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偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と解放後調査 前篇
しおりを挟む夢現空間 居間
再びの燃え尽き症候群……無駄に恰好付けて『根競べといこうか』、みたいなノリで帰還したがやることが無くなったのだ。
「まあ、ノルマ的なものはどんどん増えているから、それをやればいいんだけどさ。剣技に精霊術に死霊術に妖術……あとは魔技の開発と武技の自力発動もやらないと」
うん、やることが無いわけじゃない。
だがこれらはすべて、合間合間にできてしまうことだった……手を抜くわけじゃないけども、意識して取り組まずともできるのだ。
じゃあその間何をするかと言えば……ここが問題だった。
なんだろう、時間は有意義にと思えば思うほど時間に囚われている気がするや。
「──そうだ、外に行こう」
だが、ここでふと思い出したのはつい先日まで居た橙色の世界。
少々懐かしい面々を見つけたなぁという思考から、そんな発言に行きつく。
特に理由なんてない。
がしかし、特別用事がないからといって顔も見ていない人々が大勢居たのだ。
やることが無いというぐらいならば、たまには近況を自分の目で見ても良いのではないだろうか……そう考えていると、次第にやる気が自分の中で膨らんでくる。
いろいろと巡る場所が頭に浮かぶ。
一度考えると、逆に面倒と思えるぐらいにやることができるんだよな……そう思いながらも、計画を立てていくのだった。
『────』
「あ、ああー……順番で、決めてくれよ」
なお、一人で行こうと思っていたのは言うまでもない。
直接顔を出されると困る場所もあるし、そういう場所での対策も用意しておかないと。
◆ □ ◆ □ ◆
ヴァナキシュ帝国 黒没街
召喚士が召喚する従魔は、調教師の使役する従魔と明確に違う点が存在する。
それは、肉体を魔力で構築することができるかどうか。
祈念者がアバターという仮初の器に宿っているのと同様に、呼び出される際に召喚用の器を用意することができる。
今回、同行する眷属にも同様のことをしておいた。
某英霊と同じ要領で、実体化と霊体化ができるようになるわけだ。
『それもこれも、すべてはマスターの過保護のお陰ですね』
「その言い方、本当にお陰って思ってる?」
『ええ。マスターの守護をしつつ、こうして食事をしていてもお咎め無しとはなんと素晴らしいことでしょう』
「……俺でもこれから会う相手でもなく、他の眷属がお怒りになると思うけどな」
今回の護衛は【忍耐】の武具っ娘ニー。
なんだか今の姿も相まって、基になったと思われる騎士様っぽさが滲み出ている。
なお、物凄くどうでもいいと思うが、霊体化時に食すことができるのは魔力飯のみ。
実体がある代物だと、擦り抜けてしまう仕様みたいだ。
「それよりも、目的地に到着だ。アポは事前に取ってあるから、そのまま入るぞ」
魂魄偽装で俺と認識してもらえれば、入り口に陣取っていた連中はすぐに道を開ける。
広い屋敷の中に入り、我が物顔で待ち合わせの人物がいるであろう部屋へ一直線。
その都度、通りかかった人々は俺に頭を下げていく。
中には知らない顔も混ざっていたが……新入りか、俺が覚えていなかったのだろう。
なんてことを思っていれば、知っている気配が待つ部屋に辿り着いた。
向こうも俺が来ていることは分かっているだろうし、そのまま入室する。
「おう、よく来たな。相変わらずしけた顔をして……んのか?」
「偽装を解除するの忘れてたわ。いや、やっとかないとすぐに絡まれるからな」
「うちのもんがやってきたらそう言えよ。まだまだ扱き足りねえってわけなんだからよ」
「ははっ、神の邪縛なんだから多少は大目に見てやってほしいんだが……これで解除だ」
すでに何度か顔を見合わせているのもあるが、当人の強い精神力によって俺を見た際に生じる嫌悪感を彼は抱かない。
彼こそは帝国の裏を牛耳る男。
俺やこの地の人々が、オジキと呼んで慕う裏社会の組織──『一家』のボスに会いに来ていた。
「それで、ここに来た用件はなんだ? またなんか企んでるのか?」
「いやいや、人のことを歩く爆弾みたいに考えないでほしいんですけど?」
「似たようなもんじゃねぇか」
「……そんなはっきりと。こりゃあ、お土産の酒はみんなに盛大に振舞ってきた方がいいかもしれませんね」
「おいおい、そりゃねぇぜ! せっかくの好意を無碍にしちゃいけねぇぜ」
どうにか自分の分を確保しようとするオジキに苦笑し、酒を渡す。
元より確保しておいたし、今回のは特別な品だ……その分面倒なことを頼むしな。
「ん? こりゃあ……酒と煙草か。だが、見たことねぇな」
「うちで作った特注品だよ。薬酒と薬煙草、飲んでも吸っても健康になっちまう……オジキに試してもらいたいんだよ」
「…………お前さん」
「オジキにはまだまだ死なれちゃ困りますからね。あのときはできませんでしたが、完治も早まりますよ」
オジキはかつて、呪いと病に蝕まれてかなり危険な状態だった。
当時の俺は縛りの影響もあり、その根治まではできないまま切り上げることになる。
アレから見た感じ普通に振舞えていても、時々症状が出ていたことを知っていた。
なので今回、ユラルの植物で作り上げた二種類の薬を提供したわけだ。
「まあ、俺のエゴで酒と薬という形にしてもらいましたがね。やっぱり、オジキはそうでなくちゃいけませんから」
「はっ、分かってんじゃねぇか。その調子で偽善とやらを頑張れや、うちの二代目もそろそろってところか?」
「いや、だからそれはアニキに……ってそうだ。アニキは今、どうしてるんですか?」
「ん? アイツは──」
話を逸らし、二代目襲名については無かったことにする。
……いろんなところでそんなことを言われているが、やっぱり身軽な方がいいからな。
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