上 下
2,334 / 2,519
偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と橙色の会談 その08

しおりを挟む


 議会場 小玻璃の間


 そこは山人族たちが滞在する部屋。
 入室が制限され、彼ら以外の侵入は基本的に許されていない……そんな場所に、黒尽くめの俺は足を踏み入れた。

 認識を偽装しているので、正確に俺が何者なのかは理解していないだろう。
 向こうもそれは関係ないはず……重要なのは、俺が持っているモノだけ。


「お招きいただき、誠に光栄です」

「前振りはどうでも良い、それよりも……守護龍様はどこに」

「そう慌てずとも。まずは席に、話すことはいろいろとありますよ──貴方がたは、魔花に蝕まれた彼のお方をどうされるので?」

『っ……!?』


 彼らもすでに、魔花として警戒網に引っかかった聖光龍を知っている。
 だから一概に、俺の言葉を撥ね退けることはできない。

 交渉相手として用意されたのは、先遣隊との会話時にも居た山人の戦士。
 どうやらそれなりに地位を持つのだろう、他の者は誰も動かない。


「……お主はそれを、どうにかできると?」

「ええ。すでに──ご覧の通り」

「これは……種、まさか!」

「はい、これこそが守護龍様に寄生していた魔花そのものです。これといった証明はできませんが……まあ、信じるも信じないも、皆様次第ということで」


 これ見よがしに、“停滞穴アイテムケース”から取り出した『花』の種。
 それが彼らから守護龍を奪った魔術だと理解しているだろうが、沈黙を貫くようだ。


「──それがここにあるということは、すでに守護龍様は解放されておるのか?」

「さて、ここからが交渉の場です。ご確認しますが、貴方がたの目的はその龍ということでよろしいのでしょうか? そして、支払える対価はどのようなものに?」

「……儂らは物作りの種族じゃ、お主が望む物を儂らが作ってみせる。という報酬では足らぬか?」

「ええ、足りませんね──これと同等の品、それが貴方がたに作れますか?」


 再び取り出したのは、この世界にもある鉱石で打ち上げた一振りの剣。
 最初はそれを観察していたが……やがてその目は、驚愕の眼差しになっていた。


「こ、これは……! いったいどれほどの腕があれば、これほどの名剣が作れるようになるというのか!」

「我々には、この武器の武器の製作者へ伝手がございますので。申し訳ありませんが、その方面での期待は……ああ、そうでした。他の種族の方々同様、皆様にも居るはずですよね。特別な『装華』を持つ御方が」

「ああ、居るぞ。儂らには『鍛冶師』様が。じゃが、お主は先ほど──」

「いえ、一目見てみたく。可能であれば、少しお話をさせていただければと……そうですね、そうしていただけるのであれば、まずは『鍛冶師』様へ守護龍様を献上させていただきましょうか」


 向こうもそれを望んでいたのか、後方に居た若い山人がピクリと反応を示した。
 ……やはり『鍛冶師』には、守護龍に関するナニカがあるわけだな。


「本当に、話をするだけなんじゃろうな」

「『鍛冶師』様の都合さえ良ければ、ぜひ何か作ってもらいたいものですが、そこで無茶は言いません。まずは交渉の場だけでも、設けていただきたいのです」

「……いいじゃろう」

「せ、戦士長様!」

「守護龍様をお救いできるのだ、奴とて本望であろう……酷ではあるが、高みを知れば何か変わるかもしれぬ」


 何やら向こうで勝手に企んでいるようなのだが、それはこちらとて同じことなので聞かなかったことにする……むしろ、面白そうな内容でもあったからな。


「では、皆さんとのお話はこれで充分ということで──他の種族の方々には、そろそろ退散してもらいましょうか」

『っ!?』

「心配せずとも、殺しなどしませんよ。我々は良きビジネスパートナーとなることができるのですから──『魔放威圧プレッシャー』」


 天井やら家具の中で、何かが揺れるような音が響く。
 事前の情報通り、ここを訪れた俺を都合のいいタイミングで処理するための部隊だ。

 まあ、彼らの出番はあくまでも山人族が危ういという判断した場合に限っていた。
 なので出番があるとすれば、これからだったのだが……うん、さすがに邪魔だからな。


「今から指定する場所に、密偵たちが潜んでいるはずです。不要ですから、皆様で対処をお願いします」

「う、うむ」

「それと、部屋をお願いできますか? 私と『鍛冶師』様以外は入室を禁じます。そこで交渉を進めさせていただきます」

「わ、分かった」


 そんなこんなで、俺は『鍛冶師』が来るまで個室の中で一人待機することに。
 音漏れを遮断したり、部屋の空間を拡張したりと大忙しだ。

 ついでに謎の傭兵として、どういう風に振る舞うかも改めて考察。
 ……いやほら、第一印象ってやっぱり重要だと思うからな。


「ああ、そうだった──『模宝玉』っと」

《──メルス?》

「ギー、ちょうど居てくれたのか……まあそうだな、せっかくだし相席してくれるか? 俺だけだと信憑性もなさそうだしな」

「合点承知の助」


 これからの話し合いに向け、ギーも同席してもらうことに。
 フーラ、フーリと来てギー……なんだかこの傭兵団、幼女率が高くなっているな。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...