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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者とキャリアチェック その20

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 人形を使ったスパルタ訓練は一先ず終了。
 彼女たちには反省会を、疲れ切った状態で行わせることに。


『…………』

「もう、全然話してくれないじゃん! こうなったら──“微小苦笑スマイル”っと」


 精神魔法の一種“微小苦笑”。
 この魔法の効果は名前の通り、少しだけ微笑むことができるようになるというもの。

 まあ、要するに精神的余裕を一時的に獲得できる魔法だ。
 疲弊した精神に抗う術はないし、何より抵抗しづらい概念なので耐性も機能しない。

 花子(仮)は異常耐性スキルを持っているし、おそらくござる(仮)なら技術的に精神的苦痛への耐性を持っているだろう。

 だが“微小苦笑”は苦痛をもたらすものではなく、どちらかと言えば精神には好ましい温もりをもたらす魔法……意識的に仕組みを理解し、魔法を拒絶しないと抵抗は無理だ。


「ふふっ、みんないい笑顔だね」

『…………』

「うわー、人って笑いながら怒れるんだ。時間が経てば効果は切れるだろうし、それより早く話し合ってよ……みんなでなら、私の倒し方も分かるかもね♪」

『……ハァ』


 三人揃って溜め息を一つ。
 ま、まあ、形はともあれ、行動が一致するというのは良いことだな。

 ちょうどいい切っ掛けだったからか、あるいは回復したかだろうか……彼女たちもようやく重かった口を開き、先ほどの反省──それとなぜか俺への愚痴を話し出した。


「ほ、本人の前で言うことかな?」

「……当てつけだし」

「うーん、じゃあこれだけ話しておいてくれるかな? ──三人にとって、他の二人がどういう存在なのか。みんなが嫌でも、私は三人での行動を求めるよ。だから、改めて考えてほしいんだ……じゃあ、それだけ」


 俺は足元に展開された魔法陣でこの場から消える──それは迷宮ダンジョン用の転移罠、そして目的地はこの迷宮の最深部。


「ふぅ……会いに来たぞ、レン」

「お待ちしておりました、主様マイマスター


 迷宮内でのさまざまな仕掛け、それらをすべて準備してくれていたレン。
 その正体は俺が初めて手に入れた迷宮核ダンジョンコアそのもの、そして第四世界を統べる者ダンジョンマスター

 もう一人の迷宮の擬人体であるコアさんが管理する迷宮数個以外、俺の世界に広がっているすべての迷宮を管理・維持してくれているのがレンだった。


「現在、愚痴で盛り上がっているようです。魔物を送り込みますか?」

「却下するけど、参考ばかりに聞いておこうか。それ、どんな魔物?」

「ハイエン──」

「止めたれよ、もう狼さんに苛め抜かれたばかりなんだし」


 今や闇泥狼王さんは、提携させてもらっている魔物中でもかなりのスペックを有しているからな……意図して弱体化させた分体を作れる辺りがポイントだ。

 会話の中で明らかになったと思うが、レンは彼女たちの会話を把握している。
 そうじゃないと、俺たちの行動に応じた動きができなかったからな。


「とりあえず、殺伐とした雰囲気になったら干渉してくれればいい。笑えている間は、それに集中するだろうから問題ないはずだ。その後、どうするかは彼女たち次第だが」

「そういった傾向は見受けられませんね。主様、何かを仕掛けずともよろしいので?」

「いやいや、俺もそこまで鬼畜じゃないからな。ずっとは見ていられないし、落ち着いたところで始まりの街に帰すよ。特にお嬢辺りは驚くだろうな、人形自体も自分もだいぶ成長しただろうし」


 すでに中位職(最大レベル60)に就くなど、ある程度成長しているお嬢(仮)。
 人形の質が上がり、使い手の技量も上がれば実力は当然向上するだろう。

 レベル的にござる(仮)や花子(仮)に劣る彼女、実力が向上した今であっても、その差はまだ覆りそうにない。


「まあ、彼女にとってこの世界は強くなるための手段じゃない。理想を追求するための世界であり、その理想を守るために力が必要になっているだけだしな……最悪、彼女自身が強くなくてもいいわけなんだが」

「主様は、それでは納得されておられない、ということですね」

「……お嬢は人形を運用するための道具じゃない、彼女自身が望むのは人形と共に在れる場所だ。偽善者的に、あまりその願いを歪めるのはどうかと思うからな」


 最初からその気になっていたら、一日で極級職だろうが固有スキルだろうが自由に与えることもできただろう……しかし、彼女の願いが叶うことは無かっただろう。

 生産時に見せてくれた強い意志、アレこそが彼女の願いの根幹となった物。
 三人の中で一番強く輝く想いを、俺は望む形で叶えてやりたいと思った。


「これから現れるであろう苦難困難、それらに対抗できる力を与えてあげよう。その過程で俺を楽しませる対価として、理不尽だけは俺が排除してやる……なっ、WinWinな関係じゃないか?」

「いえ、それこそ主様とは思いますが、対等とまでは思いませんね」

「他の二人も含めて、ちゃんと願い自体は叶えてあげるんだけどな……悪魔よりも親切な商売だと思うぞ」


 まあ、悪魔と違って対価を支払い終わってもそれで終わりになるわけじゃないが。
 眷属にされたり世界に住まわされたり、俺との関係は続いていく。

 ……偽善をした相手が、また別の理不尽に巻き込まれるなんて展開はごめんだしな。
 願われた以上、相手が嫌がっても干渉し続ける──それが俺の考える偽善だ。


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