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偽善者と始まり 一月目

01-31 第一回闘技大会 その03

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  ◆   □   ◆   □   ◆

 一日が経過すると、全試合の情報が掲示板に掲載される。

 プレイヤーにとって娯楽は共有するもの。
 それぞれの試合の中でもっともよく撮れている映像が、非公式ながらも至る所で載せられていた。

「俺の相手が『模倣者』かよ……運が無い、絶対負けるだろ」

 男もまた掲示板でそうした映像を見て次の対戦相手を調べていた。

 完全かどうかは不明だが、対戦した相手の能力をコピーする──『模倣者』。
 試合を観たプレイヤーたちによって彼にはそうした二つ名が与えられていた。

 自身の相手がその男であると知り、諦念の息を何度も零している。

「まあ、別に被害報告とかが上がってるわけじゃないみたいだし、コピーであって強奪とか剥奪じゃないんだろ。なら別にいいや。どうせ、デメリットしかないコスパの悪いスキルだしな」

 男は『模倣者』の力を知ろうと、恐怖や怯えは感じない。

 相手が自身の力を使おうと、自分以上に使いこなせないことを確信しているからだ。

「支援特化の召喚師ってわけじゃないし、時空魔法とかいう超コスパの悪い魔法を持ってるから魔法特化かと思えば中忍……いや、こいつ変だな。SPが無駄に多いのかそれとも別の固有スキルなのか……なんにせよ、まるでチートプレイヤーだな」

 ありえなくもない予想に笑いながら、男は舞台へ上がっていく。



≪さぁ、どんどんまいりましょう。続いては準決勝第二試合──あらゆる物理攻撃を無効化し、魔法は効くが対策はバッチリ──【死霊魔法】の【死霊】!
 対するは……ってまた表記が変わってるぞ【思考詠唱】の義賊……もう面倒ですし、二つ名の『模倣者』!≫

 実況が自分と相手の情報を読み上げ……職業が再登録されていることが判明する。

 観客も大盛り上がり、今度はどのような戦い方をするのかを吟味していた。

(一日で転職って、余興で変更しているか本当にカンストしたか……有り余る数の枠があるかってパターンか)

 仮説を立てながら相手をジッと見る。

 飄々と立つその姿はいっさいの緊張を感じさせず、相手に狼狽を与えるものであった。
 妙に肌がピリピリする感覚に違和感を覚えつつも、声をかけて情報を集める。

「なあ、アンタ最後に何をしてたんだ?」

「……何を、とは?」

「前回の試合、闇魔法で囲った中でだよ」

「……少し実験をな。初戦は一撃で済ませてしまったから、試せなかっただけだ」

(一回戦は物理職の男、二回戦は魔法職の女だが……倒し方にも違いがある。一回戦で自分の配下を使った場合を調べて、二回戦で相手に降参させた場合でも調べたのか? どんな理由だろうと、ただ隠したって理由じゃないだろうな)

