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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者とキャリアチェック その19

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 手作りの人形では無く、迷宮産の魔物タイプな『人形ドール』を使って新人三人を虐める。
 制限時間とペナルティの要素を提示し、完全に集中させないのがコツだ。

 彼女たちを相手にする人形、お嬢(仮)が操る人形を含めて計四人を相手にしても余裕がある動きを取れている。


「ふんふんふーん、勝てるかなー?」

「くっ……どうして!」

「どうしてって言われても……言ってなかったかな? 私って、操糸術も人形術も、ついでに傀儡術もちゃんと覚えていたんだよ? つまり経験者、先輩なんだから」


 迷宮経由でも、結局操っているのは俺。
 というより、迷宮が操るとおそらくすぐ倒されるし、かといってレンに頼むと……大敗するだろうからな。

 俺が操り、理不尽度もやや面倒ぐらいのレベルに調整してある。
 ペナルティとは別の、俺的ペナルティを彼女たちがやったときだけ本気を出すがな。

 お嬢(仮)の人形操作技術は、すでにかなりのもの。
 まあ、花子(仮)やござる(仮)の動きを再現するのはまだまだ無理そうだが。

 それでも自分と人形の連携、そして二人との連携などはできている。
 ……彼女たち同士は、全然協力なんてしていないのだがな。


「一定時間が経過しました……少し、武技っぽい動きもやりまーす」

『!?』


 これまでは純粋に人形のスペック限界の動きで、暴れ回っていたに過ぎない。
 俺の役割は糸で制御することで、魔物としての動きを抑え込むことだった。

 だがここからは、もう少しばかり真面目に操作することに。
 人形が地面を蹴る──だがその動きは普通のものではなく、歩法を用いたもの。

 ゆらりと体を下げ、向かう先は忍び装束を身に纏うござる(仮)。
 瞬間移動の真似事では無く、それは死角への移動──本当の意味での縮地。

 一瞬驚いた様子を浮かべていたが、すぐに冷静さを取り戻して対応に動く。
 クナイを向けてきた彼女に対し、人形は手刀を構え──首を傾げる。

 その動きは疑問を抱いたわけでも、ましてや攻撃のためでもない。
 それは飛んできた銃弾を躱すための動作、放ってきたのは花子……ではなかった。


「お嬢ちゃんも成長しているみたいで何よりだよ……けど、まだまだだね」

「くっ、当たると思いましたのに」


 そこには銃を構えたお嬢(仮)の姿が。
 さすがに人形でやるには、まだまだお勉強が必要みたいだな……射撃自体は、もしかしたら経験があるのかもしれないな。


「甘い甘い、チョコレートよりも甘いよ。だから見せてあげる、人形師がどこまでできるのか、その可能性をね──『竄魔功ザンマコウ』」


 発動したのは魔闘術の武技。
 現実でいう『氣』は精気を用いた気闘術によるもの、魔闘術によって可能な魔功とは、少々特殊な事象を発揮するその魔力版。

 人形に魔力を送り込み、それを人形内部で練り込むことで魔功として機能させた。
 それはとても面倒で、体術の動きを模倣するよりも難しい。

 練り上げられた魔力を、ござる(仮)に向けて放出。
 武技の名前を発していたため、警戒した彼女はそれを回避しようとする。

 ──が、すでに効果は発揮されていた。


「くっ……これは!?」

「今回は爆発の性質を付けてみたよ。自分の体じゃ無い分、思う存分使えるね」


 改魔功・・、それはオーラに触れたものを相手の抵抗力次第で強制的に変質させてしまうという、かなり禍々しい感じの武技。

 だがまあ、使い方さえ間違えなければ御覧の通り、あらゆる状況に対応できる。
 デメリットは……まあ、変質を一種類マスターするだけでも非常に面倒なことぐらい。

 爆発の他にも、切断属性を付与したり相手の動きを止めるなど、いろいろできるが……そういうのって、別のことで代用しやすいので、あんまり要らないんだよな。

 何より、魔功は自分を事前に変質させる文とは違う魔力で保護していないと、自他両方に影響を及ぼすため厄介なのだ……この両立ができる者が、意外と少ない。

 お嬢(仮)も、最低限【人物創者】に就くのであれば人形経由でこれを使いこなせるぐらいの技量を得てもらいたかった。

 人を操り、物を人のように操れる。
 そんな【人物創者】にとって、三つの身力の融合版である丹力を人形で生成することすら簡単な作業でしか無いからだ。


「制限時間は……うん、増えてるからまだまだあるね。ほらほら、早く終わらせないと一日の[ログイン]制限が終わっちゃうんじゃないかな?」


 この後も彼女たちは、必死に生き残るべくあの手この手とさまざまな手を打ってくる。
 だがしかし、終ぞ砂時計の砂がすべて落ちきることは無かった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 疲労困憊で地面に倒れる三人。
 特に最後の方は、徹底して苛め抜いたので花子(仮)ですら本気で疲れていた。


「ここでメルちゃんのスペシャルマッサージでもやれば一発なんだけど、それはもう少し距離が縮まってからにするとして……今から反省会をします!」

「こ、この状態でですの?」

「オフコース! みんなに何が必要なのか、それを話し合っていこうじゃないか! もちろん、花子(仮)ちゃんも積極的に意見を言わないとダメだよ」

「……どうせ逃げられないんでしょ?」


 まあ、俺というかレンの迷宮の中だし、逃亡はお勧めしないぞ?
 ──先ほどまでとは比べ物にならない、地獄を体験することになるだろうからな。


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