2,329 / 2,519
偽善者と解放への障害 三十七月目
偽善者と橙色の会談 その03
しおりを挟む集められた華都、その中央に存在する央華プロテスリアにて行われる話し合い。
各華都の代表、そして『選ばれし者』たちのみが会談の場に集う。
俺やクエラム、そして一部の華都に派遣した眷属たちは参加できないわけだ。
なので中の状況は分からない……わけでもないが、対外的には不明ということで。
「それでまあ、話し合いの最中は護衛たちも一時的に隔離されるわけで。部屋はすぐ隣、何かあればすぐに駆け付けられる……その代わり、それぞれの護衛が牽制し合って、部屋からの脱出はさせない仕様なわけだ」
「ふむ、なるほど。メルスは何でも知っているな!」
「俺は何にも知らないよ、知っているのは眷属たちだからな。今までも同じことをやっているみたいだから、経験者からちゃんと聞いておいてくれたらしい……そういえば、そういうことやるの忘れていたな」
「うむ、さっぱりだ! ただ、たしかに嫌な感じはする。だがそれは、今すぐにというわけでもないだろう」
クエラムは聖獣であり、人工的に魔獣へ貶められた存在……要は悪意に敏感だ。
彼だった彼女がそう言うのであれば、トラブルそのものは起きるに違いない。
眷属たちにもすぐ周知させ、そのまま自分たちが担当する華都の者にも伝えてもらう。
ただ、具体的な内容は不明なので、あくまで警戒してもらう程度だが。
「普人が『勇者』、森人が『賢者』、獣人が『守護者』、魔人が『魔王』……で、たしか花人が『聖女』でここに『橙王』のはずだったよな…………あれ、山人は?」
「そういえば、一つ余っているな」
「文献にもその情報は無かった、『装華』自体華都が浮かんだ後に生まれた概念だし、漏れがあってもいいのか? いやまあ、赤色と違う『選ばれし者』の数かもしれないし、把握できなかっただけかもしれないが」
「何にせよ、気に留めておいた方が良いかもしれぬな。メルス、何か助言はあるか?」
本来の仕様では、『選ばれし者』の人数は六人と定められている。
だがここ理を奪われ、『装華』がその欠けた部分を補っている世界だ。
それゆえに、これまでとは違う何かがいくつも存在しているかもしれない。
山人に居るとされる『選ばれし者』も、もしかしたらその一種なんだろうな。
……問題は、それがどういった理屈で存在しているかどうか。
そして、その『選ばれし者』が世界のためにあるのか……最悪、敵に回すだろう。
「山人の『選ばれし者』、これを見ていてもらいたい。他の眷属にも言っておくが、まだ直接見ていないのは『聖女』と『橙王』、そして山人のヤツだ。それぞれ、見張っておいてもらおうか」
「なるほどな、了解した。その任、己へ任せてもらいたい!」
「ああ、頼もしい限りだよ……俺は俺で、生産者としてできることをやっておくよ。ここにはいちおう、全部の華都から素材が集まってきているからな……『装華』専用の追加装備とかもできるみたいだし、やってみるよ」
この世界の誰しもが持つ『装華』、だがそのすべてに望んだ性能になるわけじゃない。
中にはいっさい身を守ってくれない物もあるらしく、その対策として生まれた代物だ。
組み込むことで、『装華』の起動に準じて自動的に装着される追加パーツ。
せっかくなので、それを眷属たちに与えられないかと考えてみた。
「おおっ、それはなんだ……凄く楽しみではないか!」
「ああ、そう言ってくれると俺も作り甲斐がある。まあ、これを全眷属の分だけ製作するには時間が掛かりそうだけどな……でも、それはそれで楽しめそうだ」
眷属たちの『装華』は把握しているので、それに合わせた追加パーツを作る予定だ。
数は異様に多いが……うん、それが俺から贈り物ってことで……誤魔化せないかな?
◆ □ ◆ □ ◆
そして、会談の日──それは起きた。
まあ、眷属たちが高い能力値で探ってくれていたであろうその会談の場で何か起きるその前に……大地にて。
ある程度予測していたことだ。
人々から奪った大地を根城に『花』は活動しているのだ、当然何かするのであれば始まりはそこからとなる。
「シュリュと遺跡に行った時から、細工はしていたけどさ……ふむふむ、どうすればいいのかね──ああ、君。俺は好きに動くから、その旨を獣王様に伝えておいてくれ」
「は、はっ!?」
「詳細はクエラムが知っている。あと、いちおう自由にさせてもらうと言ってあるから多分大丈夫だろう」
「ちょ、メルス様!?」
クエラムが議会場に行っている間、いちおうの護衛に来てもらっていた兵士に軽く誤って、そのまま姿を晦ます。
こういうとき、“不可侵ノ密偵”は本当に便利だと思った。
何度か“擬短転移”を挟み、そのまま央華から落下──地上へ向かう。
「──リア、アン、クエラム、シュリュ。四人はそのまま議会場で警備を頼む。俺……俺たちはそうだな、龍退治をやるみたいだ」
墜ちていく中で、だんだんと見えてくる騒動の発端。
覆うというレベルではないほどに花々に包まれた、龍の形をしたナニカがそこに居た。
俺は装華『造花[守式]』を身に纏い、適当な武器を準備。
そして、この世界では珍しい魔法を展開して召喚陣を生み出す。
「さぁ、時間だ──“召喚・眷属”!」
いったい誰が来るのやら……そう呟きながらも、ワクワクする自分がいた。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる