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偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と解放後調査 後篇

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 帝国の次に訪れたのは赤色の世界の紅蓮都市、そして『狂商人』であるルーカス。
 そして話の末、俺をどこかに連れていくとのこと……誰が待っているのやら。

 案内されて向かったのは、ここ紅蓮都市で一番大きな場所──城だった。
 なんとなくオチは分かったし、そのことをルーカスにも知られたようで。


「……嵌めましたね?」

「いえいえ、そんなとんでもない! ただ、偶然本日は機会に恵まれたようでして」

「…………そうでしょうね。ええ、偶然の出来事なんでしょう」


 チラリと霊体化して護衛をしてくれているニーの方を見れば、彼女も頷いていた。
 うん、俺の元奴隷で、なおかつ眷属である彼女ならばこれぐらい余裕だろう。

 紅色の髪を靡かせた軍服姿の美女。
 亡国の宝剣を腰に下げ、彼女──ウィーゼル・フォナ・セッスランスは、俺の前に顔を出した。


「放蕩王、よく来たな」

「……ウィー」

「では、私はこれにて失礼を」

「ああ、ご苦労だったな」


 ルーカスはさも要件を済ませたと言わんばかりに、この場から即座に消える。
 残されたのは俺とウィー、そして元は奴隷だった人々のみ。

 どうやら事前に彼女が集めていたようで、中でも女性ばかりがこの場に来ていた。
 そうじゃないウサ耳女性も混ざっているのだが……まあ、彼女は付き添いだろう。


「せっかくの機会だ、私が伝えてもらいたいと聞いてきた恩義の言葉を、自分自身で聞いていくと良い」

「そういうの、俺は嫌いなんですけど?」

「嫌いだからと避けることができるほど、王という仕事は楽ではないということだ。なあ放蕩王、自身の責任を果たしてもらおうか」

「…………ごめんでござ──むぎゅっ!」


 三十六計逃げるに如かず、そんな俺の考えは読まれていたようで……。
 護衛のはずのニーが、俺が渡した覚えの無い食べ物を咥えて行先に立ちはだかった。

 くっ、すでに買収されていたわけか。
 ニーが俺に干渉し、強制的に不動金剛スキルを発動……足が自らの意思に反して動きを止め、逃げ場を文字通り失ったわけだ。


「……ノゾム様、それともメルス様?」

「どっちでもいいぞ」

「じゃあ、ノゾム様。お久しぶり」

「ああ、久しぶりだな、リュナ。それに……シュカさんもだな」


 動きを止めていた俺に、まず先に近づいてきたのは耳先の丸いライオン耳の少女。
 そして追随するように、ウサ耳の少女もこちらへ来る。

 リュナに関してはいちおう俺の元奴隷なのだが、シュカことシュカラナは違う。
 彼女は俺の眷属と共に、赫炎の塔を登った仲だった。

 ただの獣人ではなく、幻獣人という特別な種族の二人。
 そして塔の中には、彼らの住まうエリアも存在していた。

 攻略後は、二人ともそこで過ごすようになると思っていたのだが……どうしてだろう、なぜかシュカ共々、紅蓮都市に住んでいるんだよな。


「ノゾム様、ご奉仕……する?」

「しないよ。ほら、シュカさんが凄い目で見てくるから」

「じゃあ、シュカもいっしょに?」

「しないから。それに、シュカさんを巻き込むんじゃありませんよ」


 俺とシュカに直接の接点はそこまで無い。
 時たま顔を合わせるぐらいだが、それも全部リュナを通じてのものなわけだし。

 彼女は俺に頭を軽く下げ、リュナの首を掴みこの場から離れる。
 それと同時、元奴隷たちが近づいてくるので俺はその対処を行うことに。

 ……しかしまあ、リュナが俺にそこまで積極的な理由がまったく分からん。
 奴隷の時は恐怖からだと思っていたが、今はそうでもないし……うん、謎だ。

 自分的には鈍感だとは思っていないが、機微に疎いことは間違いない。
 いずれは知ることもあるだろうが……今はまだ、なんだろうな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 第三世界 迷宮都市


 迷宮都市に居る元奴隷は、主に犯罪奴隷などである。
 死ぬことは無いが、死ぬような思いをして罪を贖ってもらっているわけだな。

 ……一部迷宮好きが自ら名乗り出たりするのだが、彼らはまあ例外だ。


「ここは……別に良いか。ニー、確認するけどここの連中に買収された覚えは?」

「……買収? 何のことですか?」

「そうかい、じゃあそれでいいか」


 彼らの近況は常に迷宮の調査報告と共に確認しているので、生存も無事も把握済み。
 なので彼らに関しては、わざわざ今回調査しなくても良い。 

 再び渡した覚えの無い物を食べているニーだが、それは別の場所みたいだな。
 そして、俺は最後の場所に向けて転移を行うのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 第一世界 ラルゴ村


 そこはかつて、フーラとフーリが住んでいた村の人々が住まう場所。
 すでに村は滅び、奴隷として捕らえられた過去を持つ。

 俺がやったのは、そんな彼らを犯罪紛いのやり方で奪うという行為。
 それでも目的が贄だったからか、死者を出すことなく全員を救うことができた。 

 ある意味、俺が(偽善とはいえ)救った奴隷の中でもっとも最初の人々だ。
 近況は常に国としてリョクが把握してくれているが、あえてここを訪れた。


「……よろしいのでしょうか?」

「ああ、俺は感謝されたくて救った……こともあったかもしれないけど、いつまでもそうされたいわけじゃないからな。だから、それで勘弁してくれ」

「……何を勘弁するかは分かりませんが、しかしこれはなかなかイケます」


 フーラとフーリ経由で送られたであろう賄賂、それを超える品で交渉をしている。
 二人にはあとで謝ることにするとして、俺はただ彼らを遠くから眺めるだけに留めた。

 ……俺が来ることはバレているので、何やら準備をしているようだけども。
 あとで二人に行ってもらい、労ってもらえばとんとんだろうか。


「偽善でも、救える人はいる……まあ、それが本来の救いと比べると幸福度的にどうなのかは分からないけども」

「マスターのサポートは私たちがします。マスターは望むがままに、進んでください」

「……了解。困ったら、必ず頼るよ」


 そのための眷属、と妥協はできないけど。
 当の本人たちがそう望むのだ、今回のような出来事も含めて、何でもやるだけやってみようじゃないか。


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