2,319 / 2,519
偽善者とお仕事チェック 三十六月目
偽善者とキャリアチェック その14
しおりを挟むお嬢(仮)の身の上話を聞いた後、これからの『月の乙女』の予定を聞いたりした。
一先ず、より上位の職業に就けるよう励むことになったみたいだ。
──なお超・極級職のほとんどが、仮に就職条件を満たしてもすぐには就職できない。
条件達成後、特定の場所から向かえる専用の空間で試練を受ける必要があるのだ。
基本的には、神殿に置かれた転職用の水晶なので向かう……例外もあるがな。
「──それじゃあ、楽しい人形作りの御時間だよ。今回はゲストとして、素材集めをお手伝いしてくれたみんなも呼んでいます」
「どうしてですの?」
「人それぞれだよ。見たい人もいるし、実際に創りたい人も居るから。花子ちゃんなんかは、自分も職業経験値を稼ぐのに、私を利用しているわけだね」
「そういうこと。気にしなくていいから」
なお、ござる(仮)も参加しており、彼女の場合は変わり身用の媒介を希望している。
大きい方が注意を引くのに便利なので、段階を踏んで作れるようにするそうだ。
「それじゃあ、みんなで頑張ろう!」
『…………』
「それじゃあ、みんなで頑張ろう!」
『……おー』
なんてくだらないやり取りの後、人形作りが始まる。
俺もそこからは(容姿以外は)真面目モードになって、説明もしっかりとしていく。
「現実と違って、こっちにはスキルもあるからね。初めの内は、スキルの補正頼りでもいいから形を整えられるようにしてみてね」
「わ、分かりましたわ」
一番難しいことをやっているのは、木彫りのマネキン作りをしているお嬢(仮)だ。
これまでの過程で工具の扱いには慣れているのだが、大型の人形制作は今回が初。
まずはのっぺりとした人形だろうと、形を整えて作れるよう挑戦させている。
設計図とにらめっこしながら、部位ごとに作り上げて──合体させた。
「で、できましたわ」
「試作一号、なかなかいい出来合いだね」
「そ、そうでしょうか……」
「あー、うん。花子ちゃんは基本、何でもできる子だと思ってね」
やや荒れが見受けられる人形をやっとこさ完成させたお嬢(仮)を後目に、ほぼ完璧な形で人形を完成させた花子(仮)が、魔力の糸でそれを操っている。
可動部も自分で気づいて球体にしており、かなり滑らかな動きだった。
……止めてやりなさいな、お嬢(仮)の繊細なハートが砕けてしまうよ。
なお、ござる(仮)はスキルの補正も無いのでかなり苦労している。
それでも最初は彫刻刀で削る程度なので、大した助言をせずとも行えていた。
「さて、人形はとりあえず作れたし、ここからが本番だよ。少しずつ、持ってきてもらった素材も織り交ぜていくからね」
「も、もうですの? もう少し、練習をしてからの方が……」
「ううん、大丈夫。何か問題があれば、私の方でなんとかするから。お嬢ちゃんは、自分がどんなお人形を作りたいかを考えながら、心を籠めてやってみて」
「心を籠めて……ですの?」
付喪神みたいなもので、想いが強いアイテムにはやや微弱ながら補正が入る。
最たる例は……ちょっとアレだが、妖刀系の呪われた品々。
アレもまた、完成する過程で強すぎる想いが暴走して形を成している。
呪いの人形だって存在するのだ、決しておかしくはないだろう。
そんなわけで、強い想いを抱いてもらうために指示をしておいた。
それは思い入れの無い花子(仮)にはできない、お嬢(仮)だからできること。
◆ □ ◆ □ ◆
レア素材を時折こっそり突っ込んで、人形はどんどん高性能になっていく。
……その一つ一つを大切にする彼女に、俺は容赦なく次の指示を伝える。
「──じゃあ、次は合成だよ」
「……ごう、せい?」
「今のままじゃ、実戦に耐え得る性能にはならないからね。ほら、最初の人形なんて何にも上質な素材を使ってないわけだし。人形同士を合成すれば、幾分かマシに──」
「お断りですわ!」
バッと人形の前に立ち、手を広げて守ろうとする姿は母親そのもの。
眼を切り替え、視てみると分かる……やはり、俺の眼に狂いは無かった。
「もし、どうしてもというのであれば……私が相手になりますわ!!」
「…………へぇ、本気で言っているの?」
「ッ! ……と、当然ですわ!」
殺気(十分の一)を送っても、お嬢(仮)は変わらず立ち続ける。
花子(仮)もござる(仮)も座り込んだのに、お嬢(仮)だけは意思で立ったままだ。
「ふぅ……よし、じゃあ次の作業を説明するよ。人形同士の合成は無し、代わりにこれまでの人形を強化するプランに変更するよ」
「い、いいんですの? このままで、この子たちを、そのままにしていても」
「うん、今のはお嬢ちゃんの覚悟が知りたいがための確認だったからね。私のやり方が一番効率的だし、実際花子ちゃんでもこのやり方だと思うよ? でも、お嬢ちゃんが嫌だというのなら、私はそれに従うだけ」
俺の眼──魂魄眼はたしかに視た、宿りつつある人形たちの僅かな意思の欠片を。
想いが強過ぎるが故の結果だ、どうせならそれを活かした方が面白くなりそうだ
「それでも合成はするよ? ただし、人形自体はそのままに素材を追加していくやり方。これならお嬢ちゃんの作った人形のままだから、安心だよね? これで平気かな?」
「! は、はい……それで構いませんの」
「了解。じゃあ、ちょっとだけやることが増える分、追加の授業をするよ。難しいこともあるけど、ちゃんとついてきてね」
「もちろんですわ! 私をいったい、誰だと心得ていますの?」
マッチポンプ感が否めないが、やる気がさらに強まったようで何よりで。
それから一時間ほど経過して……実戦に耐え得るレベルの人形が完成するのだった。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる