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偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と奈落の住民 後篇
しおりを挟む大悪魔と共に、深い奈落で悪魔狩り。
従順か死か、どちらかの選択しか選ばさせてもらえない悪魔たちは、その大半が後者を(強制的に)選んでいた。
だがその道中、ここに来た目的の一部を果たすために少し寄り道をする。
大悪魔も興味があるのか、俺の行動に文句は言ってこなかった。
ここ、『悪徳の深淵』は巨大な穴と最下層まで続く螺旋階段、そして時折小道へ繋がる穴がある迷宮……探索者たちはその穴に住まう悪魔と契約し、力を得るという設計だ。
「ここには眷属が下した悪魔が根城にしている巣があるんだ。復讐するためのその牙を研いでいるんだが……今日はその近況を観に来たんだ」
『いちおう確認するけど、君がそれに関与していることは知っているのかな?』
「はははっ、何のことやら──当然、知らないに決まっているだろう」
『……くくっ。いいねぇ、実に面白い! 本当に殺すべき者を知らないなんてね! これは傑作だ!』
その眷属──ミシェルに対する復讐心が分散しないよう、俺からの丁寧な配慮が行き届いているだけなんだが……どうやら大悪魔的に、高評価みたいだ。
もちろん、彼女に害を成すレベルで危険になるなら、(許可を取ったうえで)変身魔法か魂魄偽装で俺を狙わせるけど。
当初の目的は、上位の悪魔との契約あるいは討伐時に得られる魔法。
それすらもできないのであれば、育てている意味がないからな。
『──そうだ、僕にこの一件預けてみてはくれないかな?』
「……お前、そんな信用あると思う?」
『信用は無いだろうね。でも、僕に任せれば君にとって最良の結果を出す……そう信頼してくれているだろう?』
「まあ、否定はしないが」
なんせ、大悪魔だからな。
たとえ俺を謀っていようと、目的だけは必ず果たしてくれるだろう……だがその過程、そして結果を約束しないだけで。
つまり、優れた魔法を得られる状態にはしてくれるだろうが、その間にどんな囁きをしてどんな姿にするのか、それらをいっさい俺に委ねてくれないわけだ。
それでも良いのであれば、自分に任せろと言っているわけだが……。
まあ、試金石として使うにはちょうどいいかもしれないな。
「じゃあ、頼むよ……具体的に、俺は何をすればいい?」
「──いや、ここからは勝手に僕が行くとしよう。別に君なら、『アルカナ』で下まで行けるだろう?」
「そりゃそうだが……いやまあいいか、許可したのは俺の方だしな。ただし、干渉のいっさいを許さない。悪魔当人、その周辺、および彼自身の自発的行動のすべてにだ」
「……本当に君は面白い。いいだろう、今回は大人しく交渉だけにしておくよ」
何も言わなかったら、いったい何をしでかしていたことやら。
ともあれ、俺がこの先に進むのは逆効果ということだろう。
再び『天斬る大剣』となった『アルカナ』と共に、俺は順路へ戻る。
そして、襲い掛かってくる悪魔たちを狩り続けるのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
最下層 宮殿付近
俺が迷宮を用意した目的の一つ、それは存在するであろう上層世界と下層世界へ繋がる道を確保するためだ。
かつて俺は空へ向かい、そのまま宇宙へ行くことになった。
だが本来、世界には上層と下層という概念が存在しているらしい。
お察しの通り、上と下は天使と悪魔のような存在が住まう領域だ。
そして本来、そこへ向かうためにはそれなりに面倒な手続きが必要になる。
それができなかったからこそ、かつて俺はそのまま宇宙へ旅立った。
ならばどうするのか……裏技的手段、迷宮による干渉で穴を開く方法を選んだのだ。
迷宮とは元よりあらゆる場所に存在可能。
そして、場所によっては複数の出入り口を生み出すこともできる……ここと上や下を繋ぐ迷宮を人為的に生み出そうとしていた。
「ふむ……まだまだ不安定だな。こっちから向かうには、条件が足りないか」
すでに穴だけであれば完成している。
だが、それはほぼ一方通行の代物で、こちらから通ることはできない……上層や下層は位的にどちらも上の世界だからな。
悪魔の世界だって、言い方を変えれば高位生命体の住まう世界。
あちらからこちらに来ることは容易いが、その逆は困難なのだ。
不安定な穴を固定できれば、こちらから向かうことができるようになるだろう。
次元魔法なら強行突破もできるだろうが、それは危険だと眷属たちに言われている。
時空魔法だと不安定な穴を通れず、だが安定していれば可能性があるとのこと。
今はそれを信じて、悪魔たちを受け入れることで穴の安定化を図っていた。
「この迷宮に存在するのは、上位級の悪魔まで。それ以上の悪魔は大悪魔を恐れているのか、あるいは何らかの理由でここを通っていない……それを成し得たとき、おそらく穴は完成する」
一つ、悪魔の世界に行って確かめておきたいことがあるんだよな。
悪魔たちは弱肉強食の世界……偽善もやり甲斐がありそうだ。
「──さて、次に行こうか」
宮殿から繋がる道を通り、一度迷宮の外へ向かう。
そして、俺が訪れるのは──
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