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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者とキャリアチェック その15

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 第四世界 迷宮『静寂の黄金畑』──派生『遷転の白銀郷』


 色鮮やかに光り輝く大地。
 それらが突如として眼前に広がったとき、人々はどのような反応を示すだろうか。

 ……ただ、注釈をつけるのであれば、すでに一度同じような光景を見ているのだが。


「ここは……前にも同じような場所が見たことがあるのですが」

「ここは『遷転の白銀郷』、前に行った黄金の方と違って、こっちは戦闘行為も想定した場所だよ──たとえばこれ」


 俺が指を鳴らすと、すぐ近くに魔法陣が出現してそこから魔物が登場。
 迷宮限定の種族、『素人○○ビギナーシリーズ』の魔小鬼デミゴブリン版だった。

 特徴としては、基本的に条件を達成しなければ殺せないことが挙げられる。
 なので、それらを調べながら攻略することで、通常より多めに経験値が貰えるのだ。


「花子ちゃん、攻撃してみてよ。ただし、クリティカルな攻撃以外で」

「……ハァ」


 溜め息をしながらも、拳銃剣を構え発砲。
 見事に魔物に命中するが……何事も無かったかのように、起き上がった。


「とまあ、こんな感じ。もう分かっていると思うけど、この子の場合はクリティカルなダメージを与えればそれでOKだよ。それじゃあ、もう一発お願い」

「…………」


 かなり冷ややかな目で俺を見た後、再び弾丸を発射……こちらに向けて。
 俺はただ何もしないでそれを見届ける──弾丸は途中で軌道を逸らして魔物に命中。

 そんな曲芸染みたことをしても、彼女の狙いは正確だった。
 急所に命中した際のエフェクトが発生し、素人魔小鬼は粒子と化す。


「分かってたの?」

「意味も無い時に、花子ちゃんはそういうことはしないってこれまでにいっぱい教えてもらったからね──と、こんな風に花子ちゃんが一気にレベルを上げたみたいに、ここの魔物はメタルシリーズぐらい上がるよ」

「メタル……金属がどうしましたの?」

「昔のゲームには、メタルやプラチナを冠した魔物に大量の経験値が入っていることが多かったんだ。いちおう今も続いているシリーズの作品だけど、まあAFOとは直接関係していないし気にしなくていいよ」


 企業と地味にコラボすることもあるが、そういえばどこかのゲーム会社とコラボしていたことは一度も無いな。

 運営主導のイベントで、彼らの意思が介入した個体が出ることはあったが……それでもまんまゲームのキャラ、みたいな感じなのは見たことが無かった。


「……ま、まあともあれ、これからみんなにはそうして戦闘でレベルを上げてもらう。特に、お嬢ちゃんは重点的にね」

「わ、分かりましたわ」

「自分で倒すだけじゃなく、人形でも同じことができるようにする。言うのは簡単なんだけど、やっぱりやってみるのは難しいことだからね──それじゃあ、始めようか」

「ちょ……これ──」
「し、師よ……これは──」


 花子(仮)とござる(仮)の前に現れたのは、お嬢(仮)の前に現れた先ほどと同じ個体──ではない。


「二人はまず、体験してみよう。頑張れば勝てる、そんな甘ったれた考えを葬り去れるような理不尽の権化を。そもそもね、強くなれば勝てる……なんて都合のいい相手だけじゃないんだから──『闇泥狼王ダークマドウルフキング』」

『良いのか?』

「うん、ここで死んでもデスペナ……彼女たちに不都合は無いから。そこの二人に体験させてあげて、魔物の底力を」

『──承知した』


 二人の前に立ちはだかるのは、俺がかつて出会ったとある狼たちの長。
 本来であれば『月の乙女』たちに倒されるところを、俺がこっそり救っていた。

 彼の魔物、そしてその配下たちは基本的に自由にさせているが、こうして時折頼みごとがあれば召喚している……子供たちに、いろいろと体験してもらうときなどにな。

 俺の指示で闇泥狼王は、さっそく二人に攻撃を仕掛ける。
 銃撃で抵抗する花子(仮)、リアル版忍術らしき攻撃を行うござる(仮)。

 ──しかしまあ、全然攻撃が通らない。


「じゃあ、お嬢ちゃんはさっそく人形を出して。糸を通して、動かしてみよう」

「……よろしいので?」

「うん、さっきも言ったけど、結局は二人とも経験不足だしね。ああ、お嬢ちゃんにはやらないよ? だって、お嬢ちゃんは絶対に諦めないでしょ? その心が折れなければ、少なくとも守りたいモノは守れるよ」


 肝が据わっている、とは少し違うか。
 お嬢(仮)は人形のために、身を挺することができるわけだ……それがここだけなのか向こうでもなのかは、また別の話だが。

 いずれにしても、相手が『超越種スペリオルシリーズ』でも同じように動くだろう。
 それを視て分かっているからこそ、彼女だけは普通に特訓を行うのだ。

 人形は[アイテムボックス]を取り出し、それを魔物由来の糸で自分の手と繋ぐ。
 魔力で糸を作るのもいいが、最初の内はこうした方がいい。


「そう、一本で操れるようになるのが理想的だけど、今回作った人形は今までの物よりも操作の自由性が高い分、一本で操るのは難しくなっている。だから最初は、部分ごとに繋いで操れるようになってね」


 今までよりも大きくなった分、魔力を通すのに時間と量が必要になっている。
 ここでなら、何度失敗しても問題ない──思う存分頑張ってもらいたい。

 あっ、花子(仮)とござる(仮)が殺られた……こっちもこっちで反省会だな。


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