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偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と橙色の会談 その08

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 議会場 小玻璃の間


 そこは山人族たちが滞在する部屋。
 入室が制限され、彼ら以外の侵入は基本的に許されていない……そんな場所に、黒尽くめの俺は足を踏み入れた。

 認識を偽装しているので、正確に俺が何者なのかは理解していないだろう。
 向こうもそれは関係ないはず……重要なのは、俺が持っているモノだけ。


「お招きいただき、誠に光栄です」

「前振りはどうでも良い、それよりも……守護龍様はどこに」

「そう慌てずとも。まずは席に、話すことはいろいろとありますよ──貴方がたは、魔花に蝕まれた彼のお方をどうされるので?」

『っ……!?』


 彼らもすでに、魔花として警戒網に引っかかった聖光龍を知っている。
 だから一概に、俺の言葉を撥ね退けることはできない。

 交渉相手として用意されたのは、先遣隊との会話時にも居た山人の戦士。
 どうやらそれなりに地位を持つのだろう、他の者は誰も動かない。


「……お主はそれを、どうにかできると?」

「ええ。すでに──ご覧の通り」

「これは……種、まさか!」

「はい、これこそが守護龍様に寄生していた魔花そのものです。これといった証明はできませんが……まあ、信じるも信じないも、皆様次第ということで」


 これ見よがしに、“停滞穴アイテムケース”から取り出した『花』の種。
 それが彼らから守護龍を奪った魔術だと理解しているだろうが、沈黙を貫くようだ。


「──それがここにあるということは、すでに守護龍様は解放されておるのか?」

「さて、ここからが交渉の場です。ご確認しますが、貴方がたの目的はその龍ということでよろしいのでしょうか? そして、支払える対価はどのようなものに?」

「……儂らは物作りの種族じゃ、お主が望む物を儂らが作ってみせる。という報酬では足らぬか?」

「ええ、足りませんね──これと同等の品、それが貴方がたに作れますか?」


 再び取り出したのは、この世界にもある鉱石で打ち上げた一振りの剣。
 最初はそれを観察していたが……やがてその目は、驚愕の眼差しになっていた。


「こ、これは……! いったいどれほどの腕があれば、これほどの名剣が作れるようになるというのか!」

「我々には、この武器の武器の製作者へ伝手がございますので。申し訳ありませんが、その方面での期待は……ああ、そうでした。他の種族の方々同様、皆様にも居るはずですよね。特別な『装華』を持つ御方が」

「ああ、居るぞ。儂らには『鍛冶師』様が。じゃが、お主は先ほど──」

「いえ、一目見てみたく。可能であれば、少しお話をさせていただければと……そうですね、そうしていただけるのであれば、まずは『鍛冶師』様へ守護龍様を献上させていただきましょうか」


 向こうもそれを望んでいたのか、後方に居た若い山人がピクリと反応を示した。
 ……やはり『鍛冶師』には、守護龍に関するナニカがあるわけだな。


「本当に、話をするだけなんじゃろうな」

「『鍛冶師』様の都合さえ良ければ、ぜひ何か作ってもらいたいものですが、そこで無茶は言いません。まずは交渉の場だけでも、設けていただきたいのです」

「……いいじゃろう」

「せ、戦士長様!」

「守護龍様をお救いできるのだ、奴とて本望であろう……酷ではあるが、高みを知れば何か変わるかもしれぬ」


 何やら向こうで勝手に企んでいるようなのだが、それはこちらとて同じことなので聞かなかったことにする……むしろ、面白そうな内容でもあったからな。


「では、皆さんとのお話はこれで充分ということで──他の種族の方々には、そろそろ退散してもらいましょうか」

『っ!?』

「心配せずとも、殺しなどしませんよ。我々は良きビジネスパートナーとなることができるのですから──『魔放威圧プレッシャー』」


 天井やら家具の中で、何かが揺れるような音が響く。
 事前の情報通り、ここを訪れた俺を都合のいいタイミングで処理するための部隊だ。

 まあ、彼らの出番はあくまでも山人族が危ういという判断した場合に限っていた。
 なので出番があるとすれば、これからだったのだが……うん、さすがに邪魔だからな。


「今から指定する場所に、密偵たちが潜んでいるはずです。不要ですから、皆様で対処をお願いします」

「う、うむ」

「それと、部屋をお願いできますか? 私と『鍛冶師』様以外は入室を禁じます。そこで交渉を進めさせていただきます」

「わ、分かった」


 そんなこんなで、俺は『鍛冶師』が来るまで個室の中で一人待機することに。
 音漏れを遮断したり、部屋の空間を拡張したりと大忙しだ。

 ついでに謎の傭兵として、どういう風に振る舞うかも改めて考察。
 ……いやほら、第一印象ってやっぱり重要だと思うからな。


「ああ、そうだった──『模宝玉』っと」

《──メルス?》

「ギー、ちょうど居てくれたのか……まあそうだな、せっかくだし相席してくれるか? 俺だけだと信憑性もなさそうだしな」

「合点承知の助」


 これからの話し合いに向け、ギーも同席してもらうことに。
 フーラ、フーリと来てギー……なんだかこの傭兵団、幼女率が高くなっているな。


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