2,349 / 2,518
偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と解放後調査 後篇
しおりを挟む帝国の次に訪れたのは赤色の世界の紅蓮都市、そして『狂商人』であるルーカス。
そして話の末、俺をどこかに連れていくとのこと……誰が待っているのやら。
案内されて向かったのは、ここ紅蓮都市で一番大きな場所──城だった。
なんとなくオチは分かったし、そのことをルーカスにも知られたようで。
「……嵌めましたね?」
「いえいえ、そんなとんでもない! ただ、偶然本日は機会に恵まれたようでして」
「…………そうでしょうね。ええ、偶然の出来事なんでしょう」
チラリと霊体化して護衛をしてくれているニーの方を見れば、彼女も頷いていた。
うん、俺の元奴隷で、なおかつ眷属である彼女ならばこれぐらい余裕だろう。
紅色の髪を靡かせた軍服姿の美女。
亡国の宝剣を腰に下げ、彼女──ウィーゼル・フォナ・セッスランスは、俺の前に顔を出した。
「放蕩王、よく来たな」
「……ウィー」
「では、私はこれにて失礼を」
「ああ、ご苦労だったな」
ルーカスはさも要件を済ませたと言わんばかりに、この場から即座に消える。
残されたのは俺とウィー、そして元は奴隷だった人々のみ。
どうやら事前に彼女が集めていたようで、中でも女性ばかりがこの場に来ていた。
そうじゃないウサ耳女性も混ざっているのだが……まあ、彼女は付き添いだろう。
「せっかくの機会だ、私が伝えてもらいたいと聞いてきた恩義の言葉を、自分自身で聞いていくと良い」
「そういうの、俺は嫌いなんですけど?」
「嫌いだからと避けることができるほど、王という仕事は楽ではないということだ。なあ放蕩王、自身の責任を果たしてもらおうか」
「…………ごめんでござ──むぎゅっ!」
三十六計逃げるに如かず、そんな俺の考えは読まれていたようで……。
護衛のはずのニーが、俺が渡した覚えの無い食べ物を咥えて行先に立ちはだかった。
くっ、すでに買収されていたわけか。
ニーが俺に干渉し、強制的に不動金剛スキルを発動……足が自らの意思に反して動きを止め、逃げ場を文字通り失ったわけだ。
「……ノゾム様、それともメルス様?」
「どっちでもいいぞ」
「じゃあ、ノゾム様。お久しぶり」
「ああ、久しぶりだな、リュナ。それに……シュカさんもだな」
動きを止めていた俺に、まず先に近づいてきたのは耳先の丸いライオン耳の少女。
そして追随するように、ウサ耳の少女もこちらへ来る。
リュナに関してはいちおう俺の元奴隷なのだが、シュカことシュカラナは違う。
彼女は俺の眷属と共に、赫炎の塔を登った仲だった。
ただの獣人ではなく、幻獣人という特別な種族の二人。
そして塔の中には、彼らの住まうエリアも存在していた。
攻略後は、二人ともそこで過ごすようになると思っていたのだが……どうしてだろう、なぜかシュカ共々、紅蓮都市に住んでいるんだよな。
「ノゾム様、ご奉仕……する?」
「しないよ。ほら、シュカさんが凄い目で見てくるから」
「じゃあ、シュカもいっしょに?」
「しないから。それに、シュカさんを巻き込むんじゃありませんよ」
俺とシュカに直接の接点はそこまで無い。
時たま顔を合わせるぐらいだが、それも全部リュナを通じてのものなわけだし。
彼女は俺に頭を軽く下げ、リュナの首を掴みこの場から離れる。
それと同時、元奴隷たちが近づいてくるので俺はその対処を行うことに。
……しかしまあ、リュナが俺にそこまで積極的な理由がまったく分からん。
奴隷の時は恐怖からだと思っていたが、今はそうでもないし……うん、謎だ。
自分的には鈍感だとは思っていないが、機微に疎いことは間違いない。
いずれは知ることもあるだろうが……今はまだ、なんだろうな。
◆ □ ◆ □ ◆
第三世界 迷宮都市
迷宮都市に居る元奴隷は、主に犯罪奴隷などである。
死ぬことは無いが、死ぬような思いをして罪を贖ってもらっているわけだな。
……一部迷宮好きが自ら名乗り出たりするのだが、彼らはまあ例外だ。
「ここは……別に良いか。ニー、確認するけどここの連中に買収された覚えは?」
「……買収? 何のことですか?」
「そうかい、じゃあそれでいいか」
彼らの近況は常に迷宮の調査報告と共に確認しているので、生存も無事も把握済み。
なので彼らに関しては、わざわざ今回調査しなくても良い。
再び渡した覚えの無い物を食べているニーだが、それは別の場所みたいだな。
そして、俺は最後の場所に向けて転移を行うのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
第一世界 ラルゴ村
そこはかつて、フーラとフーリが住んでいた村の人々が住まう場所。
すでに村は滅び、奴隷として捕らえられた過去を持つ。
俺がやったのは、そんな彼らを犯罪紛いのやり方で奪うという行為。
それでも目的が贄だったからか、死者を出すことなく全員を救うことができた。
ある意味、俺が(偽善とはいえ)救った奴隷の中でもっとも最初の人々だ。
近況は常に国としてリョクが把握してくれているが、あえてここを訪れた。
「……よろしいのでしょうか?」
「ああ、俺は感謝されたくて救った……こともあったかもしれないけど、いつまでもそうされたいわけじゃないからな。だから、それで勘弁してくれ」
「……何を勘弁するかは分かりませんが、しかしこれはなかなかイケます」
フーラとフーリ経由で送られたであろう賄賂、それを超える品で交渉をしている。
二人にはあとで謝ることにするとして、俺はただ彼らを遠くから眺めるだけに留めた。
……俺が来ることはバレているので、何やら準備をしているようだけども。
あとで二人に行ってもらい、労ってもらえばとんとんだろうか。
「偽善でも、救える人はいる……まあ、それが本来の救いと比べると幸福度的にどうなのかは分からないけども」
「マスターのサポートは私たちがします。マスターは望むがままに、進んでください」
「……了解。困ったら、必ず頼るよ」
そのための眷属、と妥協はできないけど。
当の本人たちがそう望むのだ、今回のような出来事も含めて、何でもやるだけやってみようじゃないか。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる