32 / 2,519
偽善者と始まり 一月目
01-31 第一回闘技大会 その03
しおりを挟む◆ □ ◆ □ ◆
一日が経過すると、全試合の情報が掲示板に掲載される。
プレイヤーにとって娯楽は共有するもの。
それぞれの試合の中でもっともよく撮れている映像が、非公式ながらも至る所で載せられていた。
「俺の相手が『模倣者』かよ……運が無い、絶対負けるだろ」
男もまた掲示板でそうした映像を見て次の対戦相手を調べていた。
完全かどうかは不明だが、対戦した相手の能力をコピーする──『模倣者』。
試合を観たプレイヤーたちによって彼にはそうした二つ名が与えられていた。
自身の相手がその男であると知り、諦念の息を何度も零している。
「まあ、別に被害報告とかが上がってるわけじゃないみたいだし、コピーであって強奪とか剥奪じゃないんだろ。なら別にいいや。どうせ、デメリットしかないコスパの悪いスキルだしな」
男は『模倣者』の力を知ろうと、恐怖や怯えは感じない。
相手が自身の力を使おうと、自分以上に使いこなせないことを確信しているからだ。
「支援特化の召喚師ってわけじゃないし、時空魔法とかいう超コスパの悪い魔法を持ってるから魔法特化かと思えば中忍……いや、こいつ変だな。SPが無駄に多いのかそれとも別の固有スキルなのか……なんにせよ、まるでチートプレイヤーだな」
ありえなくもない予想に笑いながら、男は舞台へ上がっていく。
≪さぁ、どんどんまいりましょう。続いては準決勝第二試合──あらゆる物理攻撃を無効化し、魔法は効くが対策はバッチリ──【死霊魔法】の【死霊】!
対するは……ってまた表記が変わってるぞ【思考詠唱】の義賊……もう面倒ですし、二つ名の『模倣者』!≫
実況が自分と相手の情報を読み上げ……職業が再登録されていることが判明する。
観客も大盛り上がり、今度はどのような戦い方をするのかを吟味していた。
(一日で転職って、余興で変更しているか本当にカンストしたか……有り余る数の枠があるかってパターンか)
仮説を立てながら相手をジッと見る。
飄々と立つその姿はいっさいの緊張を感じさせず、相手に狼狽を与えるものであった。
妙に肌がピリピリする感覚に違和感を覚えつつも、声をかけて情報を集める。
「なあ、アンタ最後に何をしてたんだ?」
「……何を、とは?」
「前回の試合、闇魔法で囲った中でだよ」
「……少し実験をな。初戦は一撃で済ませてしまったから、試せなかっただけだ」
(一回戦は物理職の男、二回戦は魔法職の女だが……倒し方にも違いがある。一回戦で自分の配下を使った場合を調べて、二回戦で相手に降参させた場合でも調べたのか? どんな理由だろうと、ただ隠したって理由じゃないだろうな)
男は彼についてそう考えた。
それらすべてに意味があり、なんらかの目的を果たそうとしているのかと。
実際どう思っているか……それはまた、本人だけが知ることだ。
「へえ……ま、よろしく頼むわ」
「ああ、よろしくだ」
互いに握手を交わすことなく後ろを向き、中央の辺りから離れていく。
相手はこれまでの映像から視て、近接と遠距離の両方で戦えるオールラウンダー。
両方を同時に行えることを考え、自分に有利な遠距離戦を取るとって戦うことにした。
≪両者準備はよろしいですね? それでは、準決勝第二試合──開始!!≫
「“死霊化”。…………■■“黒霧”」
男は物理攻撃を無効化する能力を発動してから、光属性の威力を軽減させる霧を舞台の上に広げていく。
死霊魔法の一つ“死霊化”、本来ならばデメリットが多いこの魔法を【死霊】の効果でリスクを緩和することで補っていた。
物理攻撃はいっさい通用しなくなり、魔法か魔力が籠もった攻撃でしかダメージを与えられなくなる。
「まさに死霊に近づくスキルだよな。……悪霊退散ってされなきゃいいけど」
唯一の弱点は光属性の攻撃、あとはどの属性であろうと大幅にダメージを軽減する。
それを補うために男が考えた策が闇魔法に属する“黒霧”という魔法。
霧を維持している間、光属性を弱めてくれるため使用しているのだ。
──普通ならば、それが必勝パターンとして成り立ったのだろう。
≪闇の霧が舞台を包み込んだ今、模倣者に成す術はな……な、なななっ! 光が、舞台上に巨大な光の柱が生まれたー!≫
対して模倣者が発動させたのは──煌魔法“煌柱”。
詠唱完了から発動までの時間がかかるが、指定範囲内に継続的な強烈なダメージを与える高難易度の魔法である。
光柱は天高く伸びていき、空に浮かぶ雲すらも貫いていく。
男は闇の霧が燦然と輝く柱を中心に消えていく様子を見て、慌てて“死霊化”を解除して魔法の効果範囲から逃れる。
──その際、体の一部が掠ってしまう。
「……これだけで三割も!? おいおい、さすがに狂ってんだろ!」
一瞬で減ったHPバーに悲鳴のような声を上げる。
なんらかの異常性は感じていたが、自身の想定以上であることへ驚く。
人間、自分の思慮範囲のことが突然起きると一時的に思考が停止してしまう。
それでも男はすぐに対処に移る。
何もしなければ、負けることは確定だったからだ。
「…………■■■■“下位死体召還”」
唱えたのは死霊魔法“下位死魄召還”。
これまで、自らが作成した肉体を持つ下位のアンデッドをこの場に呼ぶ魔法だ。
大半がウサギやデミゴブリンの死体だが、一部人型の死体も混ざっている。
これは彼を狙ったPKの成れの果て、魔法によって本人とは別の存在としてアンデッドに変えられていた。
(これだけあれば少しは時間が稼げるはず。この間に中級の召還も……嘘だろ!?)
