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偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と東の南釧 その01

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 S5E17 井島


 悪魔、そして天使を押し込んだ迷宮ダンジョンと異層へ繋がる穴の調査を行った。
 目的を果たすためには、まだまだ時間が掛かるようで……楽しみは後に取っておこう。


「さてと。和服も良し、魂魄偽装による平凡状態も良し。準備はOKだな」


 現在、俺が居るのは祈念者を拒む鎖国国家井島。
 個として認められる者は居るのだが、全体としては受け入れられていない。

 そのためある意味不法入国なのだが……身分も偽って入っているので、俺が自ら祈念者だと名乗り出ない限り、そこまで問題にはならないと思う。

 偽善者たる者、自身の立場にこだわらずにやりたいようにやらないとな。
 今回の旅でも、そういったことを楽しめると良いのだけれど。


「そっちの準備もいいか?」

「うん、ばっちりだよ──パパ!」

「そうか……それじゃあ行こうか、ミント」


 旅の同行者は俺が初めて迷宮で作り上げた守護者にして、今は愛娘なミント。
 元の種族が小型な虫系統だったため、その大きさはなんと僅か九センチほど。

 この世界では小人族なんてファンタジーな種族も居るし、魔法で大きくはなれる。
 色鮮やかな十二単の着物を身に纏い、背中から生えた虫翅で嬉しそうに飛んでいた。


「ところでパパ、ここってどこなの?」

「なんだ、分かってついてきたんじゃなかったのか」

「うん、パパといっしょに居られるって聞いたから。今日で学校はお休みだし、じゃあそれならって……」

「週末だったか……そういえば俺、何もしてないから曜日感覚が狂ってたな」


 普段は学校で勉学に励んでいるミント。
 向こうでは魔道具で大きくなっているはずだが、ちゃんとクラスメイトと仲良くしていると前に話してくれたような……。

 学校は俺の知識に合わせ、平日五日間のみの授業となっている。
 家の都合や夜間学校などもあるから、毎日開いてはいるんだけどな。

 ミントは貴重な休日に、わざわざ俺と付き合うことを選んでくれたのか。
 ……うう、親冥利に尽きるというか、控えめに言ってうちの娘が天使過ぎる!


「ま、まあ、ここがどこだか分からないってことなら。特別授業といこうか──ここは東の島国井島、井島がどういう場所かは授業で教えてもらっているよな?」

「うん! えっと、パパの元居た世界に似た風習がある場所です!」

「正解。そしてここは『南釧』、俺たちの世界でいうところの明治時代みたいな場所だ。自由大陸、海の先の世界といろんなやり取りが行われているからだな」


 東は江戸風、西は平安風、北は鎌倉風ときて──南は明治風だ。
 それぞれに魔法や妖怪の要素が混ざった結果、どこも住み心地はいいんだけどな。

 それでもお隣の大陸の影響を、一番受けているのはここになる。
 ──だからこそ、鎖国を止め開国をしようと望む者たちも多くがここに集まっていた。


「はい! パパはどうして、ここに来たんですか?」

「そーだなー、他の場所にはなんだかんだ来たことがあるんだが、ここにはまだちゃんと滞在したことが無かったからな。開国を具体的にどうするのかも気になるし、調べに来たのが今回の目的だ」

「そして、パパを守るのがわたしの仕事!」

「さっすがミントだ! 霊体化とミントの力は組み合わせも最高だから、こっそりついてきてくれ。ミントって可愛い子が居ると、別の意味で近づく奴らばかりだからな」


 羽が生えている以外、小人族に見えるミントに価値を見出す者は多い。
 ……美少女という意味もあるだろうが、その多くは奴隷としての価値だ。

 もちろん、俺の目が行き届く範囲でそんなことをするなら容赦なく処すけども。
 うちの大切な娘に手を出す連中に、俺が容赦などするわけがなかろうに。

 ミントは迷宮の階層主であり、暗殺系の超級職(『導き』付き)に就いている。
 元が魔物なのでハイスペック、かつ人の職業システムの恩恵にもあやかっていた。

 そんな彼女の隠蔽能力は、未だに迷宮を誰にも攻略させていないことからも分かる。
 こき使っている【探索王】も、戦闘そのものではミントに勝てるほど強くないからな。

 魔力によって霊体化を行うことで、周囲からミントの姿は見えなくできる。
 重ねて彼女自身の隠蔽能力が働き、見抜く能力が高い者でも見抜けなくなった。


「それじゃあ、まずはあそこからだ」

「おっきい船だね! でも、鎖国ってことは使っていないの?」

「そうだな。いちおう、島ごとの貿易に船を使う場合もあるらしい。迷宮が橋渡しをしているが、一度に大量に、かつ安全に運ぶなら船の方がいいんだろう」


 海流や海の深層に潜む魔物などによって、大陸からの船が来ることは困難だ。
 しかし井島の周辺を巡る海流にうまく乗ることで、島間の貿易そのものは可能らしい。

 大型の船は現在、そういった用途で使用されている。
 小型の船、それこそが自由大陸へ密輸を行う船なのだ。


「小さい船といっても、数十人は乗れる代物だしな。そこに収納の魔道具を持ち込んでおけば、特産品を運び出すことはできる。検閲も、南釧は東都などに比べれば優しい方だって聞いたことがあるぞ」


 島ごとに切り離されているからこそ、そういう独断もまかり通っている。
 ……だがそれも、東都で行われている禁忌が完成するまでだろうけど。


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