
羽が生えている以外、小人族に見えるミントに価値を見出す者は多い。
……美少女という意味もあるだろうが、その多くは奴隷としての価値だ。
もちろん、俺の目が行き届く範囲でそんなことをするなら容赦なく処すけども。
うちの大切な娘に手を出す連中に、俺が容赦などするわけがなかろうに。
ミントは迷宮の階層主であり、暗殺系の超級職(『導き』付き)に就いている。
元が魔物なのでハイスペック、かつ人の職業システムの恩恵にもあやかっていた。
そんな彼女の隠蔽能力は、未だに迷宮を誰にも攻略させていないことからも分かる。
こき使っている【探索王】も、戦闘そのものではミントに勝てるほど強くないからな。
魔力によって霊体化を行うことで、周囲からミントの姿は見えなくできる。
重ねて彼女自身の隠蔽能力が働き、見抜く能力が高い者でも見抜けなくなった。
「それじゃあ、まずはあそこからだ」
「おっきい船だね! でも、鎖国ってことは使っていないの?」
「そうだな。いちおう、島ごとの貿易に船を使う場合もあるらしい。迷宮が橋渡しをしているが、一度に大量に、かつ安全に運ぶなら船の方がいいんだろう」
海流や海の深層に潜む魔物などによって、大陸からの船が来ることは困難だ。
しかし井島の周辺を巡る海流にうまく乗ることで、島間の貿易そのものは可能らしい。
大型の船は現在、そういった用途で使用されている。
小型の船、それこそが自由大陸へ密輸を行う船なのだ。
「小さい船といっても、数十人は乗れる代物だしな。そこに収納の魔道具を持ち込んでおけば、特産品を運び出すことはできる。検閲も、南釧は東都などに比べれば優しい方だって聞いたことがあるぞ」
島ごとに切り離されているからこそ、そういう独断もまかり通っている。
……だがそれも、東都で行われている禁忌が完成するまでだろうけど。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる