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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者とキャリアチェック その14

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 お嬢(仮)の身の上話を聞いた後、これからの『月の乙女』の予定を聞いたりした。
 一先ず、より上位の職業に就けるよう励むことになったみたいだ。

 ──なお超・極級職のほとんどが、仮に就職条件を満たしてもすぐには就職できない。

 条件達成後、特定の場所から向かえる専用の空間で試練を受ける必要があるのだ。
 基本的には、神殿に置かれた転職用の水晶なので向かう……例外もあるがな。


「──それじゃあ、楽しい人形作りの御時間だよ。今回はゲストとして、素材集めをお手伝いしてくれたみんなも呼んでいます」

「どうしてですの?」

「人それぞれだよ。見たい人もいるし、実際に創りたい人も居るから。花子ちゃんなんかは、自分も職業経験値を稼ぐのに、私を利用しているわけだね」

「そういうこと。気にしなくていいから」


 なお、ござる(仮)も参加しており、彼女の場合は変わり身用の媒介を希望している。
 大きい方が注意を引くのに便利なので、段階を踏んで作れるようにするそうだ。


「それじゃあ、みんなで頑張ろう!」

『…………』

「それじゃあ、みんなで頑張ろう!」

『……おー』


 なんてくだらないやり取りの後、人形作りが始まる。
 俺もそこからは(容姿以外は)真面目モードになって、説明もしっかりとしていく。


「現実と違って、こっちにはスキルもあるからね。初めの内は、スキルの補正頼りでもいいから形を整えられるようにしてみてね」

「わ、分かりましたわ」


 一番難しいことをやっているのは、木彫りのマネキン作りをしているお嬢(仮)だ。
 これまでの過程で工具の扱いには慣れているのだが、大型の人形制作は今回が初。

 まずはのっぺりとした人形だろうと、形を整えて作れるよう挑戦させている。
 設計図とにらめっこしながら、部位ごとに作り上げて──合体させた。


「で、できましたわ」

「試作一号、なかなかいい出来合いだね」

「そ、そうでしょうか……」

「あー、うん。花子ちゃんは基本、何でもできる子だと思ってね」


 やや荒れが見受けられる人形をやっとこさ完成させたお嬢(仮)を後目しりめに、ほぼ完璧な形で人形を完成させた花子(仮)が、魔力の糸でそれを操っている。

 可動部も自分で気づいて球体にしており、かなり滑らかな動きだった。
 ……止めてやりなさいな、お嬢(仮)の繊細なハートが砕けてしまうよ。

 なお、ござる(仮)はスキルの補正も無いのでかなり苦労している。
 それでも最初は彫刻刀で削る程度なので、大した助言をせずとも行えていた。


「さて、人形はとりあえず作れたし、ここからが本番だよ。少しずつ、持ってきてもらった素材も織り交ぜていくからね」

「も、もうですの? もう少し、練習をしてからの方が……」

「ううん、大丈夫。何か問題があれば、私の方でなんとかするから。お嬢ちゃんは、自分がどんなお人形を作りたいかを考えながら、心を籠めてやってみて」

「心を籠めて……ですの?」


 付喪神みたいなもので、想いが強いアイテムにはやや微弱ながら補正が入る。
 最たる例は……ちょっとアレだが、妖刀系の呪われた品々。

 アレもまた、完成する過程で強すぎる想いが暴走して形を成している。
 呪いの人形だって存在するのだ、決しておかしくはないだろう。

 そんなわけで、強い想いを抱いてもらうために指示をしておいた。
 それは思い入れの無い花子(仮)にはできない、お嬢(仮)だからできること。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 レア素材を時折こっそり突っ込んで、人形はどんどん高性能になっていく。
 ……その一つ一つを大切にする彼女に、俺は容赦なく次の指示を伝える。


「──じゃあ、次は合成だよ」

「……ごう、せい?」

「今のままじゃ、実戦に耐え得る性能にはならないからね。ほら、最初の人形なんて何にも上質な素材を使ってないわけだし。人形同士を合成すれば、幾分かマシに──」

「お断りですわ!」


 バッと人形の前に立ち、手を広げて守ろうとする姿は母親そのもの。
 眼を切り替え、視てみると分かる……やはり、俺の眼に狂いは無かった。


「もし、どうしてもというのであれば……私が相手になりますわ!!」

「…………へぇ、本気で言っているの?」

「ッ! ……と、当然ですわ!」


 殺気(十分の一)を送っても、お嬢(仮)は変わらず立ち続ける。
 花子(仮)もござる(仮)も座り込んだのに、お嬢(仮)だけは意思で立ったままだ。


「ふぅ……よし、じゃあ次の作業を説明するよ。人形同士の合成は無し、代わりにこれまでの人形を強化するプランに変更するよ」

「い、いいんですの? このままで、この子たちを、そのままにしていても」

「うん、今のはお嬢ちゃんの覚悟が知りたいがための確認だったからね。私のやり方が一番効率的だし、実際花子ちゃんでもこのやり方だと思うよ? でも、お嬢ちゃんが嫌だというのなら、私はそれに従うだけ」


 俺の眼──魂魄眼はたしかに視た、宿りつつある人形たちの僅かな意思の欠片を。
 想いが強過ぎるが故の結果だ、どうせならそれを活かした方が面白くなりそうだ


「それでも合成はするよ? ただし、人形自体はそのままに素材を追加していくやり方。これならお嬢ちゃんの作った人形のままだから、安心だよね? これで平気かな?」

「! は、はい……それで構いませんの」

「了解。じゃあ、ちょっとだけやることが増える分、追加の授業をするよ。難しいこともあるけど、ちゃんとついてきてね」

「もちろんですわ! 私をいったい、誰だと心得ていますの?」


 マッチポンプ感が否めないが、やる気がさらに強まったようで何よりで。
 それから一時間ほど経過して……実戦に耐え得るレベルの人形が完成するのだった。


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