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偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と橙色の会談 その09

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 交渉(魔力)によって、『鍛冶師』との接触を図った俺。
 個室を整え、『選ばれし者』である山人族が訪れるのを待っていた。


「──どうか、師匠に会わせてください!」


 そのはずだったのだが……俺、そして相席してもらっていたギーは現在、少年の山人に地面へ減り込むほどの土下座をされている。

 はて、『鍛冶師』だけが入って来るようにと伝えておいたはずなのだが……。
 部屋が広くなっていることに驚いている、戦士長と呼ばれていた山人族が外に居た。

 彼と目を合わせ、彼は何者なのかという視線を向ける。
 すると、ただコクリと深刻そうに頷く……えっ、もしかしてコレ?


「き、君は……」

「ハッ! も、申し訳ありませんでした! じ、自分は『タレイン・ジェンシャン』と言います! お願いします、どうか師匠に会わせてください!」

「ええっと、タレイン君……と呼びますね。その師匠……というのは?」

「こ、これです! これを作った御方、その方ならば…………貴方様がその御方を知っているとお聞きしました! お願いします、どうか会わせていただけませんか!?」


 ギーに目配せをすると、彼女は少年に近づきポンポンと肩を叩く。
 ……『装華』を纏っていたなら、この時点で模倣が完了しただろうに。


「とりあえず、席に御付きください。その剣も含めて、交渉を行うことにしましょう──戦士長様、そういうことですので」

「う、うむ……くれぐれも、無茶なことは言うでないぞ」

「わ、分かっています、大丈夫です!」


 全然大丈夫じゃなさそうだし、遠回しに俺たちに告げていた言葉を伝え、戦士長は扉を閉める。

 残された少年……いや、『鍛冶師』は何故か山人族に見せた剣の製作者を求めていた。
 お察しだとは思うが、うちで武器を真面目に作るのはただ独り──そう、俺だ。


「まず、最初に言っておきましょう。剣の製作者は私です」

「ほ、本当ですか!? ……やっぱり、自分じゃそれを見抜けないんですね」

「ああ、気にしなくて大丈夫ですよ。私は少し特殊な職人でして。身体的特徴やらオーラなどで、見分けることは不可能ですよ」

「……でも自分、いっつも言われるんです。職人ならそういうのが分からないとダメだって。お、お師匠はそう思わないんですか?」


 実際、優れた達人は自身と同じ存在を見極めることはできる。
 この世界の場合、実力者は簡単に見分ける方法があるぞ──レベルによる風格だ。

 偽装や身力操作を行わない者は、膨大な量の身力を漏らすことになる。
 なので感知能力が低い非戦闘職でも、生存本能からそれに気づくことがあるのだ。

 職人として見分けるというのであれば、まあ自分との類似点を見つけることで判断しているのかもしれない……その使用度合いで、その熟練度を判断しているのかもな。


「私は、そういったものを見定めることはありませんね。結局、最後に良い品を生み出せればそれで良いのですから。そうですね、君は君の信じたように、その想いを槌に籠めればいいんです」

「! し、師匠……!」

「……さて、そろそろ真面目なお話に移りたいのですが。仮に私が師匠になるとして、それが私にとって何の益があるのですか?」


 まあ、ただそれを受け入れれば、模倣の作業もさぞ簡単にできるだろう。
 だが、偽善者としてただ一方的に搾取するのは、何か違うというのが持論だ。

 だからこそ、少年自身に支払うべき対価が無いかを尋ねている。
 それを自分で決めたという記憶が、今後の彼には必要になるだろうし。


「え、益……ですか?」

「はい、益です。師匠と言うからには、君は私に何かを望んでいる。それには教育が必要で、過程で消耗するモノもあるでしょう。では君は、私に何をもたらしてくれますか?」

「え、ええっと、ええっと…………!」


 何度も同じような交渉をしている偽善者なので、そこまで高い報酬を受け取るつもりは最初から無いんだけどな……『鍛冶師』としての力で、何か作ってもらおうかな?


「──じ、自分のすべてで、支払います!」

「そうですか、ではそれで…………はっ?」

「今の自分に、『鍛冶師』を名乗れるだけの技量は無いです。でも、もし師匠が教えてくれるなら、間違いなくそう名乗れる実力が伴うと思うんです! だからこそ、自分はそうなった自分そのものを益にします!」

「…………メルス、想定内?」


 いやいやギーさん、いくら俺でもさすがにこんな少年を蝕んだりはしないよ。
 実際、子供に対してそこまで苛烈なことはしたこと…………無いとは言えないけど。

 だがどうしよう、この少年俺が思っていた以上に覚悟がキマって・・・・いた。
 それほどまでの事情だったのか……いや、それならそれでやり甲斐があるのか?


「──本来であれば、ほどほどに腕の立つ鍛冶師を目指そうと思っていましたが。君がそれほどまでの覚悟を持つのであれば、それに見合うだけの実力をもたらしてあげる方がいいかもしれませんね」

「! じゃ、じゃあ!!」

「生憎、別の方面で私のことを師匠と呼ぶ者が居ましてね。お師匠、そう呼んでいただけると助かります。私の指導は常人とは全く違います、そして君が目指さなければならないものもそうです……本当に良いのですか?」

「……自分、常識的な方法じゃ『鍛冶師』になれないって言われました。だからお師匠、自分をお師匠にとっての『鍛冶師』にしてほしいです!」


 なんだか交渉がまったく別方向に行ってしまったのだが……とりあえず、『鍛冶師』の『装華』を宿す少年は確保できた。

 親切もとい偽善ついでに、彼を一人前にすれば『鍛冶師』として生み出す品の性能も向上するはず……WinWin、だよな?


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