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偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と橙色の会談 その20
しおりを挟む燎原の火はどこまでも。
抵抗するように魔花を生み出し、森羅を操り膨大な水を以って消そうともしている。
だがそのすべてが無駄。
魔導に対抗できるのは基本的に魔導のみ。
あるいは、超級か極級足り得る力だろうが『花』がそれらを持つことなどない。
アンによると、眷属たちが調査してくれている『聖女』と『橙王』の『装華』持ちは表向き俺の行いを好意的に受け入れている。
これにより、眷属たちは彼らを裏切り者であってもそれは無意識的なものだと判断。
これから行う計画についても、若干の変更が加えられることになる。
「さて、来ましたか」
傭兵姿の俺は、アンと交わしていた口調から眷属に不評な敬語へと切り替え。
そうこうしていると、現れる膨大な数の魔花──そして、『花』そのもの。
『────』
「火の魔法──“業火円陣”」
こちらに言葉を交わす意義など無いので、見つけた瞬間に業火魔法をぶっ放す。
魔導を見せ過ぎるのもアレなので、あえて魔法を放つのみ。
だが、魔導ほどの火力は出せず、火は魔花と自然現象によって搔き消されていく。
そこから向こうが考えるのは二つ──隠しているか、数に限りがあるのかだ。
「雷の魔法──“雷衝波”」
なお、先ほどから何の属性を使うか宣言しているのには理由がある。
勘違いすることを狙っているが、それと同時に俺の限界を偽っていた。
詠唱は省いても、宣言はしなければ発動しない……あるいは無詠唱は得意ではない、そう考えてくれればいいんだけどな。
火を散らし、雷を広げる。
どちらもただの花が相手ならば熱で滅ぼせるが、『花』たちは神や龍を糧に得た力でそれらに対処していく。
神の権限は森羅万象を操るのに最適だし、龍の性質は生命体に最大限の耐性を与える。
そして、彼ら自身の性質である侵蝕……今は何を食らっているのやら。
もともと大地に存在していたものは、基本的にすべて敵に回ったと思った方がいいか。
それでも俺は魔法を打ち続ける、俺という存在を知らしめるために。
「火と風の魔法──“焼夷”」
試すように放ったのば爆発魔法。
魔導には劣るものの、消すのであればかなり面倒になる厄介な魔法を発動。
その場に俺の魔力が残留し続ける限り、その火が消えることは無い。
そんな魔法を視界に映る目いっぱい、広範囲にぶちまける。
先ほどまでと同じ火だと思い、同様の方法で消そうとする『花』の手の者たち。
だが、火は消えない……自然現象や物理現象を超越した火だからだ。
しばらく自身の一部を燃やされることで、そのことに気づいたのだろう。
ようやく『花』たちは、俺が求めていた行動に移った。
『────』
「それは……水魔法“水鉄砲”、なるほどそれが精一杯の消火ですか」
魔花──魔法を操る人型の個体が詠唱らしきものを終えると、蔦の先からそれなりの量の圧縮された水が飛び出す。
ただ水を撒くのではなく、魔法によって魔力を押し流す作戦を取ったようだ。
実際その方法は正しく、“焼夷”の火は少しずつ消火されていく──このままなら。
今、俺の瞳は緑色になっていた。
目の前で詠唱を行う『花』、そして魔花を強く恨み──憎んでいる。
「妬ましいですね、その魔法……魔術しかない私どもに、どうかそちらを私の目の届かない場所へ──“反目禁嫉”」
『────』
「しばらく、どうか魔法は無しで。ええ、そのままで……この燃え盛る炎は、その間も広がり続けますがね」
普通の火、そして“焼夷”の炎はどうにか消していた。
だが魔導“深淵なる真焔”だけは、いかなる手段を以ってしても防げない。
そのため、『花』たちは地面を隔てて強制的に火の広まりを抑えた。
つまりそれ以外の方法ではどうにもならない、そう認識したわけだな。
「太陽、そして月の魔法──“双星昇瞰”、そして加えて“広範/干渉/常駐”。しばらくは魔法をお控えください」
そのうえで、畳みかけるように放ったのは上空に浮かぶ星に干渉する魔法。
これにより、“焼夷”同様魔力が持つまで俺は上空に視界を得た。
これが意味するもの……つまり、現在の魔法禁止の効果がほぼ永続するということ。
先ほど込めた魔力はかなりのもの、そして定期的に供給するので尽きることもない。
「それでは、私どもの目的は果たされましたので。これにて失礼を」
『────』
「いえいえ、送迎などご不要ですよ……その状態で、これまでと同じように振舞えるのか楽しみです。空間魔法──“空間移動”」
先ほどの魔法によって、俺の視界はこの世界のほぼすべてを映し出せるようになった。
そして“空間移動”、これは座標を設定せずとも視界内ならどこへでも飛べる魔法。
つまり、組み合わせれば転位よりも燃費よく遠い場所へ移動することができる。
──こうして俺は、暫定的に『花』から魔法を奪った。
◆ □ ◆ □ ◆
「これで割り出せるのか?」
《魔法が使えなくなった以上、必ずボロを出すことになります》
「アンがそういうなら、そうなんだろうな」
《継続的に監視を行います。ですが、メルス様の望む形で発覚するにはしばらく時間が掛かるでしょう》
「まあ、『花』が魔法を取り戻す可能性もあるけど……それは無いんだよな?」
《ええ。メルス様のお力ならば、必ずや》
「なんだか使い方が違う気がしないでもないが……まあいいや。華都の接続が終わる頃には、もう一度戻ってきますか」
俺と眷属たちによるやり取りを、『花』も無意識の裏切り者たちも知ることは無い。
さぁ、魔力が尽きるのが先か、お前らが痺れを切らすのが先か──根競べといこう。
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