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偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と橙色の会談 その05
しおりを挟む敵の正体は『花』に乗っ取られた守護龍。
世界をかつて守っていた龍は、敵によって世界へ牙を剥く存在とされてしまった。
「これ、これから来る人たちが状況を理解できないで殺しちゃった場合、ロクでも無いことになりそうだな……よし、作戦変更。いつも通り仮死状態にして回収しようか」
「分かりました!」
「……それなら簡単」
「トドメは俺に残しておいてくれ、そうじゃないと仮死状態にできないからな」
「「はい!」」
戦闘は二人に任せて、俺は華都で間もなく出撃するであろう眷属たちに再度連絡。
会話自体は聞かれていたはずなので、用件だけを伝えておく。
「あの龍はこっちで保護する。そっちの連中に、龍の特徴を伝えてほしい。もし強い反応があるなら、ソイツから情報を丁寧に聞いてもらいたい……暴力はダメだぞ?」
《ならば、己に一番相応しい役目だろう》
「あー、クエラムは冒険者って役割だしな。シュリュ、悪いと思うが竜種ってことで話をでっちあげてくれるか?」
《貸し一つ、それで手を打とう》
眷属に貸しを作っても、だいたい俺にとってイイことしかないのでそれを了承。
改めて、龍の観察を再開……具体的にどういった方法で対処するかを考える。
「鱗の情報は……『聖光龍』か、これ? たしか光属性の竜は、光を増幅させることができるらしいし。それを『花』と上手く組み合わせれば…………光合成で無尽蔵に再生──二人とも、離れろ!!」
「「っ……!?」」
起動していた魔術“過程演算”が不審な挙動から、起き得る未来を教えてくれた。
瞬時にフーラとフーリにそれを告げ、離脱させる──その瞬間、辺りが花で覆われる。
どうやら光の増幅によって光合成を実行、龍の血を触媒に一気に増殖したようだ。
さすがは万能な龍の血、ついでに花が強制的に造血もしている徹底ぶりである。
竜種といえば再生力もなかなかなのだが、そちらはさして再現できておらず、むしろその分を『花』の再生に回しているらしく、剥がされた鱗などもそのままだった。
……まあ、そちらは『花』が咲くことでカバーしているようだが。
フーラとフーリはむしろ、その方が容赦なく処理できるようなので、楽なんだけども。
「──『紅雷災劉』!」
「……『蒼凍災劉』!」
紅色の雷と蒼色の吹雪、それらが勢いよく龍ごと『花』を攻め立てる。
そこに籠められた劉の力によって、抵抗を許さず雷と氷で覆い尽くす。
「メルス様!」
「……これでいい?」
「ああ、バッチリだ。二人とも、よくやってくれたな」
「そ、そんな……お役に立てて光栄です」
「……ご褒美を所望する」
「ふ、フーリ!? ご、ごめんなさい、メルス様!」
「ははっ。いや、別にいいぞ。シュリュにも貸し一つって言われたばかりだし、ご褒美ならちゃんと用意しておくよ。もちろん、フーラにもな──さて、ここからは俺の出番か」
二人がきっちり仕事をしてくれたので、俺もまたやるべきことをやらねばならない。
魂魄偽装も済ませ、今の俺は関係者以外から見れば正体不明の謎の存在だ。
「二人も、ちゃんと顔を隠しておいてくれ。それじゃあ、始めるぞ──『仮死下賜』」
◆ □ ◆ □ ◆
各華都の精鋭部隊が、大地へ降り立った。
未確認の大型魔花の出現、その情報に動いた代表たちが目にした物は──氷漬けにされた巨大な魔花。
そして、それに向けて手を伸ばし、何かを行っている謎の存在。
男か女か、年齢はいくつなのかといった情報がいっさい掴めない陽炎のようなナニカ。
その存在が纏う『装華』もまた、これまで見られたことの無いデザインの代物。
その腕に嵌められた装置を使い、魔花に対して何かをしているように見えた。
敵なのか味方なのか、それを判別する方法が無いため下手に動けない。
間違いなく目の前の魔花こそ、今回警告が発せられた存在だった。
その恐ろしさは、氷越しにでも分かってしまうほどの強大さ。
ゆえに動くことを躊躇い、何もできずにいる──ある一種族を除いては。
「──その御方を、放せぇええええ!!」
動き出したのは小柄な老戦士。
あごにはもっさりとしたヒゲを生やし、身の丈に合わないと思えるほどの巨大な戦槌を振り回している。
──山人族。
彼らだけは魔花──その中に居るであろう存在に気付き、吶喊を行う。
勢いのままにナニカへ攻撃……する前に、それらは弾かれる。
「むっ、何奴!」
『『…………』』
「なんであれ、儂らの邪魔をするというのであれば容赦はせんぞ!」
ナニカと同系統の恰好をした、普人であれば子供ほどの二人組。
それらによって山人たちはナニカへの道を阻まれ、進むことができなくなっている。
「おい、これはどういうことだ!」
「あのお方は絶対に御救いしなければならないのだ! お前たちも協力しろ!」
「アレには……あの中にはいったい何が居るというんだ」
「──『聖光龍ブライト』様、この世界をかつて守ってくださった御方じゃ!」
この世界から忘れされつつあった、世界の守護者……山人族はそれを知っていた。
そのとき、ナニカが口角を釣り上げたことに誰も気づかない。
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