 男は彼についてそう考えた。
 それらすべてに意味があり、なんらかの目的を果たそうとしているのかと。

 実際どう思っているか……それはまた、本人だけが知ることだ。

「へえ……ま、よろしく頼むわ」

「ああ、よろしくだ」

 互いに握手を交わすことなく後ろを向き、中央の辺りから離れていく。

 相手はこれまでの映像から視て、近接と遠距離の両方で戦えるオールラウンダー。

 両方を同時に行えることを考え、自分に有利な遠距離戦を取るとって戦うことにした。



≪両者準備はよろしいですね? それでは、準決勝第二試合──開始!!≫

「“死霊化ゴースト”。…………■■“黒霧ダークミスト”」

 男は物理攻撃を無効化する能力を発動してから、光属性の威力を軽減させる霧を舞台の上に広げていく。

 死霊魔法の一つ“死霊化”、本来ならばデメリットが多いこの魔法を【死霊】の効果でリスクを緩和することで補っていた。

 物理攻撃はいっさい通用しなくなり、魔法か魔力が籠もった攻撃でしかダメージを与えられなくなる。

「まさに死霊に近づくスキルだよな。……悪霊退散ってされなきゃいいけど」

 唯一の弱点は光属性の攻撃、あとはどの属性であろうと大幅にダメージを軽減する。

 それを補うために男が考えた策が闇魔法に属する“黒霧”という魔法。
 霧を維持している間、光属性を弱めてくれるため使用しているのだ。

 ──普通ならば、それが必勝パターンとして成り立ったのだろう。



≪闇の霧が舞台を包み込んだ今、模倣者に成す術はな……な、なななっ! 光が、舞台上に巨大な光の柱が生まれたー!≫

 対して模倣者が発動させたのは──煌魔法“煌柱ブリンクピラー”。

 詠唱完了から発動までの時間がかかるが、指定範囲内に継続的な強烈なダメージを与える高難易度の魔法である。

 光柱は天高く伸びていき、空に浮かぶ雲すらも貫いていく。

 男は闇の霧が燦然と輝く柱を中心に消えていく様子を見て、慌てて“死霊化”を解除して魔法の効果範囲から逃れる。

 ──その際、体の一部が掠ってしまう。

「……これだけで三割も!? おいおい、さすがに狂ってんだろ!」

 一瞬で減ったHPバーに悲鳴のような声を上げる。
 なんらかの異常性は感じていたが、自身の想定以上であることへ驚く。

 人間、自分の思慮範囲のことが突然起きると一時的に思考が停止してしまう。

 それでも男はすぐに対処に移る。
 何もしなければ、負けることは確定だったからだ。

「…………■■■■“下位死体召還リコール・レッサー・カーカス”」

 唱えたのは死霊魔法“下位死魄召還”。
 これまで、自らが作成した肉体を持つ下位のアンデッドをこの場に呼ぶ魔法だ。

 大半がウサギやデミゴブリンの死体だが、一部人型の死体も混ざっている。
 これは彼を狙ったPKの成れの果て、魔法によって本人とは別の存在としてアンデッドに変えられていた。

(これだけあれば少しは時間が稼げるはず。この間に中級の召還も……嘘だろ!?)

 光の柱が消える様子を眺めながら、新たに策を練り始めていた男。

 だがそこへ、別の事象が発生する。

 アンデッドたちの周りには、不思議な色で円が描かれていた。
 温かな光は中に居るアンデッドたちを優しく包み込み──猛烈な勢いで消し去る。

≪回復魔法“広域回復エリアヒール”! たった一発ですべてのアンデッドのHPを0に!? 皆さん、普通は真似できませんからね。理論上は可能ですが、アンデッドのレベリングにこういった方法は難しいですからご注意を!≫

(酷い言われようだな……魔力を多めに使って空間ごと癒しただけだろ。まあ、ほんの少しだけ補正が入っているけど)

 ほんの少し、その規模が本人の想像とまったく異なることを発動した自身は知らない。

 彼が行ったのは──四つのアクションだけだからだ。

 ・思考詠唱を並列化
 ・回復魔法“広域回復”を準備
 ・並列した思考詠唱で詠唱を行う
 ・無詠唱ですべてを同時発動

 これらを行うだけで、あれだけの規模で回復魔法が完成した。

 アンデッドが回復魔法を受けることで逆にダメージを受けることは知っていた模倣者。

 念には念を、と自身が行える最大の数まで並列化させて回復させた……その結果が、猛烈な勢いで消え去ったアンデッドである。

「……アンデッドを召喚しても無駄だ。降参するなら今の内だぞ」

「俺にも降参のチャンスをくれるのかよ」

「最初はミスで、以降は気をつけている。それでどうする」

 男に与えられた降伏宣言。
 足掻いて挑むか諦めて終わるか。

 ──だが、男の答えは考えるまでもなく決まっていた。






「降伏で頼む」

  ◆   □   ◆   □   ◆

≪勝者、義賊! これで明日の決勝戦の組み合わせは決まった! 【断罪者】VS『模倣者』、はたして勝つのはどっちだ!?≫

 アナウンスが聞こえてきた、そして俺はそれを頭の中で認識すると……叫ぶ──。

「誰が『模倣者』だ! 払うもんはしっかり払って習得しとるわ!」

 ツッコむ部分はそこかよ!? という質問が来ないのが少し残念である。

 しかし実際それ以外、与えられた二つ名に不満は感じない。

「二つ名に特殊な効果を持たせるとは……運営も親切サービスが行き届いてるな」

 ログインしたときに二つ名が手に入っただのとログがあったのだが、二つ名そのものを鑑定してみると効果が掲載されていた。

 通常の効果は見たり習ったりしたスキルがリストに載りやすくなるというものだが──副次効果としてスキルによる模倣率が上がるらしい。

 お蔭様で、視認だけで今回の摸倣が成功したぞ。

「『職業:【死霊】』と【死霊魔法】……種族っぽいけど職業なんだな」

 調べてみると、あくまで死霊への適性がある者が就く職業だそうで。
 種族的には自分が設定した種族のままなのだが、特性として死霊としての性質を受け継いでしまうそうだ。

 魔法の方は冥魔法の魂魄に関する力が特化したようなものだった……内容としては、死にと関係したものばかりだけどな。

「摸倣はスキルだけじゃなくて職業でも可能だったんだな。これで可能性が増える……いつか【勇者】とかに会いたいな」

 それが今回からなのかは分からないが、これからはずっと摸倣できるだろう。

 現実で例えるなら──憧れてましたと自分がテレビ越しに見るだけで就職できるようなものだな……うわっ、何その氷河期の皆様を鼻笑うようなイメージ。



「また明日か……。お偉い様でも呼ぶのに時間でもかかるのか?」

 決勝戦は明日行われるらしい。
 職業はともかく魔法はすぐに確かめられるし……レベリングをもう少ししておこうか。

 最後の相手は、どんなスキルを持っているのかな?

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