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偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と橙色の会談 その16
しおりを挟む大地
地表であり、かつての地面。
華都よりはるか下部に存在するそこへ、俺は再び足を踏み入れていた。
時間はすでに夜、そして周囲には誰も居ない……というかそういう場所を選んだ。
さすがに人々も警戒を緩めておらず、華都付近は探知されているからな。
しばらく待っていると、俺がここに居ることを感知したのかこちらに急速な勢いで近づいてくる気配が一つ……人ではないので、わざわざ備えることなく待つだけで良い。
「──来ましたか、お待ちしておりました」
『わざわざこのような場所へ……気づいていたのか?』
現れたのは聖なる光を放つ龍。
ただし、『花』に感知されることを恐れてなのか、その周囲に光を捻じ曲げて行う偽装が展開されている。
そんなリスクまで背負ってきたのは、それが聖光龍にとって必要なことだからだろう。
まあ、俺は“奪魂掌”で触れたときに必要な情報の大半は回収しているんだがな。
「ええ、少し特殊な眼を持っていましてね。それよりも、今はお互い腹を割って語り合いませんか? 共有したい情報が、あるように私は思うのですが……」
『……良いであろう。だがその前に、汝の実力を知りたい──身に纏うがよい』
言われるがままに、『造花[守式]』を装着しておく。
だが、武器はそちらに組み込んでいる物ではなく、別の物をチョイスした。
『! なんであるか、そのおどろおどろしい剣は……』
「『劉剣[リュウゴロシ]』、世界にただ一種の劉から得た素材から打ち上げました。彼の存在は竜種の極み、ゆえにありとあらゆる竜への特攻を有しています」
『……だが、呪いなどは無いか。正々堂々と勝ち得た物、ならば私から言うことは何もないのである』
強い魔物──そして魔獣の中には、素材になってもなおその強い遺志を残すことが稀にある……竜種もまた、そうした特別な自体を引き起こす。
竜には根源的、あるいは伝承としてそういう物語が広まっているからだろうか。
ともあれ、強引に殺して装備を作ると割とよく呪われてしまうのだ。
そして、同じ竜種であればその力の波動を掴むことができる。
……まあ、当人もとい当劉とは交渉してから貰っていたので平気なのだろう。
『──では、始めるとしよう。汝の力、私に示してみせよ!』
「あまり戦闘は得意ではありませんが……今回は、団長である私自身が戦うべきでしょうね。それでは、行きます!」
特に補正のない[守式]だが、使用者の実力を隠蔽する機能はそれなりに高かった。
身力を体内で循環させて身体強化を図っても、それを外部に可能な限り漏らさない。
そして、同時にそれをさも『装華』の力だと偽ってくれる。
本気でも全力でもないが、制限された中での最大で勢いよく突き進む。
「──『軌道操作』、『遊歩ノ靴』」
着込んだ『装華』、そして腕に嵌めた魔術デバイスによって二つの魔術を起動する。
足は宙を踏み、俺自身はだんだんと重力の法則を超越して地面と水平に立つ。
おかしな動きを見せる俺に対し、聖光龍は無数の光線を放った。
それらはすべて、俺が躱そうと追いかけてくる……ホーミングレーザーなわけだ。
時に空中で宙返り、時に足場に触れず落ちたりと不意を突く動きで光線を避けていく。
だが逃げているだけでは勝ち目はない、対抗しなければいけないわけだ。
「──“奪光”」
『むっ、やはり魔法を使うか』
「手慰み程度ですが……これぐらいならば、私どもの傭兵団は誰もが使えますよ」
『やはりそうか……』
何か確信を持っているようだが……うん、そういうことなんだろうな。
なお、魔法名とは裏腹に向こうの制御能力が高いため奪えたりはしていない。
だがそれでも、一瞬だけ、光の軌道を逸らすことで攻撃を捌いた。
その光を別の光に当てることで、数を減らしていくのだが──
『まだ足らぬか? ならばおかわりなのだ』
「…………ハァ」
減らした分を元に戻される始末。
同じことを繰り返すでもいいのだが、やはり面倒この上ない、なので別の方法を選ぶ。
「──“冥械”」
『まさか……』
「ここからは、剣技をお見せしましょう」
先ほどまでとは打って変わり、避けていた光線へ闇に染まった剣を当てていく。
闇の上位属性である冥の力により、竜種特攻の力も混ざり聖なる光を打ち払う。
次々と光を消し去り、やがて俺は聖光龍の眼前に立っていた。
そのまま剣を突きつけると、聖光龍は展開していた光をすべて自ら解除する。
「もうよろしいので?」
『これ以上は充分である。それに、全力を出しては気づかれてしまうであるからな……なかなかにやるではないか』
「お褒めいただけるとは、光栄です。では、今回はここまでということで」
武器を仕舞い、周囲を探知。
周りに『花』の反応は無い……警戒はいちおう続けておこう。
「それでは、本題といきましょうか。聖光龍様、あるいは守護龍様とお呼びしてよろしいでしょうか?」
『呼び方は何でも構わん、何なら様付けも不要である』
「それでは……聖光龍さん、とお呼びさせていただきましょう。聖光龍さん、貴方は私どもの何を知っておりますか?」
向こうの事情を聴く前に、どこまで話していいのか分からないからな。
まずは先ほどの違和感を確認するため、尋ねておこうじゃないか。
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