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偽善者とお仕事チェック 三十六月目
偽善者とキャリアチェック その10
しおりを挟むクラーレを眠らせ、一人目的地へと移動する俺……彼女が選ぶ道、それは果たしてどういったものなのやら。
「まっ、考えていても仕方ないけどね。できる限りの対策を用意して、そのときに万全の対応をするだけだよ」
眷属からはやり過ぎとよく言われるが、それで済むなら結構。
……たとえそれが誰かの不自由に繋がろうとも、俺の自由の犠牲になってくれ。
「──はい、というわけでお待たせ! 面接の続きの時間だよ!」
『…………』
「あっれれ~、返事が無いぞ~? ってやるのも面倒だし、早く始めようか。それじゃあ二人とも、真面目な話をしようか」
入室した俺を迎えるのは、ござる(仮)と花子(仮)。
彼女たちの冷ややかな目を受け流し、少しだけ力を解放。
『っ……!』
「どれだけスキル、職業、技術といったもので強くなっても、それ以上にレベルというシステムがこの世界ではモノを言う。多分、私が祈念者の中では、一番レベルが高いんじゃないかな?」
「……師のレベルは?」
「四桁だよ。まあ、職業の方は実質0なんだけどね。みんなは種族と職業、両方とも育てていけばその分だけ強くなるわけだし、私よりも強くなれると思うよ──いつかはね」
圧倒的な[ステータス]の差は、彼女たちから反抗の意思を奪う。
これこそが、花子(仮)にとってももっとも嫌う理不尽──抗いようのない敗北。
だからこそ、会話にも入らずどうにか抵抗できないか挑んでいる。
理を上手く利用し、強くなれば必ず抵抗できるだろう……まあ、俺も強くなるけど。
「さて、と。二人の進路についての話をしようか──まずはござるちゃん」
「はっ」
「最初の渡した予定は、とりあえず後回しにしてね。使うかどうかはござるちゃん次第にして、これからの予定は──これだね」
渡した資料はペラペラだった一枚目と違って、分厚い本のような代物。
ござる(仮)はそれを受け取り、まずはその題名に目を通す。
「──『異界忍者への道』?」
「この世界の【忍者】は、ファンタジー要素が多いからね。職業的に存在していないんだけど、スキルにはあるんだ。そういうこっちには無い技術を体現したものが。私も異界柔術スキルってのを持っているし」
「……つまり、異界忍術と呼べるスキルもまた存在すると?」
「私の眼が確認したからね。うん、間違いなく存在するとお知らせするよ」
俺との繋がりが薄いからか、スキル結晶の用意はできなかったのだが。
……柔術は柔術で、調べられる範囲調べていたからな。
「だからござるちゃんには、まずはスキルの習得を目指してもらうよ。それから職業の方もどうにかならないか、その辺りをゆっくりと探していこう」
「…………師よ」
「ちゃんと現実の技術を、スキルとしても活かせるようにしておきたいからね。それならそっちの人たちも何も言わないでしょ?」
まあ、俺にできるのはこれくらいだ。
あとは彼女次第、俺が関われることではないからな……そして、彼女一人に注力できるわけでもない。
「さて、花子ちゃん。貴女にはそもそも、順当に【初心者】からいろんな職業を育ててもらう予定だったんだけど……うん、今の花子ちゃんには不要だよね。とーっても、頑張っているようで何よりです」
「~~ッ! さ、触るな!」
「あははっ、ごめんごめん。それじゃあ、当初のプランは中止にしてっと。はい、できるところまで花子ちゃんが職業とその恩恵を極めることができたら──こっちを選んでね」
「……。……燃やす」
花子(仮)に渡したのは、『ドキッ! 世界最強の職業だった私、無職になって追放されました。~今さら返ってこいと言ってももう遅い、無職チートで無双します~』だ。
うん、あまりに古いセンスだろう。
ただ花子(仮)よ、一通り速読してから言うことじゃないと思うぞ。
なお、小説っぽいものも暇だったので少しだけ書いてある。
ただ最後の辺り、『続きは自身の手で描こう』と書いたが故の感想だろう。
「で、これは何?」
「一定期間無職のままじゃないと、満たせない条件もあるんだ。だから、それ云々とその先に必要そうな条件を書いてあるよ。残念だけど、これは明確な情報が無いから、やるかどうかは花子ちゃん次第だけど」
前例がまったく無いからな。
ただまあ、夢現祭りの時に出会った祈念者が、ちょうど無職経由で就くことのできる職業に就いていたので可能性が視れた。
おそらく、花子(仮)がいっさいシステムに頼らない道を選んでいたら、最初から就いていたであろう職業なのかもしれない。
開始早々離職する、あるいは初期設定時から拒否するなどすれば可能ではある。
枠を空けておくというのも、別にできないわけじゃないからな。
「それでどうする? やる、やらない?」
「…………………………やる」
「よし! それじゃあ面談はこれで終わり、一先ずは解散!」
予定を組むなど、話をした全員に時間が必要だろう。
だから続きは明日にするわけだ…………まだ終わってないかって?
そりゃあ、終わったのは面談だしな。
面接はそれだけじゃない、それ以外にもやることは盛りだくさんだ。
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