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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者とデート撮影 その04

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 第一世界 天空の城 内部


 今は夢現空間に住んでいる俺や眷属たちだが、一時期はこちらに住んでいた。
 家具などは自動的に向こうへ移ったが、部屋自体はそのまま保存されている。

 そんなお城の玉座には、現在女王様が腰を下ろしていた。
 ただその格好は侍従そのもの、誰もが想像するであろう白と黒のメイド服を着ている。


「さぁ、何なりとご命令を」

「……とりあえず、この状況を改めて説明してくれるかしら? 正直、自分の頭を疑う異常事態にさいなまれているの」

「なんと、ではすぐにご説明しましょう──今回の要望を聞いても応えてくださらなかった女王様に報いるべく、どうすればいいのか考えてみて……あまり思いつかなかったし、いつもと逆にすればいいと考えました」

「ずいぶんと雑な敬語ね。もしかして、それは普段の私の口調がメイドに相応しくないと遠回しに言っているのかしら?」


 彼女──リッカがメイド服を着ているのはいつものこと、第三世界ルーンにて侍従としてのアレやコレを学んだれっきとした侍従だ……メイドになったのは、俺の好みがバレたから。

 そんな彼女への日頃の感謝も籠め、何をすれば考えた結果が今回のデートプランだ。
 いつもは尽くしてくれる彼女を労う、俺も彼女もWinWinな計画ではないか?


「──なるほどね。だから魔王様は今、そんな恰好をしているわけ」

「そりゃあ、今の俺は執事ですので。それでは女王様、何なりとお申し付けを」


 リッカの礼装“執事魂魄ソウルバトラー”を身に纏い、俺の姿は(外見だけなら)執事になっていた。
 いちおう魂魄の影響で、大抵のことをプロ並みにやることができる。

 ……まあ、真のプロであり超一流の目は誤魔化せないけども。
 その辺は…………あ、愛でも想いでも、そういう補正で評価をプラスしてください。


「あっ、言っておきますが立場を元に戻す、この執事が羞恥心でやりたくなくなるようなことはお控えください。正直、メルになるぐらいでしたら全然問題ありませんが、いちおう執事のままやりたいです」

「そう……なら、今の姿のままメイド服を着ればいいんじゃない?」

「…………羞恥し──」

「今、ここには私と魔王様だけ。何を気にする必要があるのかしら?」

「──カメラ」


 うん、ただのデートでは無くデート撮影だからな。
 俺たちの行動はすべて撮られている、なのに女装するのはな……うん、羞恥心だ。

 というわけで、一先ず無理難題を封じることに成功する。
 無難な要望──飲食やマッサージなどを経て、次なる要望を聞く。


「そうね……なら、外に行きましょうか」

「外へ、ですか?」

「このままここに居ても、ただ魔王様がご奉仕に悦楽するだけでしょう? 少し気分を変えたいの」

「悦楽って……女王様の御言葉とあらば。どちらへ向かいますか?」

「なら、あそこがいいわ──」


  ◆   □   ◆   □   ◆

 第四世界 迷宮『悪徳の深淵』


 悪魔たちが集う闇の世界、その最深部には宮殿が存在する。
 悪魔の中でも最上位の格を有していなければ侵入できず、悪魔たちが外で争っていた。

 強くなり、格を上げなければ宮殿の中に入ることができないからだ。
 そして、辿り着いた者だけが、ある場所を通じて外界へ向かうことができる。


「……どうせなら、天海の方に行くと思ったのですけども」

「私の生まれは闇だった、だから光の方よりもこっちの方が居心地がいいのよ」

「まあ、それならいいんですけど……アレを観て落ち着けますか?」

「落ち着きはしないわよ。ただ、眷属以外の天使を観るよりは気が楽なだけ」


 そう、天海こと『善徳の天海』は悪魔と相対する天使たちの住む迷宮。
 最上層に宮殿が配置されており、成長した天使のみがある場所へと向かえる。

 が、リッカは撲滅イベント中に、少々闇な要素を基に構築された存在。
 そこに意思を与え、器をもたらした結果として今の姿を得た……好みの差なわけだ。


「それにしても、どうしてここへ? 虹の架け橋やら、自然溢れる迷宮ならいくらでもあると思いますが」

「ふふっ、なんでだと思う?」

「私には分かりかねますね……ただ、これといった理由は無いように思えます」

「正解よ。特に理由なんて無い、強いてあげるならそうね……ここが一番、私の生まれた場所に似ていたからよ」


 理由あるじゃん、とか言ってはいけない。
 だが俺の表情からそんな主張を読んだらしく、「茶化さないの」と揶揄される。


「あのとき、何度も繰り返される時間の中、創られたのは一人だけじゃない。無数の命が生まれては消え、消えては生まれてを延々とやっていた……それもこれも、あの男がいつまでも意味の無いことをしていたからね」

「…………」

「『私』が私になったのは、きっと魔王様が居たからよ。少しずつズレていた世界、漏れ出て認識の外にあったところで、『私』は育てられた。そして、魔王様の御導きを受けて自我を得た……そう思っているわ」


 撲滅イベント時、シャインを無限ループの闇の中で虐めた。
 その際に登場していたエキストラの皆様、その一人ひとりに人格を与えた覚えはない。

 アレはシャインのイメージを核に、勝手に記憶が捏造していただけの虚像……そのはずだったのだが。

 リッカの話を聞くに、何やら裏側で命の誕生が行われていたようで。
 最後に俺が魔法の核を抽出したことで、彼女は個の生命体リッカとして完成した。


「始まりはすべて魔王様、貴方様のお陰。被創造物でしかない私に、あらゆる自由を許してくれた御方……そう考えると、従ずるのは当然じゃないかしら?」

「ちょ、近……」

「いつものことでしょ。それに、今の私は魔王様の主なんだから、命令に従いなさい」

「さっきまでのいい話を返せよ!」


 こうして俺は抗いようも無く、カメラの前で女王様の言うことを聞くことに。
 ……ちゃんとご褒美も有って、とても嬉しかったです、まる。


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