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偽善者と始まり 一月目

01-29 第一回闘技大会 その01

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「さて、今日は何をしよう≪ピコーン≫……ん? 運営からのお知らせか」

 リーンの町が街になったり、修練場に売っていた最高級の生産設備を買え揃えていたここ数日。
 やることも多く、何をしようかと悩もうとする──直前に、メールが届く。

「件名は……ちょ、ちょっと待て!」

 開く前から内容に驚き慌ててメールを開くように念じる。
 ……思念操作、身力値のどれかを消費すればできることを最近知ったよ。

===============================
件名:固有スキルの所有者へお知らせ

     開催──闘技大会!!

参加条件:固有スキルの所持

 ただ今固有スキルの所持者が、一定以上の数を越したことが確認されました。
 これにより、闘技場解放イベント──闘技大会が発動されます。

 戦闘関係の固有スキルの保持者に、この連絡は届いています。メールを削除せずにこちらへお越しください[画像]。
 大会のルールは当日、会場で参加の意志を確認後にご説明します。
 参加しなかった場合は、固有スキルの一時封印が決行されますのでご注意を。
 なお、優勝者には豪華景品がございますのでお楽しみに。

 開催は現実時間で七日後の正午、参加者の方々は三十分前にお集まりください。
 ──皆様、存分に固有スキルを奮ってください。
===============================

「──よし、参加しよう」

 というか、俺には参加以外の選択肢が与えられていなかった。

 もし固有スキルの一時封印などされてしまえば、ただのモブである俺など一瞬で抜き去る主人公たちが偽善活動を妨害してくる可能性が高くなってしまう。

 景品に釣られた、というのもまあ理由の一つなんだが……いくつか試したいこと、そしてやるべきことを見つけたな。

「よし、それじゃあ参加しますか!」

 始まるのは一週間後、準備を本気でやっていればすぐに過ぎてしまう短さだ。

「だから適当に! 具体的には、レベリングは控えて魔子鬼たちを育てよう!」

 そのためにいくつかのスキルを習得したんだ──偽善を施す準備は、いついかなる時でも最優先なのでござる。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 そして迎えた闘技大会当日。
 外貌で自身の相貌を隠した男が、会場に現れる。

 会場入り口で座る受付嬢の前に立つと、ギリギリ聞こえるかどうかという大きさで、登録を申し込む。

「……大会の参加者なんですけど」

「はい、ではこちらに手を……はい、確認できました。スキルと職業は公開しますか?」

「……詳しく、聞かせてください」

 男は受付の女性に、詳細を尋ねる。
 この大会では名前を明かす必要はなく、偽名として職業やスキルで登録ができる。

 今回の闘技大会は固有スキルを披露するための、一種のデモンストレーションだ。

 これから先どうなるかは未定だが、今だけはその方法が採用されている。

「……では、スキル名は【■■■■】で、職業は『■■■』でお願いします」

「はい──登録、完了しました。参加者の方には一人一人控室がございます。『■■■』様は──十六番、この先にある十六番の控え室にて待機してください」

「はい、ありがとうございます」





≪大変長らくお待たせしました! ただいまより、第一回闘技大会を開催いたします!!≫

 現実時間の正午、魔法による華やかな花火とともに開催宣言が行われる。
 観客席にはプレイヤーたちが集い、歓声を上げて盛り上がっていた。

祈念者プレイヤーの皆様、初めまして! 今回の闘技大会で実況をやらせてもらうことになりました──『ナリア』と申します!
 これから始まる固有スキルの持ち主による熱き戦いを、皆様とともに盛り上げさせてもらいますよ!!≫

 観客の目的は今回決まるであろう最強のプレイヤーを見届けることだ。

 参加者は全て、謎が多い固有スキルの保持者たち。
 自分たちがまだ届いていない未知の領域に手を伸ばした者たちが、どのような力を振るうのか……。

 ──己が目で激動の始めを見届けるため。



≪……さて、皆様から『さっさと始めろ』という声が聞こえますので、どんどん始めちゃいましょうか。
 最初に闘うのは──
 スキル【矛盾】を持つ重戦士さんと、
 スキル【統属魔法】を持つ召喚師さんでございます!≫

