上 下
2,327 / 2,519
偽善者と解放への障害 三十七月目

偽善者と橙色の会談 その01

しおりを挟む


 ???

 そこはかつて、人々が繁栄の限りを尽くしていた場所だった。
 今では人ひとりとして居ない荒廃……否、豊饒の大地に、突如亀裂が走る。

 ──『聖■龍』、起動完了しました。

 地の底から現れたのは、橙色の龍。
 聖なるオーラが周囲を満たし、植物たちは活性化を促され急激に成長していく。

 だが、龍自体に生を思わせる物は何一つとして無い。
 空虚な瞳、ズタボロな体、何より体の九割がたを覆い尽くす花々が酷く歪だった。

 ──目標地点、設定完了。
 ──目的行動、組込完了。

 ──『聖■龍』の操作を開始します。

 その龍はかつて、この世界を守護していた存在の成れの果て。
 人々を、そして世界の扉を守るために果敢に挑み──敗れ去った。

 生きる屍と化したその龍は、虚ろな眼で上空を見上げる。
 常人では見えないその先には、多くの巨大な華々が集まろうとしていた。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 華都サフランワー


 俺、そしてクエラムは現在、獣人たちの住まう華都にてその瞬間を眺めていた。
 今日この日、ついに華都が集まり、しばらくの間連結することになる。


「……メルス、己で良かったのか?」

「クエラムで良かったとか、クエラムだから良かったとかじゃなくてな、他の場所だと俺単体で必要とされていないんだよ。シュリュの所で、従者として認められているぐらいかな? まあ、それも今日で終わりだろう」

「己は嬉しいぞ。どんな理由であれ、共にメルスと居られるのだからな。少しばかり、他の者たちには悪いと思うが……それ以上に、幸せだ」

「ぐはっ……!」


 さ、さすがはクエラム、ヒロイン力の高い台詞を素で言ってきやがる!
 全然気にしていないが、元は男というか雄だったのに……くっ、やりおる。

 突然吐血(の演技を)する俺に驚き、看病みたいなことをしてくれる辺りも高評価。
 ……一時期ここで暮らした時も思ったが、クエラムは本当にダメ男製造機なんだよな。


「と、ともかく……ああ、もう大丈夫だ。見ての通り、あそこに見える華都に居るお偉い様がたが中央の華都に集まることになる。俺もクエラムも、御付きに任命されているから問題なく入れるぞ」

「うむ、そう考えると少し恐ろしいな。メルスの手の者が、ほとんどの華都に居るではないか」

「ほとんど、と言っても四つだけ。種族で住まう二つの華都、そして中央の華都には何もできていない。影響力という点じゃ、そこまで行き届いてないと思うぞ」


 なお、二つには山人族と自由世界だと稀有な花人族が、そして中央の華都には多種多様な種族が住んでいるとのこと。

 花人族とはイベントで見た花精族と違い、霊体化を種族性質として有さない種族だ。
 まあ要するに花をどこかに咲かせており、人族として生きる花精族というわけだな。

 そして中央の華都、おそらくは『橙王』の『装華』の持ち主が居るだろう。
 それがこの世界の『魔王』同様か、赤色の世界の『赤王』と同じかは知らないけども。

 この歪に整えられた橙色の世界で、正常に『橙王』が存在している方がおかしい。
 ……真面目だったら真面目だったで、それはそれで問題だらけなんだが。


「保険として、ここサフランワーから全華都に転移門を渡してもらう予定だし。他三つの華都にも、さまざまな形で何かを提供する。そうなれば、向こうも動くんじゃないか?」

「……敵か」

「カカを失墜させ、赤色の世界に邪神をばら撒き、こっちの世界の神も封じて利用していたどこかの神様。ソイツの手下である花も、まだ何かするだろうしなぁ。まあ、それでこそ偽善のやり甲斐があるんだけども」


 偽善なので、グッドエンドではなく目指すはハッピーエンドだ。
 ただし、手順通りにやって被害が生まれるのもアレなので、過程は全部無視だが。

 獣人族には転移と魔力貯蓄、森人族には今以上に科学の知識を、そして普人族と魔人族には──と準備は着々と進んでいる。

 それらを開示し、他の種族に提供させることで計画は次の段階へ。
 追い詰められた者ほど、思考を誘導しやすい相手は居ないからな。


「ところでメルス、本当に何もせずにこのまま乗り込むのか?」

「ん? いやー、華都で対策することは特に無いと思ってさ。向こうが居るのは間違いなく下の大地だし、警戒は監視ぐらいにして少しは気を緩めようって感じだな」

「むっ、それは本当か?」

「ああ、クエラムともいっしょの時間が取れるだろう……間違いなく他の眷属も来るだろうし、ずっとってわけにはいかないが」


 俺の行動って、その気になれば二十四時間観察し放題だし。
 俺が本当に隠したいと思うこと以外、プライバシーは無いに等しいのだ。

 そんな奴が誰かとデートをすれば、当然丸分かりなわけで……。
 なんだかんだ、全員とそれぞれ時間を設けることになるだろう──もちろん本望です!


「まっ、それもこれも全部は向こうに行ってからの話だ。いちおう今の俺は生産者って立場だから、バトル物は専門外だ……期待しているぞ、クエラム」

「! うむ、任せてくれ! たとえ家族が相手でも、数分は持たせてみせよう!」

「……数分持たせられるだけ、本当に尊敬するよ、マジで」


 うん、数分あれば逃げられるし、眷属を追加で派遣することもできる。
 さすがはクエラム、縛り中でも余裕があって頼もしい限りだ。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

処理中です...