2,354 / 2,518
偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と東の南釧 その01
しおりを挟むS5E17 井島
悪魔、そして天使を押し込んだ迷宮と異層へ繋がる穴の調査を行った。
目的を果たすためには、まだまだ時間が掛かるようで……楽しみは後に取っておこう。
「さてと。和服も良し、魂魄偽装による平凡状態も良し。準備はOKだな」
現在、俺が居るのは祈念者を拒む鎖国国家井島。
個として認められる者は居るのだが、全体としては受け入れられていない。
そのためある意味不法入国なのだが……身分も偽って入っているので、俺が自ら祈念者だと名乗り出ない限り、そこまで問題にはならないと思う。
偽善者たる者、自身の立場にこだわらずにやりたいようにやらないとな。
今回の旅でも、そういったことを楽しめると良いのだけれど。
「そっちの準備もいいか?」
「うん、ばっちりだよ──パパ!」
「そうか……それじゃあ行こうか、ミント」
旅の同行者は俺が初めて迷宮で作り上げた守護者にして、今は愛娘なミント。
元の種族が小型な虫系統だったため、その大きさはなんと僅か九センチほど。
この世界では小人族なんてファンタジーな種族も居るし、魔法で大きくはなれる。
色鮮やかな十二単の着物を身に纏い、背中から生えた虫翅で嬉しそうに飛んでいた。
「ところでパパ、ここってどこなの?」
「なんだ、分かってついてきたんじゃなかったのか」
「うん、パパといっしょに居られるって聞いたから。今日で学校はお休みだし、じゃあそれならって……」
「週末だったか……そういえば俺、何もしてないから曜日感覚が狂ってたな」
普段は学校で勉学に励んでいるミント。
向こうでは魔道具で大きくなっているはずだが、ちゃんとクラスメイトと仲良くしていると前に話してくれたような……。
学校は俺の知識に合わせ、平日五日間のみの授業となっている。
家の都合や夜間学校などもあるから、毎日開いてはいるんだけどな。
ミントは貴重な休日に、わざわざ俺と付き合うことを選んでくれたのか。
……うう、親冥利に尽きるというか、控えめに言ってうちの娘が天使過ぎる!
「ま、まあ、ここがどこだか分からないってことなら。特別授業といこうか──ここは東の島国井島、井島がどういう場所かは授業で教えてもらっているよな?」
「うん! えっと、パパの元居た世界に似た風習がある場所です!」
「正解。そしてここは『南釧』、俺たちの世界でいうところの明治時代みたいな場所だ。自由大陸、海の先の世界といろんなやり取りが行われているからだな」
東は江戸風、西は平安風、北は鎌倉風ときて──南は明治風だ。
それぞれに魔法や妖怪の要素が混ざった結果、どこも住み心地はいいんだけどな。
それでもお隣の大陸の影響を、一番受けているのはここになる。
──だからこそ、鎖国を止め開国をしようと望む者たちも多くがここに集まっていた。
「はい! パパはどうして、ここに来たんですか?」
「そーだなー、他の場所にはなんだかんだ来たことがあるんだが、ここにはまだちゃんと滞在したことが無かったからな。開国を具体的にどうするのかも気になるし、調べに来たのが今回の目的だ」
「そして、パパを守るのがわたしの仕事!」
「さっすがミントだ! 霊体化とミントの力は組み合わせも最高だから、こっそりついてきてくれ。ミントって可愛い子が居ると、別の意味で近づく奴らばかりだからな」
羽が生えている以外、小人族に見えるミントに価値を見出す者は多い。
……美少女という意味もあるだろうが、その多くは奴隷としての価値だ。
もちろん、俺の目が行き届く範囲でそんなことをするなら容赦なく処すけども。
うちの大切な娘に手を出す連中に、俺が容赦などするわけがなかろうに。
ミントは迷宮の階層主であり、暗殺系の超級職(『導き』付き)に就いている。
元が魔物なのでハイスペック、かつ人の職業システムの恩恵にもあやかっていた。
そんな彼女の隠蔽能力は、未だに迷宮を誰にも攻略させていないことからも分かる。
こき使っている【探索王】も、戦闘そのものではミントに勝てるほど強くないからな。
魔力によって霊体化を行うことで、周囲からミントの姿は見えなくできる。
重ねて彼女自身の隠蔽能力が働き、見抜く能力が高い者でも見抜けなくなった。
「それじゃあ、まずはあそこからだ」
「おっきい船だね! でも、鎖国ってことは使っていないの?」
「そうだな。いちおう、島ごとの貿易に船を使う場合もあるらしい。迷宮が橋渡しをしているが、一度に大量に、かつ安全に運ぶなら船の方がいいんだろう」
海流や海の深層に潜む魔物などによって、大陸からの船が来ることは困難だ。
しかし井島の周辺を巡る海流にうまく乗ることで、島間の貿易そのものは可能らしい。
大型の船は現在、そういった用途で使用されている。
小型の船、それこそが自由大陸へ密輸を行う船なのだ。
「小さい船といっても、数十人は乗れる代物だしな。そこに収納の魔道具を持ち込んでおけば、特産品を運び出すことはできる。検閲も、南釧は東都などに比べれば優しい方だって聞いたことがあるぞ」
島ごとに切り離されているからこそ、そういう独断もまかり通っている。
……だがそれも、東都で行われている禁忌が完成するまでだろうけど。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる