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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者とキャリアチェック その08

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 改めて、花子(仮)のスペックについて説明しておくと──【経験者】で職業ストック数は無限、おまけに異能で目標を達成するための指針が何となく分かる。

 ……うん、創作物の主人公かってツッコミたくなるチート盛り盛り。
 対するは無才、無能、無職……と無を三つ極めた偽装妖女。

 圧倒的に紹介文では劣る物の、いちおう戦闘は有利に進んでいる。
 いかに最強の可能性を秘めたチートを持とうと、熟するまでには時間が足りなかった。


「もっとも勝率の戦い方をしたところで、勝てないものは勝てないんだよ」


 魔力を籠めて武器の形状を変化、盾になっていた球体が今度は杖を模った。
 ……まあ、どの形状だろうと魔力伝導率に関しては特段変わらないのだけれど。

 いかにも魔法を使います、といった俺の武器を見て訝しむ花子(仮)。
 杖を用いた武技もあるので、そちらの可能性も捨て切れないのだろう。

 俺が選ぶのは──魔法。
 杖によって通る魔力は一つに束ねやすくなり、なおかつその制御もやりやすくなる。
 そうして、発動させたのは──


「──“自動詠唱スペル”!」

「! ……?」

「どう、驚いた? これから何か起きる、みたいなことは無いから安心して。ただ、少しだけ頑張ってね──“火槍ファイアランス”」


 基本属性の中で、もっとも文字通り火力の高い火属性の魔力で構築された槍。
 普段から、詠唱をしないで発動させているが……今回の“火槍”はいつもよりデカい。

 そして、違いは大きさだけでは無かった。
 魔力の収束性──要は安定度も普段以上であり、何よりも消費する魔力が普段よりも少なくて済んでいる。


「さっきの魔法……!」

「そう、正解。“自動詠唱”は読んで字のごとく、魔法の詠唱を自動的に処理してから発動してくれるんだ。維持に掛かる魔力は少しだから、詠唱を破棄して構築するよりもお安いうえに扱いやすい形で発動できる」


 本来、祈念者が[メニュー]画面を操作すると選択肢に存在する[魔法]という画面。
 押せば自分が使うことのできる魔法がすべてリストアップされ、詠唱文も表示された。

 そして、画面を操作することで、魔法の発動に至るプロセスを代理で行ってくれる。
 最終的な発動は結局自分でやるのだが、武技を体が勝手にやるような感覚だろうか。

 アルカの【思考詠唱】も、[メニュー]操作を思考で行った果てに最後は[魔法]画面から魔法を発動させる……という一連の流れが、固有スキルとして昇華させたものだ。

 ──ここからが本題である。

 祈念者はそういった理屈が付くが、俺のスキル共有で自由民の眷属が用いても、思念による詠唱は成り立っていた。

 前提が満たされていないというのに、それは何故なのか……調べている過程で見つけた理論を基に開発されたのが、“自動詠唱”を含む[メニュー]系の権能の代用魔法だ。

 あくまでも、[メニュー]に内包された機能の大半は祈念者のアバター──つまりは魄に紐づけされたものに過ぎない。

 言うなれば種族共通の能力、その仕組みさえ理解できれば再現は可能。
 そんなアホ理論を眷属が真面目にやってくれた結果、その魔法は開発されたのだ。


「“焦光スコーチライト”、“集光コンデンス”、“光線レーザー”!」

「っ……!?」


 高熱を発する光を生み出し、それらを収束させ──放射する。
 単純な三つの魔法の組み合わせだが、すべてが詠唱済み扱いとなって性能を強化。

 文字通り、光の速さで飛んでくる光線を、花子(仮)はやや危うさを以って回避。
 挙動が歪だったので、おそらくはスキルか武技を使っての緊急回避だろう。

 そうせざるを得ないと思わせるほど、先ほどの魔法は強かったわけだ。
 ふふんっと胸を張り、杖をぶんぶんと振り回しながら語る。


「とまあ、真っ向から勝負しなくても、私の方がまだ強いよ……うん、まだね。順当に成長していけば、誰だって私に勝てる。ある程度見たいものも見たし、そろそろ終わりにしようかな──“持続回復ヒーリング”」


 回復魔法の一つで、一定時間継続的に回復が施されるまんまリジェネ。
 今まで受けていた弾丸で、俺は大した攻撃など受けていない。

 では、何故このタイミングでそんな魔法を使うのか──それを実演するべく、体内の魔力を一気に高める。

 すぐさまそれを感知し、妨害するように今まで一番威力のある魔法弾が連発。
 武技も使っているのか、散弾だったり追尾弾だったり多種多様だ。

 それでもシンプルかつ静謐に起動した身体強化は、俺の肉体を内部から破壊することと引き換えに、限りなくゼロに近い速さでの移動を可能にした。


「“映像撮影カメラ”……うん、とっても可愛い顔だよ」

「~~~~ッ!!」


 持っていた杖は短剣になり、花子(仮)の首筋に突きつけられる。
 解体スキルを持つ俺の攻撃なので、薄皮一枚裂いた部分からツーッと血が流れ出た。

 周囲がドン引きしている気もするが、こうでもしない限り勝てなかっただろう。
 つまり分かっていても防げない挙動、肉体破壊レベルの加速で突進したわけだな。


「はい、それじゃあ終了! ござるちゃんと花子ちゃんは、さっきの部屋に戻ってね。改めて、二人にはお話があります! それ以外のみんなは解散! 今回の試合を見ての感想とか、そういう話でもしててね!」


 武器を仕舞い、この部屋から移動する。
 背後では双拳銃剣を落とした花子(仮)が膝を折っているようだが……それを俺が見るわけにはいかないからな。

 また、クラーレがジッとこちらを観ているのも何もできない理由。
 とりあえず目で合図をして、そのまま退室することにした。


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