 闘技場に設置された二つの入場門から白煙が吹き荒れる。
 中から二人の者たちが現れ互いに闘技場へ上がり顔を合わせる。

 片や矛と盾を握り締めた白髪の青年。
 片や外套に身を隠した杖を握る人物。

 両者ともに会話は一言もなく、これから始まる闘いに集中していた。

≪さーて、どんどん始めましょう──試合開始!!≫

 宣言が響き大歓声が再度上がる。
 唾をゴクリと呑み込みこれから始まる闘いへ意識を集中する──が、

≪おーっと、動かない!? 互いに行動の読み合いをしているぞーっ!≫

 それから数十秒、彼らは大きな動きをすることがなかった。
 重戦士は相手から感じる不気味な威圧感に動きを止められている。

 それでも必死に意志の力や恐怖心を捻じ伏せ、いざ動こうとしたとき──

「…………“従魔召喚サモン・モンスター”」

 召喚師が支度を終え、自らの前に従えた魔物を呼びだす。

 新しく従魔を作る際、召喚師は頭に言葉が過ぎる。
 魔力を籠めてそれを読み上げることで、従魔となった存在を自らの元へ現界コールさせることができるのだ。

『…………』

 召喚されたのは角が生えた、薄緑色の肌をした大柄な魔物──ゴブリンと呼ばれる存在である……と、プレイヤーたちは認識した。

(あれ? というか、ゴブリンはあんな色にデカくなかったよな……まさか、進化させてるのかよ!)

 召喚師が強い魔物を手に入れる方法は主に二つある──

 一:強い魔物に出会い従魔契約を行う
 二:従魔契約を交わした魔物を進化させる

 どちらも手間がかかる方法ではあるが、その分従魔にした後は頼もしい仲間となるのだから得なのだ。

「……行け」

「──ッ!」

 命令を受けたゴブリンは剣を構える。
 それを見た男もまた、矛と盾に妖しい光を纏わせて防御の態勢を取る。

「──完」

『…………!』

 一陣の風が吹く。
 男の前に立ったゴブリンは剣を仕舞い、魔方陣の中へ消えていく。

≪……え、えー。勝者は召喚師です!≫

 そんな彼らの耳に届いたのは、召喚師の勝利アナウンス。

 慌てて光の粒子と化していく男を見る。
 その先では──真っ二つにされた体が別々に粒子化する姿を見ることができた。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「リョク、お疲れ様」

「いえいえ我が主。あのようなことであればいくらでもお使いください。我が主によって授けられたこの新たな体、ワレも一度、外の世界でどれほど通用するかを試してみたかったので」

「そ、そうか……これからに期待してくれ」

 召喚師としての第一歩、従魔を召喚しての戦闘を行ったんだが──ワンキルだったな。

 相手がどれだけの戦闘力を有するのか、またステータスには載らない何かがあると困るので、全力でリョクをサポートしつつ戦闘を行おうとしていた。

 付与魔法と強化魔法でリョクを最大限まで強化バフし、呪魔法と弱化魔法で相手を弱体化デバフさせる。

 そこに俺が貸し与えた大剣で即撃──って考えてたんだが……グロいシーンになったみたいだな。



「我が主、すぐに『完』の指示をお出しになりましたが……一度でできたので?」

「ああ、抵抗もなくあっさりと。それでも相手はまだまだいる……気を引き締めないと」

「──固有スキル摸倣計画。すべては我が主の糧となるのですね」

「そうだ。……なんか、音を遮っているとはいえどこからかバレてそうで心配だな」

 俺がこの大会に参加した理由。
 それは、相手の固有スキルの発動を視認するためだ。

 俺の<大罪>スキルの中には、視認したり触れたりべたりすることで、スキルを習得可能にすることができるスキルがあるのだ。

 あ、それがこのリストだ──

===============================
傲慢:発動した能力の視認
憤怒:なし
暴食:能力保持者・発動能力の咀嚼
怠惰:なし
色欲:なし
強欲:能力保持者。発動能力への接触
嫉妬:発動した能力の視認
===============================

 今回の場合、変な色に矛と盾が輝いた際に【矛盾】の摸倣コピーが完了した。

 本来なら30Pが習得に必要みたいだが、お馴染み(全○○適正・小)の内武術適正の力によって5Pで習得する。

「さて、次は何を……あ、そうだ」

 対戦相手を調べようとしたんだが、それよりももっと重要なことが突然閃く。

「リョクに殺されたアイツにも、きっと目的があったんだろうし……よし、アイツの想いは無駄にしちゃいけない。継いでやろう!」

 そう言うと俺は、ある場所へ向かった。

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