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偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と橙色の会談 その02

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 ──央華プロテスリア。

 華都の中でもっとも行動範囲が狭く、他の華都の連結の核となる華都。
 そんな性質があるからか、この華都だけは多種多様な種族が共存して暮らしている。

 統べる者は『橙王』の『装華』を纏い、統治を行って──きた、それは過去の話。
 あるときそれは覆り、王政は幕を閉じることに……今は議会制となっている。

 過去の歴史より、『橙王』は直接的な統治者では無くなったものの、今なお象徴的な存在として君臨している──権力を失えど、形式的な王として。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 俺とクエラムは、獣人族代表である王族らと『守護者』の少年と共に央華を訪れる。
 単独というか二人での行動の自由を獣王から貰っているため、彼らとは別行動だが。


「おおっ、なんと広い街だろうか!」

「花としてもかなり大きかったし、さすがは央を冠するだけはあるみたいだな。そりゃあこれだけ広いとなると、一つの種族だけで使うのも逆に難しいだろうよ」

「だろうな。メルス、アレは何だろうか?」

「気になるか? なら、行ってみるか」


 多種族によって繁栄している街並みを、俺とクエラムは二人で歩いていく。
 一番最初に寄ったのは、お土産店……いきなりだった。


「ふむふむ、訪れるであろう種族ごとに合わせた品々だな……むぅ、これでは合わせられない者も居るではないか」

「まあ、これじゃなきゃダメっていう決まりがあるわけでもないし、買うにしても形に残らない物なんかもあるからな。そこまで深く悩む心配は無いと思うぞ」

「むぅ、メルスがそういうのなら……しかしアレだな、サフランワーより高いぞ」

「…………都会補正だよ」


 サフランワーにおいて、クエラムは現在最上位冒険者として名を馳せている。
 高難易度の依頼を受け、高い報酬を得て、そのほとんどを貧しい者に恵んでいた。

 新人冒険者が充分な準備ができるよう、投資をしたりと貴族以上に貴族的な振る舞いをしているため、サフランワーの人々から今ではかなり愛されている。

 ……だからだろうな、そんなクエラムと同棲している俺を良く思わない者も居た。
 嫌がらせをした貴族が、俺のヒモっぷりを国民に広めたせいでもあるな。

 おっと話が逸れた、要するに金ならいくらでも持っているクエラム。
 そんな彼女でもやや高いと思うぐらい、この街の物価はお高めだった。


「まあ、お高い分はブランド価格ってヤツだろうな。最悪俺が代わりになんとかするにして、とりあえずクエラムが買いたいと思う物があれば好きにしてみな」

「うむ、分かった!」


 眷属ごとのお土産を選び始めるクエラム。
 たしかに、お土産を先に決めて余った金で自分が楽しむ旅行の仕方もあるか……足りなくなったら、稼げばいいだけだし。

 幸いにして、クエラムは冒険者として一度の働きで大量の金銭を得る手段がある。
 ……警護の依頼を受けているので、会談後に金を受け取れば追加で買えるだろう。


「クエラムー、自由な時間はあるけど、あんまり長居はできないからなー」

「! そ、そうだったな……二人を守るのだから、甘えてばかりはいられないな」

「あっ、お土産はいいのか?」

「! うむ、二人の分を買っておこうか!」


  ◆   □   ◆   □   ◆

 議会場 向日葵の間


「というわけで、二人にお土産だ!」

「「…………」」

「むっ、どうした二人とも?」

「あ、ありがとう」
「ええ、美味しくいただくわ」


 獣人族が誇る『守護者』の少年、そして彼が守りたいと願うお姫様。
 二人を会談の期間中、守ることがクエラムとこっそり俺に与えられた依頼だ。

 そんな二人に対して、街で買ってきたお土産を渡すクエラム。
 ……護衛としてどうかと思われそうだが、その天然っぷりが人気な点でもある。

 カバーは俺が行うということで、魔道具を一つ取り出す。
 銀の匙の形をした、毒物検知の魔道具……反応は無し、二人もそれを確認する。


「ガグラム、本当ならこういうのも含めて盾で分かるようにならないといけないぞ」

「ま、まだまだ、精進が足りませんでした」

「可能であれば、それを姫様が治せるようになるといいんだがな。アレには、そういう知識も載っていただろう?」

「……もしもの可能性があると?」


 少年は選ばれし者の力の一つを、『装華』という形で引き出すことができる。
 その能力を応用すれば、物質内に存在する毒物を判定することも可能だろう。

 また、姫様は少年を強化するに当たって読ませた『異界学』──という名の科学知識にかなり目を通していた。

 いつでも少年が守れるわけではないし、少年が不意を突かれる可能性だってある。
 同時に毒に蝕まれた際、守護の観点から毒に蝕まれるのは少年が先だろう。

 また、姫様は『異界学』を基に、新たな魔術をいくつか開発していた。
 獣人でも使える低燃費な魔術、科学交じりの魔術がだんだんと広がりつつある。


「単純に毒物を盛られる、そういう可能性だけじゃないと思うぞ。あらゆる事態を想定して、備えられる魔術を用意した方がいい」

「分かりました。できれば、その事態というものを知りたいのですが?」

「さぁな。ただ、調べることができる知識があると助かるだろう? まっ、予防に関する知識程度なら俺にもある、そういうことについてまた資料を纏めておくさ」


 可能性は無限大、俺の予想が絶対に当たるわけでもないし。
 今は何も言わず、そのすべてに対応できるよう頑張ってもらおう。


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