上 下
2,337 / 2,519
偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と橙色の会談 その11

しおりを挟む


 新弟子タレインの『装華:鍛冶師』の中に眠っていた聖光龍の魂を回収し、本体の中に押し込み“神聖蘇生リザレクション”を発動。

 すると、氷塊の中に眠っていた聖光龍の瞳が突如として見開かれ──こちらを睨む。


『汝は……何者であるか?』

「記憶が混雑しているのかもしれませんね。私はしがない傭兵ですよ。それより、貴方様が気にすべきなのは……彼なのでは?」

「……せ、聖光龍、様?」

『──。その力の波動、間違いないか』


 氷塊の中で激しく揺れ動く肉体、やがてそれは砕け……なかった。
 いやまあ、シュリュの劉気が混ざっている代物だからな、そう簡単には砕けないさ。


『…………これは、何とかならないか? この強大な竜の力、驚くことに守護龍である私にも破壊できないではないか』

「残念ながら。私めに、そのようなことはできませんね。威厳などはありますので、そのままでも大丈夫だと思いますよ」

『そうであるか……改めて、タレインよ。よくぞ私を体と引き合わせてくれた』

「そ、そんな……自分は何もしてないです。お師匠を信じただけです!」


 嬉しいことを言ってくれるタレイン、だが聖光龍の目は訝しんでいる。
 信頼や信用などされていないのだろう、俺が何をしたのかと疑っているわけだ。


『汝がか?』

「氷を解かすことはできませんが、命を蘇生することはできまして」

『……先ほどのアレは、やはり魔法か。この世界で、あれほどの魔法をまだ見ることができるとはな』

「……魔法? あの、魔術ではなく?」


 事情を知らないタレインからすれば、言い間違えたようにも思えるだろう。
 魔術と魔法、大まかに分類するなら利用しているシステムが違っている。

 だが、魔法という概念は存在しているし、ごく一部の『装華』ならば互換性もあった。
 それでもあまり高位の魔法は使えないようなので、『装華』には限界があるのだろう。

 だが守護龍である聖光龍は、かつて魔法が主流だった時代を知っているらしい。
 赤色の世界も主流は魔法だ、過去の橙色の世界では使えていたのだろう。


「いいですか、タレイン。魔法は実在していました、そして今もひっそりと使われています。しかし、それはあまり知られていないのです。君にも少しであれば、使えるようにする予定です」

「じ、自分がですか!?」

『──なんと、できるのか?』

「ええ。とはいえ、私とてただの人。誰にでも教えられるわけじゃありませんし、教える気もありません。熱意で私を負かした、タレインだからこそ、教えるのですよ」


 おっ、なんだか師匠っぽい。
 タレインは目を輝かせてくれている……その分、聖光龍の疑い度合いも上がった気もするけども。


「さて、まずは守護龍様であらせられる聖光龍様の問題を解決してしまいましょう。この場所がどこなのか、把握はできてますか?」

『……ここは華都プロテスリア、山人族の代表者たちに用意された部屋だな。『装華』や魔花など、今の世界の単語は山人族たちの行動により記憶している』

「なるほど、先ほどタレインが誰かに話しかけられていたように思えたのは、そのためでしたか。ならば話が早くて結構、結論だけ申しましょう──貴方に植え付けられていた例の『花』、それは私が回収しました」


  ◆   □   ◆   □   ◆


 現在、山人族ドワーフたちは歓喜に包まれている。
 守護龍である聖光龍が復活し、自分たちの前に肉体を持った形で現れたからだ。

 どうやら代々『鍛冶師』の『装華』使いが聖光龍の意思を聞いていたことを、代表者たちは知っていたようで……そのため、声を聞けないタレインにヤキモキしていたらしい。

 だが一発逆転、声どころか本体を復活させたことでタレインは株が急騰。
 今や人気者……しかし、当人はそれを嫌がり俺と部屋に戻って来ていた。


「本当によろしいのですか? 今の君は、英雄として扱われておりますよ」

「いいんです。お師匠が居なかったら、自分はダメな『鍛冶師』のままでしたから。それよりも、自分はお師匠からもっといろんなことを学びたいです!」

「そうですか、それは何よりです。師匠として、弟子である君に一番最初に教えること。何にしましょうか……魔法、戦闘技術、あるいは──鍛冶そのもの」

「鍛冶!! お師匠、鍛冶がいいです!」


 最初も俺の打ち上げた武器を見て、何かを得られるかもというアプローチだったし。
 純粋に鍛冶師として、成長することを彼は望んでいるようだな。

 俺としては、弟子にするからにはとことん教えられることは教えるつもりだ。
 彼が祈念者の万能の才を超えるレベルで、鍛冶技術を得られるかどうか……興味深い。

 彼は自身の求めたモノを得られるし、俺もまたその結果を知ることができる。
 大変【傲慢】と【嫉妬】に溺れた自論、それをタレインで試したかった。


「私は……君を利用しますよ? 心清らかな人間ではありませんので、打算塗れで君を育てます──それでもよろしいのですか?」

「……今まで自分に教えてくれた人は、自分に才能が無いと言っていました。そんな自分でも、本当に立派な鍛冶師になれますか?」

「──はい、間違いなく」

「なら、自分の答えは変わりません……お師匠、自分を利用してください! その対価として、自分を一人前の鍛冶師に!」


 そして、少年は自ら決断する。
 だからこそ、もう迷いはない……俺の弟子としてさまざまな実験を経て、彼は立派な鍛冶師になるだろう。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...