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偽善者とお仕事チェック 三十六月目
偽善者とキャリアチェック その07
しおりを挟むただマニュアル制御だけが、戦術のすべてではない。
そう教えつつ、花子(仮)の成長っぷりを直に見て判断している俺(妖女)。
双拳銃剣を操る花子(仮)、注意すべきは攻撃方法に加えて銃弾の種類も含まれる。
いかにも器用そうな彼女だからこそ、難易度の高い武器を使いこなしていた。
「でも、花子ちゃんならもっといろんな武器が使えるはずだよね? どうしてそれを選んだのかな?」
「…………」
「うーん、これも教えてくれないのかぁ。それじゃあ──教えてたくなるまで攻撃だ!」
「っ……!」
二つの拳銃型の銃剣という、ロマン武器を使っている花子(仮)。
遠距離だけでなく、ガン=カタや双剣の要領で接近戦も行える。
彼女が持ち得る力すべてを使えば、俺を追い詰めることなど容易いだろう。
……だが、まだ花子(仮)は全力も、ましてや本気など出していない。
抵抗するように弾丸の雨を降らすのだが、それらは擬似魔眼の視力強化で魔力弾/魔法弾/実弾を見抜けば対処は簡単だ。
身体強化で体を保護、ティルの限りなく高みに近い剣技を凡庸な身で再現する。
一番厄介な魔法弾も、内部に籠められた術式の核を的確に斬ることで無効化していく。
また、その中身もある程度把握した。
属性は火・水・氷・風・雷・土・無の七種類、そしてそれは時折射出される魔力弾と同じ属性である。
つまり、花子(仮)は自身の保有する属性魔法と同じ弾丸しか所持していない。
あるいは隠しているかだが……おそらく、そうではないと俺の勘が告げている。
「ねぇ、花子ちゃん。これだけは応えてほしいんだけど──弾丸、自分で作った?」
「…………そうだけど」
「やっぱり! うんうん、【経験者】があればできるもんね。そりゃあ、花子ちゃんならできるよね」
「……チッ」
花子(仮)は騒動イベントの時、他のメンバーに比べて明らかに経験値を稼いで初期戦闘職六つのレベルをカンストしていた。
期間はそのときに比べてもかなりある。
彼女は時間を掛けて多くの職業をカンストさせ、【経験者】の中に格納していったのだろう。
そして、その中には弾丸生産に特化した職業も組み込まれているように思える。
自作の魔法弾、そして極めて珍しい双拳銃剣……つまりはそういうことだ。
「──すべてを一人で行う、誰にも頼らないで目的を果たすために。花子ちゃん、今の貴女が目指すものって、それ?」
「…………」
「まーた無言。うんうん、それならそれでそういう風に評価させてもらうよ。さすがは花子ちゃん──【強欲】だね」
「ッ……!」
次に放たれた弾丸には、これまでと違って少しだけエフェクトが載っていた。
いっさいの言葉を発さず、武技を発動させた……ふむ、やはり逸材だな。
途中で弾丸が増えたので、そういう用途の武技なんだろうと判断。
剣に魔力を注ぎ込むと同時に、イメージを送信──形状を盾に変化させる。
「──“的確盾守”」
元より半手動なこの武技は、攻撃が当たるというタイミングで精気を流し込むことで、そのダメージをほぼ0にする効果を持つ。
なので、弾丸が着弾しそうになる度に、精気を流し込み攻撃を無効化。
非常に神経を使う作業だが、できないわけでは──ここで背後から殺気。
「──“致命死守”」
「な、んで……」
「なんでって言われても……殺気がね」
銃剣を差し込もうとしてきた花子(仮)に対し、再び武技を発動。
弾丸を防ぎ切って油断していた俺に、即死になり得る攻撃を放とうとしていたらしい。
そこで使ったのは、そんな致命的なダメージだった場合に限り防ぐことができる武技。
普通の攻撃だった場合、逆にダメージを受けるのだが……ある意味彼女の才に感謝だ。
「とまあ、武技を使うのも別に悪いわけじゃないんだよね。その点、花子ちゃんはきちんと理解している。うんうん、なりふり構っていられなくなったのかな?」
「~~~~ッ!!」
新人たちを観察していた際、花子(仮)に視た異能。
それは『目的補正』とも呼ぶべきもので、行動の指針が分かるという代物だった。
自分がやるべきもの、つまり目的を明確に定めることで、そこに至るまでのルートが分かるというものだ……まあ、フローチャートが脳裏に浮かぶ感じだろうか。
もちろん、分かってもできなければ意味が無いのだが、それができてしまうからこそ、花子(仮)はあんな感じでスレていた。
それでも、【初心者】やら【経験者】に至る間には、割と使っていたのだろう。
そして今回、弾丸の選択や先ほどの一連の動作などでも、勝つために選んでいたはず。
「たとえ分かっても、それだけじゃ勝てない相手もいる。強い魔物だったり、人だったり居たはずだよ? もちろん、正攻法じゃなければ勝つ手段も分かったかもしれない……けどそれ、花子ちゃん的には逃げだよね?」
大抵のことはやることができた。
できないことでも、自身の異能が示す通りに行えばできてしまう。
そんな彼女だからこそ、無理難題を乗り越えようとしているのだ。
そして今、俺という存在を倒すために異能が全力で道を指し示しているはず。
ならば、応えてみせよう──手を尽くしてもなお届かない、高い壁があるのだと。
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