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偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と橙色の会談 その12

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 計画を邪魔するであろう聖光龍を山人族に押し付け、『鍛冶師』を正式に弟子にした。
 タレイン少年は自ら俺に習うことを決意した──その記憶は忘れられないだろう。


「自分は槌スキルも見極めスキルも、ましてや鍛冶スキルも持ってません。普通のスキルは持っているのに、鍛冶に関するスキルだけはどうしても取れないんです」

「なるほど。タレイン、君はこう言いたいわけですね。自分にはスキルが無い、だから鍛冶はできないと……違いますか? いえ、君はこうして弟子になった。なればこそ、今の考えは違いますよね?」

「はい! ……でもお師匠、スキルが無くても鍛冶はできますか?」

「この世界では、それが常識だったかもしれません。ですがご安心を、私の技術においてスキルは補助であって必須のものではございません。重要なのは当人の腕、それが有れば名刀程度ならば容易く打ち上げられます」


 言わずもがな、現実世界においてスキルとは目に見えない概念だ。
 しいて挙げるならば免許や許可証だが、それらとて本人の資質を表す物では無い。


「ただ、今の私は君の言葉を聞いているだけに過ぎません。君の技量の問題か、あるいは特別なナニカが原因だったのか。それを知るためにも、今一度君には槌を振るってもらう必要があります」

「! ……自分、怖いです。お師匠が自分の鍛冶を見て、破門にしてしまうかもって」

「そのようなことはしません、と口で言っても真に分かってはもらえませんね。ですが、それでも君にはやってもらいます──さぁ、始めるとしましょう」


 さすがは山人族、部屋の中に鍛冶を行う設備が必ず用意されているみたいで。
 タレインは設備の前に立ち、槌を握り締めて──鍛冶を始める。

 これまで何人もの山人族の師事を受けていたからだろう、ある程度はできていた。
 火を確認し、槌を叩き、金属の形を少しずつ変えていく。

 一つ一つを見て、タレインのどこが問題になっているのかを確認する。
 優れた観察眼など自前で持っていないが、偽善のための瞳を貰っていた。

 鑑定眼と魂魄眼、それらを両目に宿して視つめるのは少年の見せる輝き。
 本当に鍛冶をやりたいからだろう、緊張をしながらも鍛冶をやれることを喜んでいる。

 鉄を打ち上げようと槌を振るう度、揺れ動く魂魄……そちらに問題は無いようだ。
 だが、打ち上がっていくその品を見てみると……歪な品が出来上がっていた、


「うぅ、やっぱり……」

「…………なるほど、そういうことですか」

「お、お師匠?」

「タレイン、君のそれには理由があります。君自身が悪いわけでも、ましてや他の誰かが悪いわけでもありません……理由を、君は知りたいですか?」


 二つの瞳が導き出した、少年が鍛冶を正しく行えない理由。
 それは少年にとって残酷で、かといって誰かを恨むこともできないもの。

 だが、タレインはコクリと首を縦に振る。
 ならば、とゆっくり口を開く──弟子入りの話を根本から覆すような結果を。


「じ、自分は……何がダメなのですか?」

「──君には、鍛冶の才能が無いわけではありません。それ以上の才能が、鍛冶以外の行いを拒絶しているのです」

「…………えっ?」


  ◆   □   ◆   □   ◆


 スキルには相性が存在する。
 剣術スキルと斬撃強化スキルだったり、格闘術と体幹スキルだったりと……プラスになるスキルはたくさんあった。

 だがそれと相反するように、マイナスなシナジーを生む相性も存在する。
 その一つに、鍛冶スキルと植物加工スキルが存在した……それが失敗の原因だ。


「君の持つ植物加工スキル、それは植物に関する加工技術を高めてくれます。ですが、それ以外の素材に関する加工全般に対する適性が著しく下がってしまうのです」

「じゃ、じゃあ……自分は!」

「そうですね、君が鍛冶にこだわり続ける限り、その才能が君を蝕む続けるでしょう。どうして君がその才に恵まれたのか、それは分かりません……ですが、君が君の理想とした鍛冶を行うことは難しいでしょう」


 察しのイイ者ならもう分かると思うが、金属が加工できずとも植物の加工であれば少年は山人族……いや、森人族や花人族以上に優れた結果が出せるだろう。

 普通なら難しい火による加工も、耐火性の高い魔花を利用すれば問題ないはず。
 だが、鍛冶スキルは金属加工にのみ特化したスキル……植物加工には対応していない。

 鍛冶スキルが取れなかったのも、槌スキルが取れなかったのも、すべてが金属を用いて習得を目指していたからこそ──少年は何かが折れたのか、涙がツーッと流れ出ていた。


「──故に、君には選択肢を授けます。私は君のお師匠ですので、君の意向をある程度叶える義務があります。まず、君の選択を歪めないようにお伝えしましょう……君が金属で鍛冶を行う術を、私は有していますよ」

「!!」

「先ほど、守護龍様に行った技術。アレは他の存在から、何らかの概念を奪うものです。あのときは君から守護龍様の魂を奪いましたが……同様に、君から植物加工スキルを奪うこともできます」

「じゃ、じゃあ! 自分が鍛冶をすることもできる、ということですか!?」


 涙を止めたその問いに、俺は頷く。
 瞳に【希望】が宿り、期待しているようだが……伝えておかなければならない。


「ですがそれは、誰にも望まれていない道でしょう。世界は君に、その腕で魔花を加工することを望んでいる……それでも君は、君の望みを貫きますか?」


 今、鑑定眼だった瞳は未来眼となり俺へある未来を映し出していた。
 少年の創り上げた武器によって、人々が強大な『花』に挑む光景を。

 今この瞬間、それを告げてきたことに意味があるのなら……そういうことなのだろう。


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