光の柱が消える様子を眺めながら、新たに策を練り始めていた男。
だがそこへ、別の事象が発生する。
アンデッドたちの周りには、不思議な色で円が描かれていた。
温かな光は中に居るアンデッドたちを優しく包み込み──猛烈な勢いで消し去る。
≪回復魔法“広域回復”! たった一発ですべてのアンデッドのHPを0に!? 皆さん、普通は真似できませんからね。理論上は可能ですが、アンデッドのレベリングにこういった方法は難しいですからご注意を!≫
(酷い言われようだな……魔力を多めに使って空間ごと癒しただけだろ。まあ、ほんの少しだけ補正が入っているけど)
ほんの少し、その規模が本人の想像とまったく異なることを発動した自身は知らない。
彼が行ったのは──四つのアクションだけだからだ。
・思考詠唱を並列化
・回復魔法“広域回復”を準備
・並列した思考詠唱で詠唱を行う
・無詠唱ですべてを同時発動
これらを行うだけで、あれだけの規模で回復魔法が完成した。
アンデッドが回復魔法を受けることで逆にダメージを受けることは知っていた模倣者。
念には念を、と自身が行える最大の数まで並列化させて回復させた……その結果が、猛烈な勢いで消え去ったアンデッドである。
「……アンデッドを召喚しても無駄だ。降参するなら今の内だぞ」
「俺にも降参のチャンスをくれるのかよ」
「最初はミスで、以降は気をつけている。それでどうする」
男に与えられた降伏宣言。
足掻いて挑むか諦めて終わるか。
──だが、男の答えは考えるまでもなく決まっていた。
「降伏で頼む」
◆ □ ◆ □ ◆
≪勝者、義賊! これで明日の決勝戦の組み合わせは決まった! 【断罪者】VS『模倣者』、はたして勝つのはどっちだ!?≫
アナウンスが聞こえてきた、そして俺はそれを頭の中で認識すると……叫ぶ──。
「誰が『模倣者』だ! 払うもんはしっかり払って習得しとるわ!」
ツッコむ部分はそこかよ!? という質問が来ないのが少し残念である。
しかし実際それ以外、与えられた二つ名に不満は感じない。
「二つ名に特殊な効果を持たせるとは……運営も親切サービスが行き届いてるな」
ログインしたときに二つ名が手に入っただのとログがあったのだが、二つ名そのものを鑑定してみると効果が掲載されていた。
通常の効果は見たり習ったりしたスキルがリストに載りやすくなるというものだが──副次効果としてスキルによる模倣率が上がるらしい。
お蔭様で、視認だけで今回の摸倣が成功したぞ。
「『職業:【死霊】』と【死霊魔法】……種族っぽいけど職業なんだな」
調べてみると、あくまで死霊への適性がある者が就く職業だそうで。
種族的には自分が設定した種族のままなのだが、特性として死霊としての性質を受け継いでしまうそうだ。
魔法の方は冥魔法の魂魄に関する力が特化したようなものだった……内容としては、死にと関係したものばかりだけどな。
「摸倣はスキルだけじゃなくて職業でも可能だったんだな。これで可能性が増える……いつか【勇者】とかに会いたいな」
それが今回からなのかは分からないが、これからはずっと摸倣できるだろう。
現実で例えるなら──憧れてましたと自分がテレビ越しに見るだけで就職できるようなものだな……うわっ、何その氷河期の皆様を鼻笑うようなイメージ。
「また明日か……。お偉い様でも呼ぶのに時間でもかかるのか?」
決勝戦は明日行われるらしい。
職業はともかく魔法はすぐに確かめられるし……レベリングをもう少ししておこうか。
最後の相手は、どんなスキルを持っているのかな?
23
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる