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偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と橙色の会談 その07
しおりを挟む前回謎のラスボス(笑)をやって、今回は謎の傭兵団(笑)を始めた俺。
なお、構成メンバーはコロコロ変える予定だ……フーラとフーリは学生だしな。
あからさまな演技までして、守護龍こと聖光龍の肉体を回収した。
魔花が付着している時点で、ただで終わるとは思えなかったからな。
なので俺は、彼らが討伐してしまう前にその肉体を──まだ生きている器を先んじて奪取したわけだ。
現在位置は護衛と離れた俺の部屋、再び帰還した俺は……壁をジッと見つめていた。
別に隠し部屋があるでも、誰かが隠れているわけでもない……そして、無い物は創る。
「さて、二人には戻ってもらったし……俺も俺で、やるとしますか──『秘密ノ隠室』」
フーラとフーリが帰還したので、ボッ……ソロ特有のハイテンションになっていた。
壁に意味も無くポージングを付けて寄りかかると、そのまま魔術を発動する。
魔力が軽く迸ると、いつの間にかそこには扉が存在していた。
俺はそれを見て頷いた後、ドアノブを握り締め──中へと向かう。
◆ □ ◆ □ ◆
秘密ノ隠室
この魔術の効果は、一時的な小部屋を生み出すというもの。
魔導や魔法でも同じことができるので、魔術でもできないかと試し続けた結果だ。
参考にしたのは『魔王[橙牢]』、概念を閉じ込めるあの能力を魔術として再現──何も無い場所に部屋という概念を付与し、拡張することで隠し部屋として成立させている。
発動場所はどこでも問題無いが、地点を特定されてその周辺で魔力を掻き乱されると強制的に中身が排出される……なんて面倒な問題がまだあるのだけども。
部屋の広さは発動時に供給した魔力にもよるが、だいたい一辺1kmほどの立方体。
そんな部屋で俺は、先ほど“停滞穴”の中に押し込んだ氷塊を取り出す。
「見事なモノだな……これが聖光龍、それを掌握するための『花』か」
かつて橙色世界の神トービスーイを捕らえていた『花』を知る俺だからこそ、『花』にも格が存在し、強大な存在に根を張れば張るほど格が高いことを理解していた。
ただの竜種ならともかく、聖光龍とは世界間を繋ぐ特別な守護龍。
この世界内部であれば、ほぼ最強になれる存在……それでもなお、『花』に敗北した。
そんな聖光龍を操るため、『花』が用意したものは高位の『花』。
さすがに神に根付いていたモノには劣るものの、それでもかなりの強さなのだろう。
氷塊の中で、少しずつ動き始めている様子がそれを物語っている。
もし『選ばれし者』たちが戦っていたら、必ず犠牲者が出ていただろうな。
「あとで山人族と接触する時、可能な限り好印象になりたいからな……体の方は、丁重に扱わないと──『奪力吸込』」
現在、聖光龍は先んじて用いた仮死にする魔術“仮死下賜”で生命活動が停止中。
当然、光を生み出すことも増幅することも無いため、『花』は栄養源を失っていた。
だからだろう、氷塊の魔力を奪ったあとは一番手近な相手──つまり俺から身力を奪おうと蔓を伸ばしてくる。
それを予期していた俺は、別の魔術で迎え撃った。
触れた対象から身力を奪う魔術……『花』から力を奪い、活動を完全に停止させる。
「むっ……逆に奪い返そうとしてやがるな。なら、数を増やそうか──『魔力ノ手』」
向こうもただ吸われるわけにはいかないようで、逆に吸い上げようとしてきた。
触れた手で吸える魔力量に限界があったため、このままでは奪い返されそうになる。
魔力で編まれた複腕により、“奪力吸込”の発動触媒を増やす。
これまでよりも急激に奪われる身力、回復に必要な血も無いため──枯れていく。
「ふぅ……これで終わり、だったらいいんだけどな──『障透徹過』、『霊体透過』」
前者は障壁(魔力含む)を通り抜ける魔術で、後者は物体であれば何でも通り抜けられる魔術……デバイスと『装華』の並列起動によって、二つを同時に使う。
これで何ができるのか──要するに魔力でも通り抜けられるようになるのだ。
手を伸ばし、目的の物を探し出し……聖光龍から抉り取る。
「たとえ普通に倒しても、聖光龍の活動が停まっていなければ『花』は蘇る。聖光龍だけ倒しても、『花』が無理やり動かせる。両方同時に封じた上で、核となる種を回収しないとダメなわけだ……面倒過ぎるだろ、これ」
嫌がらせが多い仕様だ。
トービスーイのときは『神透剣[水月]』の力があったので楽だったが、普通にやるとここまで手間の掛かる作業になるわけだな。
《メルス様、ご報告が。先ほど、山人族より各代表への情報共有が行われました。それにより、傭兵団の捕縛が決まりました》
「…………へぇ、捕縛ねぇ」
《招待状にて誘き出すことができる、ならば捕まえることもできるだろうとのこと。ただしこれは、山人族の主張ではなく各代表との決議によるものです》
「ん? なんだ、そういうことか……まあそれならそれで、やりようはあるけどさ」
てっきり山人族が、交渉なんて知るかと計画したのかと思いきや。
俺が人質ならぬ龍質を持っている今、本当に慎重に動きたかったのだろう。
俺たちの存在、そしてその行動は連合で来た以上すでにバレている。
なので開示したうえで、沈黙してほしいのかもしれないが……甘かったようだ。
「アン、可能性はあるんだろうな?」
《……残念ながら》
「ある意味幸せなんだろう。だからこそ、俺は偽善をやれるわけだし」
向こうの情報は随時、アンや他の眷属経由で送られてくる。
つまり、相手のやることをすべて把握したうえで対応が可能なのだ。
──やっぱり、情報戦は重要だよな。
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