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偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と橙色の会談 その15

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 山人族ドワーフたちに魔花の加工技術を伝えた。
 彼らが崇める守護龍様こと聖光龍ブライトが復活しているので、その証明さえできれば何とかなると考えている。

 それからしばらく、どうやら央都からその事実を伝えに来たようで。
 俺が居ることに驚きつつも、まさにその情報を伝えてくれた。


「──それでは皆さん、始めましょう」

『おうっ!』


 むさ苦しいオッサンたちによる叫び。
 なんだかなぁと思いつつも、それを顔には出さないで植物加工スキルがもたらす知識を山人族へ伝えていく。


「皆さんも魔花を咲かせる個体、魔物を利用する方法は理解しているでしょう。しかし、今回皆さんが覚えるべきモノは、『花』そのものの加工技術です」

「それは本当にできるものなのか?」

「それを証明するために私が居るのです。では、まずは見ていてください」


 用意してもらった低位の魔花に咲いていた『花』を手に取り、ジッと観察する。
 ……ここまで言っておいてアレだが、植物加工スキルを使うつもりは無いんだよな。

 俺といえば、正確には俺の生産を支えているものといえば──答えは生産神の加護。
 あらゆる生産技術に精通するための知識、それを授かった者に与えてくれる。

 正直、タレインの植物加工スキルでも良いのだが、アレは植物だけに限定していた。
 彼らは山人族、やはり部分的にでも金属を扱う方が心象的に好ましいだろう。

 なお、『花』は星からあれこれ奪っているからか、金属としての性質も有していた。
 山人族たちの『装華』において、その大半が金属の性質を引き出すことを可能とする。


「溶炉は魔道具ではなく、こちらを利用します。火を生み出す『紅蓮花』、『花』を加工する際は同じく花を媒介にすることが必須事項です。そのため、槌もこうして──『花』で作り上げるわけですね」


 それ自体はやはり、『鍛冶師』の『装華』が必要になるけども。
 だがすでに作り、<複製魔法>で大量に用意してある……今回だけの裏技だ。

 使うべき火、そしてそれを叩く槌が有れば最低限のことはできる。
 以降は確認のようなもので、温度はどのくらいか、どういう風に叩くかを伝えていく。

 最初は仕方なくといった様子で指導を受けていた山人たちも、話が進んでいくにつれて体を乗り出す勢いで学んでくれている。

 やはり鍛冶師もとい生産者たるもの、まだ見ぬ未知の技術に興味津々なのだろう。
 そしてそれを知り、自らの糧とするために必死に見て覚えようとしているわけだ。


「──とこのようにして、加工する際は花弁に注意しながら叩いていってください。ここまでで、何か質問のある方はいますか?」


 尋ねるたびに、彼らは一斉に自身の問いを投げかけてくる。
 俺はその一つ一つに丁寧に応えるだけでいい……加護が答えを教えてくれるからな。

 そうしているだけで、俺がまるで鍛冶に精通しているかのように思えるだろう。
 錯覚でも、その場においては一種の真実になる……情報の信用性が増すわけだ。

 数時間、たったそれだけの時間だが基礎的な部分は教えることができた。
 あとは彼ら自身の腕で、より良い加工ができるようになるだろう。


「では、私から教えることはこれですべてとなります」

「なぜじゃ! まだ──」

「まだ教わることがある、教わらなければならないことがあると? すでに何人かの方々は分かっているようですが、見て盗むだけでは分からないこともあるでしょう。それをどうするか、再度お考えください」


 やや若い山人だったのだろう、言われてようやくハッとした顔を浮かべた。
 そう、弟子に言うようなことを自分がやってどうするのだ。

 新しい技術、だから分からないのは仕方ない……では困るのだ。
 認識を改め、これからタレインの成すべきことを受け入れられるようにしている。


「それでは、私はこれで失礼しましょう。もちろん、再び雇っていただけるのであれば私たち傭兵団はこちらに顔を出しますがね。教えることはもうありませんが、素材集めぐらいであればご協力しますよ」

「待ってほしい。どうか、宴の準備を──」

「申し訳ありませんが、私どもの傭兵たちには未成年の者も多く。団としての規定で、お酒などがよく出る宴には参加しないようにしていますので」

「そ、そうか……ならば、仕方ないか?」


 時間も掛けたくなかったので、理由を適当に考えて言っておく。
 ……ああでもそうか、眷属たちに傭兵として来てもらうならそうした方がいいか。


「最後に一つ──私の弟子となったタレインは、皆さんの想像を超える技術に挑戦しています。皆さん、それは『鍛冶師』だからではありません。皆さんと同じ鍛冶師だから……それを忘れないでくださいね」

「……タレイン、あの小僧がか」

「ええ、彼は私の想像を超えて成長しています。どうかそれを止めるような行いは、しないでいただけると」

「うむ、ならば帰ってきた小僧に一つ作ってもらおうかの。これからの主流、時代の最先端というヤツをな」


 周りの山人族たちも、ニカッと笑みを浮かべている。
 こういう場所だったから、最後の【希望】は残された居たのかもな。

 ──そうしてやることを済ませた俺は、最後にやるべきことを行いに向かうのだった。


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